劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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婚約者(友達)を見舞うのも大変だな


本家への伺い

 リーナとミアと三人で食事を済ませてミアに片づけをまかせ、リーナと病院に向かう途中でほのかからの電話を受けた。

 

「……雫とエリカ、それに西城君も来るのね?」

 

『うん。……ダメかな?』

 

「大丈夫よ。合計四人、明日の午前中から一泊、で良いのかしら?」

 

『うん、それでお願い』

 

「了解よ。手配しておくわね」

 

『ありがとう。じゃあ、明日』

 

「えぇ、待っているわ」

 

 

 時刻は午後一時過ぎ。ほのかから掛かってきた電話が切れてすぐ、深雪は四人が泊まる所の手配をする為に、アドレス帳を開いて管理事務所の音声受付に指を伸ばした。

 しかし彼女がタッチパネルに触れる寸前、音声通話の着信音が鳴る。画面には「七草真由美様からの着信」と表示されていた。

 

「はい、司波です」

 

『深雪さん? 七草真由美です』

 

「お久しぶりです、先輩」

 

『えぇ、お久しぶり。……この度は、その、大変なことになっているわね。深雪さん、大丈夫?』

 

「お気遣いありがとうございます。不幸中の幸いで、達也様のお命に別状はなく、回復後は後遺症も残らないそうですので」

 

 

 言葉を選びながら問いかける真由美に、深雪は気丈な応えを返す。ここまでは目の前で婚約者が事故に遭った側と、ニュースで知った側の会話にしか聞こえない。

 

『達也くんの、「再成」だっけ……。今回は、間に合わなかったのね』

 

「達也様の御力も魔法である以上、意識しなければ使えません。……国防軍の警備艦に襲われるとは、達也様もさすがに予想していなかったのだと思います」

 

『そう、よね……。「超能力」と違って「魔法」は無意識には使えない。意識して無意識を働かせなければ、魔法は組み立てられないものね……』

 

「はい」

 

『それでね、えっと……深雪さんさえ良ければ、達也くんをお見舞いさせてもらえないかしら』

 

「達也様はまだ、面会できる状態ではありませんが……?」

 

『無理に、とは言わないけれど』

 

「いえ……分かりました。家の者とも相談したいので、折り返しお電話させていただいてもよろしいですか?」

 

 

 深雪が言う「家」が四葉家のことを指していると、真由美は説明されなくても理解した。七草家の自分が四葉家次期当主を見舞うというのだ。いくら婚約者とはいえ当主の判断を仰ぐのも当然だと真由美は思った。

 

『えぇ、もちろんよ。じゃあ、後で』

 

「なるべく早く、お電話致します」

 

 

 二人は特に不自然なところもなく、相手の言葉や口調に違和感を覚えた様子も見せず、通話を終えた。

 

「どうしたの?」

 

「なんでもないわ。リーナ、先にICUのモニター室に行ってて」

 

「分かったわ」

 

 

 リーナを先に行かせ、深雪は真夜に真由美も巳焼島に来たいと言っていることを伝えるために病院の電話室に移動した。電話室の中はさらに六部屋の個室型電話ブースに分かれている。その内の一つ、四葉本家への直通動画電話機が置かれたブースに、IDカードを使って入室する。完全防音の小部屋に椅子は無い。入ってすぐのところにコンソール、部屋の奥に四十インチのパネルが設置されている。

 深雪は異なる十桁のナンバーを三度、コンソールに打ち込んだ。壁掛けサイズのモニターに、いきなり真夜が登場する。

 

「叔母様、たびたび失礼致します」

 

『気にしなくて良いですよ。またお見舞いの申し入れでもありましたか?』

 

「はい、七草真由美さんからお電話を頂戴しました」

 

 

 いきなり用件を言い当てられても、深雪は動揺しなかった。現状で「達也のお見舞い」は深雪が本家におうかがいを立てる件としては真っ先に思い浮かぶ内容だろうし、仮に電話を検閲されていたとしても、何もやましいところは無い。

 

『七草家から?』

 

 

 むしろ真夜の方が、深雪の答えに驚きを見せていた。

 

『個人的なお見舞いということはないでしょうね……。何が狙いなのかしら』

 

「七草真由美さん個人の可能性はありますが、その場合は同じ立場の七草香澄さんも一緒でしょうから、叔母様のご指摘の通りかと思いますが……目的は私にも分かりません」

 

 

 真由美の申し入れの背後に七草家当主の意向が存在するという意見には、深雪も同感だ。真夜が自分に答えを求めているわけではないことは分かっていたが、一応同じ立場の真由美を全面的に疑うことは避けたかったのか、一応付け加えた。

 

『……そうね。良いでしょう』

 

 

 案の定、真夜は一人で何らかの結論にたどり着いたようだ。深雪には真夜がどのような考えにたどり着いたのか知りようがないし、知る必要もないと考え問うことはしなかった。

 

『深雪さん、お受けしなさい』

 

「七草先輩をお招きしてよろしいのですね?」

 

「えぇ。真由美さんへの対応は深雪さんに一任します」

 

 

 真夜は七草家の長女を謀略が進行中の舞台に招き入れることに関して、一切の条件を付けなかった。

 

「かしこまりました」

 

 

 深雪はそのことに、意外感を覚えなかった。

 

『それではね』

 

「失礼致しました」

 

 

 画面に映る真夜に深々と頭を下げ、画面が完全に消えるのを待ってから頭を上げ、深雪は電話室からリーナを待たせているモニター室へ移動するのだった。




まぁ、真由美は七草の人間ですから仕方ないですが……

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