劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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200話目です。結構続いたな……


蛇の巣穴での遭遇

 エリカが愚痴った直後とも言えるタイミングで、千葉寿和がキョロキョロと辺りを見渡して震え上がった。

 

「警部、どうかしたんですか?」

 

「いや、ちょっと悪寒が……」

 

「こんな忙しい時に仮病になんかかからないでくださいよ?」

 

「仮病にかかるって……」

 

 

 年上の部下の嫌味に、千葉警部は顔を顰めた。「仮病にかかる」なんて表現は嫌味の他ないのだから。

 

「それにしてもこれだけ聞き込んでも目撃者が出てこないなんて」

 

「目撃者は居るさ。ただ口を割らないだけ」

 

 

 飄々と言ってのける千葉警部の顔を、稲垣警部補は怖い顔で見た。何か確証でもあるのだろうかと思っての表情なのだが、千葉警部はその視線を浴びても態度は変えなかった。

 

「では如何します? まだ聞き込みを続けますか?」

 

「いや、ここはスペシャリストにでも頼もうか」

 

「スペシャリスト……ですか?」

 

「ほら、「蛇の道は蛇」って言うだろ? だから蛇の巣穴にでも足を踏み入れようって事だよ」

 

「違法捜査すれすれですね」

 

 

 再び怖い顔をした稲垣警部補を見て、今度は少しおどけて見せた千葉警部。いい加減に見られがちだが、彼は意外と真面目に仕事はこなすのだ。

 

「これくらい許容範囲だろ? それに、そんな事言ってられる場合じゃなくなって来てるし」

 

「そうですね」

 

 

 覆面パトカーに乗り込み蛇の巣穴へと向かう二人の刑事。稲垣警部補はその場所を知らない為に運転は千葉警部が担当する事になるのだが、一件の喫茶店前で車を停めた千葉警部を、稲垣警部補は呆れた視線で見つめていた。

 

「警部、蛇の巣穴を訪ねるんじゃなかったんですか? サボるには早すぎますよ」

 

「おいおい、別にサボろうって訳じゃないって。此処がその蛇の巣穴なんだよ」

 

「え?」

 

 

 先に車を降りた千葉に慌ててついていく稲垣。ロックを掛けて喫茶店へと入る前に、千葉は少し補足しておいた。

 

「別に蛇の巣穴と言っても、ここのマスターには犯罪歴は無いから。ただちょっと人より情報の網を張っている範囲が広いってだけだよ」

 

「……つまり我々にも尻尾をつかませない大物という事ですか?」

 

「大物と言うよりは職人って感じだろうね」

 

 

 そんな事を言いながら蛇の巣穴、『ロッテルバルト』に足を踏み入れた刑事二人。ランチタイムを過ぎているからか店内は閑散としていたが、カウンター席に一人の女性が居るのを千葉も稲垣も確認していた。

 

「随分と綺麗な人だな」

 

「警部、此処には捜査で来てるんですからナンパは止めてください」

 

「失礼だね君は」

 

 

 小声でそんな事を話しながら千葉はマスターに情報を尋ねる。もちろんコーヒーを注文してからだ。

 真剣に情報を入手しようとする稲垣とは違い、千葉は先ほど見た女性が気になって集中出来ていない。もちろんジッと見るような事はしないのだがチラチラと窺い見るような動作が先ほどから数回見られた。

 その動作に気付いたのか、女性がクスクスと笑い出したのが千葉にも稲垣にも不思議に思えたのだった。

 

「ゴメンなさい。何時声を掛けてくれるのか待っていたのですが。女性は苦手ですか? 千葉の御曹司」

 

 

 寿和は千葉の御曹司だという事を隠してはいない。だが顔が知られているのは弟の修次の方だと思っていた。

 普通に生活しているのであれば、自分が千葉の人間だと知られる事は無い。だが目の前の女性は自分が千葉の人間だという事を知っていた。それを知っているのは犯罪者か警察関係者、あるいは特定の世界に身を置く人間――すなわち実戦魔法に生きるものだ。

 

「貴女は……」

 

「始めまして千葉寿和警部。藤林響子と申します」

 

 

 千葉は驚きのあまり絶句した。目の前に居る女性が古式魔法の名門、藤林家の令嬢にして、現在日本魔法界の長老である九島烈の孫娘だったからだ。そしてその女性が屈託の無い笑みを浮かべていたので、見蕩れてたのも同時に少しだけあったと稲垣は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也たち八人が揃って校門を出るのは実に久しぶりだった。それぞれ忙しくなったのだが、特に達也は論文コンペの準備や風紀委員の仕事などで忙しさの度合が違ったのだ。

 

「達也さん、論文コンペの準備は終わってるんですか?」

 

 

 八人で帰るのが久しぶりでも、毎日生徒会の仕事を一緒にして、帰りも深雪と一緒のほのかはほぼ毎日達也と駅まで一緒だったのだ。

 

「一段落って感じかな。リハーサルとか発表で使うデモ機の調整とか細々としたのは残ってるけど」

 

「大変そうね。そういえば美月のところが手伝ってるんだっけ?」

 

「えっうん。二年の先輩がね。私は何もしてないよ」

 

「五十里先輩が中心で模型作りをしてるからな。自然と二年が集まるんだろう」

 

「ふ~ん……じゃあ達也は何をしてるんだ?」

 

 

 レオが質問したが、周りを見れば全員が気になってるのはすぐに達也には分かった。

 

「俺はデモ用術式の調整だ」

 

「普通逆だと思う」

 

 

 誰もが思ったツッコミを真っ先に入れたのは雫だった。

 

「まぁ……確かに啓先輩は『魔法使い』っていうよりも『錬金術師』みたいなイメージがあるし適材適所かもね」

 

 

 首を捻った達也に、苦笑い交じりでエリカが同調した。

 

「錬金術師? RPG?」

 

「その喩えでいくと達也さんは何になるのかな?」

 

 

 首を捻った雫に続いた美月の問いは――

 

「そりゃマッドサイエンティストでしょ」

 

「それRPGじゃないよ」

 

「じゃあ人里離れた山奥で秘術を伝授してくれる世捨て人の賢者」

 

「賢者っつーには武闘派だけどな」

 

「そこは素直に魔王とか」

 

「いやいや、一緒に魔王を倒したあと実は俺様黒幕だぜ~と主人公の前に立ちはだかるラスボスなんかお似合いじゃねぇ?」

 

「何でみんな勇者様って発想が無いの?」

 

「良いんだほのか。俺には正義の使者なんて似合わないからな」

 

「お兄様、力こそ正義です」

 

「でた、魔王の妹」

 

 

――このように大盛り上がりな展開を引き起こしたのだった。

 

「冗談は兎も角、やっぱり啓先輩が模型作りで達也君が術式の調整の方が合ってるとアタシは思うな」

 

「でも確かに五十里先輩はハード調整が得意だって言ってたし、達也さんはどっちも出来るから術式調整を担当した方がスムーズには行くのかもね」

 

「大体達也が担当したら人だかりが出来て模型が壊れるんじゃね?」

 

 

 レオがこぼした疑問に、達也は苦笑いを浮かべたのだが他の六人が妙に納得して頷いた為に、達也は襲い来る頭痛に悩まされたのだった。




もっと響子にも達也との絡みを持たせたい……

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