間違いなくチャンドラセカールは、達也が戦略級魔法師であるという確証を握っている。『マテリアル・バースト』のことは知らなくても、戦略核兵器を凌駕する威力の魔法を使えるということは確定情報として知っている。ここで誤魔化そうと足掻いて、話の腰を折るのは無意味だと達也は考えていた。
実際誤魔化そうとしてもチャンドラセカールは、彼女が持っていると思われる証拠を提出してくるだけで話を続けるだろう。
「この状態で理性を期待するのは難しいでしょう。魔法師とそうでない人々はいったん、互いに距離を置くことが必要です」
「だが、魔法師は数が少ない。魔法師だけでは現代的な社会水準を維持できません」
「実用レベルで魔法を行使できるという意味での魔法師の割合は、成人人口の〇・〇一パーセント。しかし魔法の資質を持つ者はその十倍に上がります。人口の〇・一パーセントという割合は、実数で見た場合、決して少なくありません。前の世界大戦で三十億人まで減少した世界人口は、昨年五十億人を超えました。世界中の魔法資質保有者を組織するのは困難でしょうが、百分の一を集めるだけで五万人に上ります」
「仮にそれだけの魔法資質保有者を国際的に組織することができても、その五万人を一ヵ所に集めることは不可能です」
「五万人の構成員とそれに見合う経済力があれば、各国の政府を動かす発言力になります。ミスターの恒星炉プラントには、それだけの経済基盤を生み出す力があります」
チャンドラセカールの目的が、ここで明らかになった。彼女が遥々日本にやってきたのは、魔法師の――魔法資質保有者の人権闘争に、達也の恒星炉プラントを利用したいと目論んだからだった。だからといって、達也は不快感を覚えなかった。彼のESCAPES計画――恒星炉プラントプロジェクトは、魔法師を経済的に不可欠の技術者・生産者とすることで兵器としての役割から解放することを目指している。チャンドラセカールと達也の構想は本質的に同じものだ。
「より具体的には、国際魔法協会を魔法師の人権組織に作り変えるのですか?」
方向性を変えた達也の質問に、チャンドラセカールは頷かなかった。
「国際魔法協会は、魔法を核兵器に対抗する抑止力として用いる為の組織という性格が強すぎます。魔法師の人権を取り戻す為には、新しいNGOを結成する方が良いでしょう。また魔法師、『マジック・コンストラクター』『マギクラフター』という名称とは別に、より広く、魔法資質保有者を意味する単語が必要になるでしょう。例えば『シビリアン』に対置して『メイジアン』というのはどうでしょう?」
「
「そうですね。『メイジアン』。良い名称だと思います」
「私も語感が素敵だと思います。ですがそうしますと、今使われている魔法師という名称はどうするできでしょうか? 単に魔法資質を持つだけの人間と実用レベルの魔法技能を持つ者は、名称の上でもやはり区別すべきだと思いますが」
深雪の問題定義に、達也とチャンドラセカールが少し考え込む。
「日本語の『魔法師』は『魔法技能師』の短縮形だからそのままでも構わないと思うが……」
「……『マジック・コンストラクター』は『
「
「それですと『
三人が笑顔で頷きあう。彼らの脳裏には、同じ未来像が描き出されていた。その笑みが自然に消えた後、チャンドラセカールが居住まいを正した。
「今日明日のことではありませんが、数年以内に、私はメイジアンの国際結社を立ち上げる準備を整えます。メイジアン結社設立に当たっては、ミスターのご協力を是非とも頂戴したい」
「状況が許せば、博士の結社に参加させてください」
「ではその際に改めて、お願いに参ります」
チャンドラセカールが達也に手を差し出す。達也は最初の挨拶の時より、少し深くその手を握った。
「ミスターが私の考えに賛同してくれただけでも、わざわざ日本に来たかいがありました」
「自分も元々、魔法師を兵器としての役割から解放する為に恒星炉プラントプロジェクトを立ち上げた側面がありますので、博士の話は非常に有意義でした」
「世間ではミスターが恒星炉プラントプロジェクトを立ち上げたのは、ディオーネー計画からエスケイプする為ではないかと言われていますが、やはりミスターも私と似たような考えをお持ちだったと理解出来ました」
実際チャンドラセカールが言ったように、ディオーネー計画から逃れる名目もあるのだが、それは世間一般には発表していないことなので、達也は何も言わずにチャンドラセカールと別れの挨拶を交わすのだった。
正当な評価ができる人は尊敬できる