劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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前回のあとがきでも言いましたが……


察しの悪いリーナ

 深雪やミアから非難めいた視線を向けられていることに気づかないリーナ。達也もリーナの勘の鈍さは承知しているので、根気強くリーナとの問答を続ける事にした。

 

「聞いたことがある? 知っているではなく?」

 

「利用予定のないローカルな基地のことまで一々調べたりしないわよ。海軍の士官じゃないんだから」

 

「それ程大規模な基地ではないということか?」

 

「そうね。いくら私でも、重要な基地ならもっとしっかり覚えていると思う」

 

「(自分で言うか……)」

 

 

 達也はそろそろ頭が痛くなってきた。ここまで察しが悪いとは思っていなかったのだが、助けを求めようとした深雪は既に我関せずと、食事に専念している。ミアも似たような感じで、達也は本気で頭を抑えたくなった。

 

「本土から遠く離れていて、軍の内部でもあまり知られていない基地か。拉致した人間を閉じ込めておくには好都合だな」

 

「……達也は、パールアンドハーミーズ基地が目的地だと考えているの?」

 

 

 リーナが恐る恐る、達也に尋ねる。ここでワザと頷いて見せるような性格の悪い真似を、今夜の達也はしなかった。

 

「ミッドウェー島の監獄に閉じ込めようとしている可能性も無視するつもりは無い」

 

 

 リーナが安堵の息を吐く。深雪がリーナをちらりと見る。その眼差しは「世話の焼ける子ね」と語っていたが、リーナは自分が深雪からどんな目で見られているのか、気付いていなかった。

 

「でも達也の眼って凄いのね。まさか現在地をそこまで正確に把握できるとは思っていなかったわ。精々方角だけとか、移動速度くらいまでだと思っていたのに」

 

「達也様だからできることであって、他の人が同じ眼を持っていたとしても、ここまで正確に把握できるわけではないと思うわ」

 

「確か光宣もこの眼を持っているのよね? もし光宣の眼が達也と同レベルだったら、達也に見られていることも分かってるんじゃないの? もしそうなら『仮装行列』とかを使って誤魔化されそうだけど」

 

 

 リーナの疑問は、深雪を驚かせるだけの威力を秘めていた。深雪はリーナがそこまで考えているとは思っていなかったというのもあるが、水波の気配が偽造されている可能性に言及するとは思っていなかったのだ。

 

「確かに光宣の現在地を探ろうとすれば、一瞬待たずに気配を偽られる。だが水波の気配はもう間違えない」

 

「そう言い切れるだけの自信があるのね。なら安心かしら」

 

「そもそも何故リーナが水波のことをそこまで心配するんだ? リーナと水波は、それほど接点があるわけではないだろ」

 

「そうかもしれないけど、好きな相手と結ばれたいと思う女子を応援するのは、私だけじゃないと思うけど」

 

 

 リーナの隣ではミアが、正面では深雪がリーナの意見に同意しているのを見て、達也はそういうものかと納得する。

 

「それはそうとリーナ」

 

「なに?」

 

「さっきから話に夢中で箸が進んでないようだけど、まさか残すつもりじゃないわよね?」

 

「そ、そんなつもりは無いから安心して」

 

 

 リーナでも問題なく完食できる量なので、もし食べ残しなどすれば深雪は容赦なく叱るつもりだった。それを感じ取ったリーナは、慌てて残っている食事に手を付け始める――のは良いが、やはり箸を持つ手がぎこちない。

 

「とりあえず俺はこれで。地下で水波の現状と、ほのかに残してきた眼の感度の確認をしておく必要があるからな」

 

「お粗末さまでした」

 

 

 一人異性ということもあるが、先に食べ終わっていた達也が腰を浮かしリビングから去っていく。別にこの場所にいても確認はできるのだが、リーナとミアから向けられる好機心を多分に含んでいる視線が気になるので、達也は退散を決め込んだのだ。

 

「それにしても、達也がいればほとんどの人は守れるんじゃないの?」

 

「さすがの達也様でも、大勢の相手にリソースを割いた状態で万全に戦えるわけじゃないわよ。そもそもリーナなんかは、守ってもらう必要は無いでしょうし」

 

「どういう意味よ! って言いたいところだけど、確かに守ってもらう程弱いつもりは無いし、私を襲うような相手なら、容赦なく叩きのめすでしょうし」

 

「そうなの? 巳焼島でスターズの仲間に追い詰められていたって聞いてるけど」

 

「べ、別に追い詰められていないし? ちょっと戦いにくかっただけで、私一人でも勝てたわよ」

 

「まぁリーナが同族であるスターズの人間を消すのを心苦しく思っているのは知っているから、変に強がらなくて良いわよ」

 

 

 第一次パラサイト事件の際、リーナはスターズから逃げ出した軍人を始末することに躊躇いを持っていることを達也だけではなく深雪やエリカにまで見抜かれている。本人からすれば、上手く隠しているつもりだったのに、あっさりと見抜かれ言い訳もできないくらいに打ちのめされたのは、彼女の中ではまだ新しい記憶だ。

 

「その点達也様なら、身内であろうと自分の邪魔になるなら容赦なく消せるから――私以外は」

 

「それはそれで面倒よね。まぁ、達也と深雪が敵対するシーンなんて想像できないから、魔法大戦争の心配は必要無いでしょうけども」

 

 

 達也と深雪が正面からぶつかればどうなるか。それを想像してミアは身震いをしたが、リーナはあり得ない未来だと笑い飛ばしたのだった。




達也と深雪だけで一国は滅ぼせるだろうな……

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