学生らしい(?)盛り上がりをしていながらも達也は警戒を怠っては居なかった。行きつけの店へ続く小路で後ろから尾けてくる気配に振り返らずに注意を向けた。
「ちょっと寄ってかないか?」
寄り道をして尾行を撒こうとして達也は提案したのだが、深雪、ほのか、雫は純粋に寄り道に賛成したのだった。
「お兄様が誘って下さるなんて珍しいですね」
「達也さんだって偶には息抜きしたいのよ」
「それじゃあ行こう」
三人で達也の隣を取り合うようにして行きつけの喫茶店「アイネブリーゼ」へと入っていく。その背後ではレオ、エリカ、幹比古が別の思惑がありそうな表情をしているのに達也だけが気がついていた。
「三人共嬉しそうですね」
「そうね。達也君は明日からまた忙しくなっちゃいそうだしね」
「仕方ネェだろ。俺たちだってゆっくりしたかったし丁度良いだろ」
「まぁお茶くらいなら大丈夫だと思うよ」
「何の話です?」
一人状況を理解していない美月は、疎外感を覚えながらもそれ以上追及はしなかった。
残念ながら何時もの四人掛けのテーブル席二つは他の客が使用していたので、達也たちはカウンター席とカウンターに一番近いテーブル席の二手に分かれた。ちなみにカウンター席には達也、深雪、ほのか、雫が座り、テーブル席には幹比古とレオ、エリカと美月が向かい合うように座った。
「いらっしゃい、相変わらずモテモテだね達也君」
「マスターだって髭を剃ればモテモテですよ」
モテモテなどという死語をあえて使い達也が反撃をした。もちろん知り合い同士の冗談なのだが、一人その冗談に気付けなかった少女が居た。
「そうですよ。マスターの髭はもったいないです。老けて見えますよ」
「老け……容赦ないね美月ちゃん」
そうガックリと肩を落としながらマスターは灰色の髭を撫でる。髪も髭も灰色なのは生まれつき、マスターにはドイツの血が四分の一流れているのだ。
ちなみにこの店に通いだしたのも、レオが親近感を覚えての事なのだ。
「最近はご無沙汰だったけど、忙しかったのかい?」
「達也さんが論文コンペの代表に選ばれまして、その準備とかで」
「私たちも生徒会の仕事で忙しかったですし」
「へー達也君論文コンペに出るのかい。一年生なのに凄いね」
マスターは魔法の才能こそ無いが、魔法科高校の通学路に店を構えるだけあって魔法協会については結構詳しい。そのマスターが達也の事を割かし本気で褒めた事に、達也では無く深雪が嬉しそうに笑みを浮かべた。
「今年の会場は横浜だっけ?」
「そうです」
「もし時間があるのなら実家の方にも寄ってくれると嬉しいな。山手の丘の中程にある喫茶店『ロッテルバルト』ってところだから」
「ご実家も喫茶店なのですね」
達也が相槌を打ちながらコーヒーを啜った。他のメンバーはそれにお菓子などと食べて楽しむのだが、達也は純粋にこの店のコーヒーが気に入ってるのだ。
「達也君にこの店と実家のどちらのコーヒーが美味しいか忌憚無い意見を言ってもらえると嬉しいな。僕は親父を超えたのか達也君ならしっかりとした判断が出来るだろうし」
「随分と商売上手ですね」
達也につられるようにマスターも苦笑いを浮かべた。魂胆見え見えな提案だったのだが達也がそれを理解した上でこの表情を浮かべたのでマスターもホッとしたのだろう。
「エリカちゃん?」
「ちょっとお花を摘みに」
エリカが立ち上がってすぐに、今度はレオがポケットを押さえながら立ち上がった。
「ワリィ電話だ」
「レオ君も?」
二人も席を立った事に美月は首を傾げ、斜め向かいで幹比古が何かメモのようなものを書き始めたのも気になっていた。
「幹比古は何をしてるんだ?」
「ちょっと思いついた事をメモしておこうかと思ってね」
「そうか……あまり目立たないようにするんだな」
何もかも見透かしたようにそれだけ言い、達也は再びコーヒーを啜った。深雪は何となく理解してそうな表情だったが、ほのか、雫、美月の三人は何をしようとしてるのかさっぱりだった。
裏口から外に出たエリカは、尾行者に声をかけた。
「ねぇオジサン、あたしと『イイコト』しない?」
「もう少し自分を大事にした方が良いぞ」
誰が見ても美少女だと評価するだろうエリカに声を掛けられ、尾行者は若干未練が見て取れる表情でそう言ってきた。
「あたしは『イイコト』って言っただけで、オジサンは何を想像したのかしら?」
「大人をからかうんじゃない。そろそろ日も暮れるし寄り道なんてして通り魔に襲われたら如何するんだ?」
「へー通り魔ね」
「通り魔ってのはこんな事を言うのか?」
隠れていたレオが尾行者に向けて攻撃を放つ。エリカに集中してた男にその攻撃を防ぐ術は無くあえなく吹き飛ばされた。
「通り魔ってのは『「通」りすがりの「魔」法師』の事を言うのよね」
「怖ぇ女だな」
思いっきり放った殺気にレオがおどけてそんな事を言ってみせた。
「助けてくれ! 強盗だ!」
「うわぁ情けな」
「残念だがこの空間には他の人間は入ってこれねぇよ。でもその素早い反応は評価出来るな」
「入ってこれないどころかあたしたちに気づけないんだけどね」
「なるほど……そういうわけか」
男が動きレオを吹き飛ばしエリカに襲い掛かる。だがエリカも並の女子高生ではないのでしっかりとそれに対応した。
「イテェ……アンタの攻撃、俺とコイツじゃなきゃ死んでるぜ?」
「それはお互い様だろ。さっきの君の攻撃、普通の人間なら死んでてもおかしく無い」
「肉体強化だろ、それ」
レオが男が普通の人間では無いことに気がついていた事に男は驚きの表情を見せた。
「降参だ……そもそも私は君たちの敵では無い」
「如何いう事よ」
男が降参を示したのでエリカは質問を始める。聞きたい事は山ほどあるので本当は捕らえてから達也に尋問させるつもりだったのだが、大人しく白状してくれそうだったのエリカは聞きたい事をこの場で全て聞きだす事にしたのだ。
「私はスパイでは無くそれを阻止する側の人間だ。私は君たちの敵では無いし、君たちとの間に利害関係は存在しないんだよ」
そう言って男は懐から銃を取り出してエリカに照準を合わせた。
「テメェ」
「さっきこれを使わなかった事が君たちの敵では無いと言う証明になれば良いけどね」
「よく言うわよ。後始末が面倒だっただけでしょ」
ロックオンされているのに冷静な判断をしたエリカに苦笑いを見せて、男は懐から別のものを取り出して三人の中心に投げつける。地面に叩きつけられた缶は一瞬にしてスモークを吐き出し、エリカとレオは逃げるようにそこから離れた。
煙が収まった頃には、男の姿は何処にも無く、もと居た場所には注意とも取れるメモが残されていたのだった。
全てを見透かしている達也、怪我程度で済めば自己責任って事ですかね。