達也の感想は彼の紛れもない本心だったが、カーティス上院議員は違う考えのようだ。
「そうでしょうか。現地までの船を用意すると言っても、我が国の軍事施設に対する攻撃に我が国の艦船が加わることはできません」
「それは、確かに」
「無論、補給の面では万全の支援をお約束しますが……。ミッドウェー監獄とパールアンドハーミーズ基地の攻略は司波殿と四葉家の方々に、全面的にお任せすることになります」
カーティスの発言に、達也は引っ掛かりを覚えた。彼は四葉家が達也を支援するのが当然であるかのように語っている。確かに達也は四葉家当主の息子で、次期当主に内定しているが、達也の事を快く思わない人間も多い。表面的なことしか知らなければ援軍を出すのが当然だと考えるのは仕方がない。
しかしワイアット・カーティスは、本人とリーナの言によれば、USNAの対外諜報機関に対して強い影響力を持つ政治家だ。達也がつい最近まで四葉家の中で疎外されていた事実を知らないなどということがあるだろうか?
「ある意味でステイツと戦争するリスクを、全て負っていただくのです」
だが今は目の前の会話に集中しなければならない。続くカーティスのセリフを聞いて、達也は脳裏をよぎった不審の念を一旦棚上げにした。
「一番負担が重い部分をお願いするのですから、段取りと後始末を引き受けるくらいは当然でしょう」
「閣下のお考えは分かりました。ですが何故そこまでして、カノープス少佐を脱獄させる必要があるのですか? ミッドウェー監獄は収監者の身体に害をもたらすような場所ではないと、リーナからは聞いています。もしそれが事実なら、脱獄などという後々の汚点に繋がるリスクを負わなくても、政治的な手段で釈放を目指す方が、多少時間は掛かってもいい結果につながるのではないでしょうか」
「確かにミッドウェー監獄は収監者の身体を損なうような場所ではありません。むしろ囚人の健康には、通常の刑務所など比べ物にならないくらい配慮されていると言って良い。司波殿の仰ることの方が、論理的に正しく賢い選択肢でありましょう」
「ことは論理ではない、と?」
達也のコメントに、カーティスが破顔する。
「然様。若いのによくお分かりだ。ことは論理ではない。面子の問題です。馬鹿馬鹿しいとお思いかもしれないが、面子を傷つけられたまま黙っているのは政治的な敗北なのです。身内が監獄に送り込まれるのは、ただでさえ屈辱だ。ましてやそれが無実の罪によるものならば、侮辱であり『お前のことなど恐れてはいない』という挑発です。政治家は、侮辱を放置してはならない。侮られたままであってはならないのです」
「閣下の政治生命に懸けて、カノープス少佐を一刻も早く、収監した側の都合による釈放以外の手段で解放しなければならないということですか」
達也の正鵠を射た指摘に、カーティスが「エクセレント」と呟く。
「正しくその通りです。釈放されるのを待っているのは、政治家として許されないのですよ。ただ、理由はそれだけではありません」
カーティスがテーブルのグラスに手を伸ばしたのは続きが言い難かったのではなく、単に喉が渇いたからだった。
「現在、我が国の軍部はパラサイトに汚染されています」
心なしか、カーティスの声音がより深刻な色を帯びた。
「スターズから始まったパラサイトの侵食は、パラサイトの増殖はいったん止まっていますが、影響力は日に日に拡大しています」
この話は達也にとって、驚くべきことではなかった。パラサイトのプレゼンスが大きなものとなっていなければ、巳焼島の襲撃や光宣の国外逃亡を助けたりはできなかっただろう。
「ステイツは民主主義国家です。軍も政府も国民の為のものだ。魔物に壟断されるようなことがあってはならないのです。パラサイトの跳梁は、除かなければならない」
「分かりました」
老齢に似合わず熱く語るカーティスに、達也は落ち着いた声で頷きを返した。
「閣下はカノープス少佐の救出に加えて、九島光宣の逃亡を助けたパラサイトの駆逐もお望みなのですね」
「お願い出来ますか?」
「私の目的を果たす過程で、必然的にそのような展開になると思います」
期待を込めたカーティスの問いかけに、達也は特に力むこともなく間接的な応諾の答えを返した。
「お互いにとって望ましい結果が得られれば、今後もいいお付き合いをお願いしたいと考えております」
カーティスはいったん、抽象的な言い方をして、すぐに具体的な条件提示に切り替えた。
「……この件がお互いの望む形で解決すれば、将来にわたり私の派閥が四葉家の当主となった司波殿のお力になるとお約束します」
この申し出には、達也も驚かずにいられない。USNAの上院議員、それもCIAに対して強い影響力を持つ程の有力政治家が自分の後ろ盾になるというのだ。
「――葉山さん」
「奥様もご存じでございます」
達也が「真夜はこのことを承知しているのか」と尋ねようとしたが、葉山が先回りをして答える。
「――閣下。カノープス少佐の救出の件、お引き受けしたいと存じます」
もはや達也も、言葉を濁さなかった。それは「カノープスを助けない」という選択肢を放棄するものであったが、得られる報酬を考えれば否はなかった。
「ありがとうございます。既に船は手配しております。三日後に駆逐艦を巳焼島へ向かわせましょう。詳しい予定は後程お届けします」
カーティスが立ち上がり、右手を差し出す。達也も立ち上がり、カーティスの手を握り返す。握手をしながら、カーティスは達也にそう約束した。
国防軍よりも使えるコネができましたとさ