劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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高校生のフォロー

 横浜の『ロッテルバルト』では響子と千葉が情報交換という名の世間話に興じていた。それを見て稲垣は呆れ顔でコーヒーを啜っていたのだが、あの藤林家の令嬢と腐っても千葉の御曹司の会話に自分が加わる勇気は無かった。

 

「マスターおかわり」

 

「稲垣君、ちょっと飲みすぎじゃないかい?」

 

「警部がさっさと話しを終わらせてくれれば俺だってここまで飲みませんよ」

 

「なら君もこっちに来ればいいじゃないか」

 

「本来の用事を忘れて無いでしょうね」

 

 

 千葉はまだマスターに情報を聞いていないのだ。だから稲垣はさっきから少しピリピリとした雰囲気を醸し出していたのだ。

 

「あの、ちょっと席を外させてもらってもよろしいでしょうか」

 

 

 千葉と稲垣が話してるところに、響子が端末を持って話しかけてきた。会話の邪魔をするつもりは無かった響子だったが、ここでは話せない内容の通信だったので席を外す許可をもらいに来たのだった。

 

「どうぞごゆっくり」

 

 

 千葉は響子を見送ると周りに人がいないのを確認してマスターに訪ねた。

 

「ここ最近この辺りで不審者を見なかったかい? もしくは見た人を知らない?」

 

 

 随分と直球で聞くんだなと、稲垣は年下の上司を関心して眺めていた。ついさっきまで響子相手に鼻の下を伸ばしてた相手と同一人物とは思えないくらい、千葉の顔は引き締まっていたのだった。

 一方で千葉たちから離れ自身の車に乗り込んだ響子は、保留にしていた端末の通信を再開した。

 

「ゴメンなさい、ちょっと傍に人が居たもので」

 

『かまいませんよ。本来なら少尉に頼むのも憚られる事ですので』

 

「それこそ気にしないで。大黒特尉のフォローも私の仕事だから」

 

『申し訳ありません。第一高校近くのアイネブリーゼ傍の路地で戦闘行為が行われてる模様です。結界は張ってあるようですがカメラの方の対処をお願いします』

 

「分かったわ。それにしても君の周りには好戦的な人が集まるのね」

 

『そのようですね』

 

 

 通信を切って響子は達也に指示された通りにアイネブリーゼ付近の監視カメラを一斉にハッキングした。

 

「吉田幹比古、吉田家の元神童か……如何やら童が一皮剥けたようだけどもう少し街中だって事に気を使ってもらいたいわね」

 

 

 愚痴をこぼしながらも響子は迅速に作業を進めていく。

 

「古式魔法だって監視システムの記録に残るんだけどね」

 

 

 響子がその記録にアクセスし、エリカとレオが何者かと戦ってた間の記録を改竄。魔法が使われた事実は、監視システムの記録から完全に消去されたのだった。

 

「達也君のお友達にも困ったものね」

 

 

 そう愚痴をこぼしながらも、響子は達也に同情をした。今回の追跡相手は独立魔装大隊でも掴んでいた相手だ。それを放置してたのは、達也を餌として使うと言う上の方針が下されたからだったのだ。

 

「まぁ達也君ならそれくらい気にしないだろうけどね」

 

 

 ほんの少しだけ同情をしてから、響子は車から降りロッテルバルトの中へと戻って行く。まだ千葉に用事が残っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男に逃げられたエリカとレオは、不審がられないように時間差で店内に戻ってきた。と言ってもエリカの席を立った口実はトイレなので、裏口からコッソリ店内に戻って何食わぬ顔で席に戻ったのだが。

 

「エリカちゃん、ちょっと汚れてるよ」

 

「え? 何処何処?」

 

「ここ。何処で汚したのかな?」

 

「マスター、トイレ汚れてるんじゃない?」

 

 

 絶対にありえないと分かってるので、エリカは笑いながらマスターの所為にした。マスターもエリカが冗談を言っているのだと理解してるので笑って否定したのだった。

 

