劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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IFで五十里の取り合いでもやらせてみようかな……


花音VSエリカ

 報告を受けた花音は四人を遥に凌ぐスピードで保健室にやって来て、四人が到着するやいなや怒鳴り散らした。

 

「明らかにやり過ぎよ! 罪と罰はバランスよくしなきゃいけないんだから。聞いた話じゃこのこはただハッキングツールを持ってただけでしょ? 気絶させるほどの事かしら?」

 

「ハッキングツールを持ってた時点で十分危険思想の持ち主だと思いますけど? それとも千代田先輩は啓先輩や達也君たちが造ってきたものを壊されても良かったって言うんですか?」

 

「そんな事言ってないでしょ! そもそもこの子はただハッキングツールを持っていただけなんだから、使用してない時点で攻撃するのはおかしいって言ってるのよ! そもそも司波君が説得してくれてたんでしょ? なんでそのまま司波君に任せなかったのよ」

 

「達也君は風紀委員ですけど、今は論文コンペの準備で忙しいはずです。その達也君に何もかも任せるのは可哀想だとは思わないんですか?」

 

 

 犬猿の仲とまでは行かなくとも、花音とエリカは基本的には仲良く無い。花音が啓と仲良くしてるエリカを快く思って無いだけなのだが、エリカも威圧的に接してくる花音に友好的に接しようとは思わないのだ。

 

「先ほど罰が如何とか言ってましたが、別に罰を与えようとして捕まえた訳じゃありません。汚い大人に利用されている学友を助けようとしただけです」

 

「助けようとしてる人間が攻撃するかしら? 彼女頭打ってるのよ?」

 

「隠し武器を出されたんじゃ普通に捕まえるのは難しいじゃないですか。そもそも達也君が止めてくれなければこの子、閃光弾らしきものを投げつけてきたんですよ。攻撃されるには十分な理由じゃないですか」

 

「まぁまぁ、良いじゃねぇか。千代田先輩、後はよろしくお願いします」

 

 

 花音とエリカの口論を止めたのは意外なことにレオだった。興奮冷めやらぬエリカの腕を引っ張っていき保健室から出て行った。

 

「ハァ……桐原君も壬生さんも三十野さんももう良いわよ。それからあんまり問題を起こさないでくれるかしら? 護衛は嬉しいんだけど、問題を起こす護衛をつけるくらいなら必要ないとか言い出しそうだし」

 

「司波兄がか? まぁ言いそうだな」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、桐原たちも保健室から出て行く。残されたのは花音と保険医の怜美だけだ。

 

「それじゃあお手数ですが、この子が目を覚ましたら連絡してもらえます?」

 

「それはかまわないけど逃げられても文句は受け付けないからね。私は戦闘能力皆無なんだから」

 

「安宿先生が怪我人を逃がす訳無いじゃないですか」

 

 

 花音が若干疲れた笑みを浮かべて保健室から出て行こうとしたら、怜美が呼び止めた。

 

「連絡だけど、千代田さんにすれば良いのかしら?」

 

「そうですけど……他に誰に連絡するつもりだったんですか?」

 

「さっきの話だと司波君にも関係ありそうだったからね。彼にも知らせたほうが良いのかと思ったのよ」

 

「そうですね……司波君は今論文コンペに向けての実験で忙しいですし、千葉さんの言葉ではないですけど、何もかも司波君に頼るのは良く無いと思いますし」

 

「分かったわ」

 

 

 ちょっぴり残念そうだと花音には思えたのだが、それも一瞬の事ですぐに何時もの怜美の雰囲気に戻っていた。

 

「それでは私も啓の護衛がありますので」

 

「は~い。頑張ってね」

 

 

 怜美に見送られ花音も保健室から出て行った。残された怜美は気絶している千秋を見て複雑な表情を浮かべた。

 

「ついこの間まではお姉さんの問題で、今度は妹さんか……司波君も大変そうね」

 

 

 小春の件で達也がカウンセリング室を訪れていたのは怜美も知っていた。隙あらば保健室に誘おうと様子を窺っていたのだが、想像以上に達也が大変そうだったので遠慮したのだが、まさか今度は千秋の事で達也が巻き込まれるなんて怜美も思っていなかったのだ。

 

「もしかしてこの子も司波君の事が……」

 

 

 ハッキングツールの使用目的は兎も角として、怜美には千秋が達也に構ってほしくてこんな事をしたのではないかと思えて仕方なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五十里の警護に戻った花音は見たくも無いものを見てしまった。あの癪に障る下級生がまたしてもトラブルを起こしていたのだ。

 一人の男子生徒がエリカに注意してるのだが、そのエリカはと言うと明後日の方向を向いて口笛でも奏でてるかのような雰囲気なのだ。

 

「ちょっと司波君、あれは何かしら?」

 

 

 手近にいた達也に状況説明を求める花音。本音を言えば関わりたく無いのだが、風紀委員長として、論文コンペの護衛として見過ごすわけには行かないのだ。

 

「エリカたちがウロウロしてるのが関本先輩のお気に召さなかったようでして」

 

 

 彼女の性格では無いのだが、花音は頭を押さえてエリカたちの方に向き直った。

 

「関本先輩、どうかしたのですか?」

 

「いや、風紀委員でもなければ部活連で選ばれたわけでも無いのにウロチョロされたんじゃ護衛の邪魔になると注意してただけだ」

 

 

 

 もっともらしい理由だが、花音にはこれが関本の本音には思えなかった。何故この先輩はわざわざ波風を立てたがるのかと、本気で頭痛に襲われそうになっていた。

 

「来年、再来年の為に一年生が実験を見学するのを止める理由はありません。それで護衛の邪魔になるのなら私の方から注意します。そもそも関本先輩は今回の護衛の任務には立候補されてませんでしたし、私たちに任してもらえませんか? それと貴女たちも今日はもう帰ってもらえるかしら? さっきのだって見方を変えれば四対一で襲い掛かってたとも取れるんだからね」

 

 

 花音が鋭い視線をエリカたちに向けると、不承不承といった感じではあったがエリカとレオが頷いた。

 

「アタシ今日は帰るね。また明日深雪」

 

「俺も帰るわ。じゃあな達也」

 

 

 やけに物分りが良いと感じなくは無かったが、とりあえず問題のある下級生が去ってくれて花音はホッとした表情で五十里の傍に擦り寄っていった。

 傍に立ったのと同時に花音の端末に通信が入った。

 

「安宿先生からだ。行くわよ啓」

 

「えっ? ちょっと花音!?」

 

 

 測定器から送られてくるデータを情報端末で集中モニターしていた五十里が慌てて花音の後を追う。実験中に持ち場を離れた形になったが、それを咎めるものは誰も居なかった。むしろ花音に振り回されている五十里に周りは同情的な視線を向けていたのだった。

 

「五十里君も大変ですね」

 

「仕方ありませんよ。千代田先輩が相手なんですから」

 

 

 鈴音と達也がしみじみとそんな事をつぶやいていたのだが、五十里本人の耳にはその事は伝わる事は無かった。




花音が一方的に嫌ってる感じですけどね。

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