「レオ君のズボンも汚れてるけど、外で何があったの?」

 

「ちょっと突風でよ。思いっきり土煙を浴びちまった」

 

「ちゃんと払ってこなきゃ駄目だよ」

 

 

 まったく事情に気付いていない美月は、エリカとレオの言葉を鵜呑みにして二人の服の汚れを払っていく。だが達也から事情を聞かされた深雪、ほのか、雫はそんな美月に同情の視線を向けていたのだった。

 

「えっと、私も何か付いてるんですか?」

 

「いいえ、そんな事無いわよ。ただ二人のお守り大変そうねと思って」

 

「何時の間にそんなに大きな子供が出来たの?」

 

「子供って……私とエリカちゃんとレオ君は同い年なんですけど」

 

「旦那さんは吉田君?」

 

 

 雫が放った爆弾に幹比古が飲んでいたコーヒーを噴出した。そして美月と揃って顔を真っ赤にして挙動不審になっていく。

 

「別にミキがお父さんでも良いけど、コイツと姉弟って思われるのは嫌ね」

 

「そこかよ。俺とオメェはガキ扱いなんだぜ? 文句をつけるとしたらそこだろ」

 

「別にアンタはガキなんだから良いんじゃないの? アタシはそこまで子供っぽく見られてないようだしね」

 

「大差ないだろうがよ」

 

「二人共、あんまり騒ぐと他のお客さんに迷惑だぞ」

 

 

 黙って状況を見守っていた達也だったが、さすがに騒がしいと思ったのか二人に周りに他の客が居ることを思い出させた。

 

「あっ、ゴメンなさい……」

 

「スイマセン……」

 

 

 二人共ばつが悪そうに周りの客に頭を下げ大人しく席に座った。

 

「何だか達也君が二人のお兄さんみたいだね」

 

「マスター、冗談はもう終わったんですよ」

 

 

 視線で深雪の事をマスターに伝え、これ以上冗談を続けると深雪まで暴走しかねない事を教える達也。マスターも心得たといわんばかりにそれ以上冗談を続ける事は無かった。

 

「幹比古と美月は何時まで恥ずかしがってるんだ」

 

「仕方ありませんよ、お兄様。二人共互いに意識してる相手と夫婦だって言われたんですから」

 

 

 ニッコリと再び爆弾投下した深雪に、達也は苦笑いでは納まらないくらいの苦みのある表情を浮かべていた。

 

「アタシが姉でしょ、如何考えても。アンタは兄って感じじゃないもの」

 

「オメェが姉な訳ネェだろ。自分勝手に動き回る姉が居て堪るか」

 

「お前たちも何時までやってるんだよ……」

 

 

 もう完全に呆れてる事を隠そうともしない達也の態度に、エリカもレオも少し恥ずかしさを覚えたのだった。

 

「幹比古も美月もいい加減現実に戻ってこい。そろそろ帰るぞ」

 

「あっ、うん……」

 

「ゴメンなさい……」

 

「深雪も雫も、これ以上爆弾投下は止めてくれ」

 

「分かりました、お兄様」

 

「ゴメン、達也さん」

 

 

 事態の収拾に追われた達也だったが、さすがと言う感じであっさりと全員を落ち着かせる事に成功したのだった。

 

「マスター会計お願いします」

 

「はいはい。何時もご苦労だね」

 

 

 達也としては意外と楽しんでるのだが、傍目から見れば大変そうなのだろう。マスターはそんな事を言いながら会計を済ませたのだった。

 

「それじゃあ、また来てね」

 

 

 マスターに見送られながら、八人はアイネブリーゼを出て駅までの道程を行くのだった。達也の周りに深雪と雫とほのか、エリカとレオはにらみ合い、幹比古と美月は互いを何時も以上に意識しながら、駅までそんな感じで歩いた八人だった。




響子は兎も角達也までフォローに回る破目に……

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