劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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強くなる為には特訓も必要です


それぞれの特訓

 達也のスキルに千里眼は含まれていないが、それに似たような事は出来るのだ。だが今回はその能力を使ってエリカたちがやっている事を覗き見した訳ではなく完全なる偶然だった。

 

「こらっ! また皺が寄ってるわよ」

 

「ってぇなぁ……何度も言ってんだろ! 手を出すより先に口を出せ! 何のための言葉なんだよ!」

 

「アンタが口で言っても分からないからじゃない」

 

「殴ったら分かるとでも思ってるのかよ……」

 

 

 叱り付けられエリカの足元で蹲っていたレオの抗議は尻すぼみに勢いを失い、そのままフェードアウトした。今は教わってる立場上強く出られないのと、それ以上に何度も教わってるのに上手く出来ない自分に不甲斐なさを感じていたからだ。

 

「まぁ……それもそうね。一休みしよっか」

 

 

 レオが不甲斐ないと思ってるのをエリカも分かってはいたが、エリカはレオの事を不甲斐ないとは思っていなかった。新しい技を習得する難しさは多分エリカの方が知っているからだ。

 

「はい」

 

「お、おう」

 

 

 道場の床に胡坐をかいていたレオへ冷えすぎてないコップを差し出し、エリカはレオの前に正座した。

 

「マントの時は上手く出来てたのにね……やっぱり勝手が違う?」

 

「九校戦のアレか? あん時はアイロン掛けみたいに真ッ平に伸ばしてた訳じゃねぇよ。多少細かい皺があっても楯としての役割に支障は無かったからな。生地自体にも展伸を補助する術式が組み込まれてたし」

 

「補助術式はこっちにも組み込まれてるはずなんだけど……やっぱり達也君に相談してみるのが早いかな?」

 

「それは駄目だ。今回達也の手を借りるのは本末転倒だ。術式が組み込まれてるなら俺がそれを発動させれば良いだけのことだ」

 

「オトコノコだね」

 

 

 エリカが妙に艶かしい笑みをこぼした為、レオは噛み付く事が出来ずに目を逸らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法科高校は週休二日制を採用してないため土曜日も授業がある。だが達也は今朝も八雲の寺を訪れていた。しかも今日は深雪も同行している。

 八雲から「遠当て」用の練習場を改装したので試してみないかと誘われたのである。学校の練習場を使う事の出来ない達也としては(学校で『雲散霧消』を使うわけには行かない為)わざわざ土浦まで行かなくても身近な所で射撃の練習が出来るのはありがたい事だった。

 達也のように能力を隠す必要の無い深雪だが、クラブに所属している生徒よりも練習場を使える時間は少ない上に、彼女の得意とする魔法は点の標的を狙撃するより面を塗り替える性質のものが多い為に普段から射撃練習にあまり時間を割かないのだ。そのため達也が深雪を引っ張ってきたのだが、深雪は笑顔で達也に付いてきたのだった。

 

「――きゃ! このっ!」

 

 

 持ち前の負けん気を発揮している深雪だが、学校の施設とは一味違う忍術使いの秘密修行場はさすがの深雪でもこめかみから汗を滴らせ息を荒げるほど苦戦している。

 正方形のフロアから壁四面の内三面と天井に開いた無数の穴から次々と標的が現れる設定で、しかもターゲットは同時に何十と出現し、一秒で隠れるのだ。

 それだけならまだ狙いをつけるのに忙しいだけだが、打ち漏らした的の数に応じて模擬弾が降って来るのだ。もちろんむざむざと喰らう深雪ではなく、全て魔法でブロックしているのだが、防御と射撃を同時にこなしてるために足元が疎かになり転倒する、というパターンをさっきから何度か繰り返していた。

 

「はいっ、止め!」

 

「お疲れ様」

 

「あ、お兄様……申し訳ありません」

 

 

 八雲の合図で装置が停止するのと同時にへたり込んでしまった深雪に達也がタオルを差し出し、手渡した手で深雪を引っ張り上げる。

 

「あっ……ありがとうございます」

 

「怪我は無いようだね」

 

 

 それだけ確認して達也はフロアの中央へと進んだ。随分と素っ気無い態度だったが、深雪に不満の色は無かった。

 遊びに来てる訳では無いので、達也が過剰に心配したら深雪が達也をたしなめただろうが、そんな事は起こる訳が無いのだ。

 達也はスタスタと歩きながら愛用のCADを胸の前に掲げ、肘を曲げたままの待機ポジションを取った。

 そして深雪がフロアから退くや否や何の合図もなしに訓練メニューがスタートした。三面の壁にボール状のターゲットが出現する……と同時に全てが砂と化した。十二のターゲットを一度で分解したのだ。

 一息吐く間も無く、今度は壁と天井にターゲットが表示される。その数は二十四。達也は照準を合わせる事すらせずにCADを固定したまま引き金を引く。落ちてくる合成樹脂の粉末を避け身を翻しながら右手を上に突き上げ引き金を絞る。

 崩れ去る球体の隙間を埋めるように次々と小球面が顔を見せる。引き金が引かれる頻度が二度、三度と増えていくが、標的のストックが尽きるまでペナルティの模擬弾が発射される事は無かった。

 

「お兄様、凄いです!」

 

「やれやれ、完全クリアーとはねぇ……これでも難度が足りないか」

 

「俺の得意分野ですからね。それでも結構ギリギリでしたが。あの性格の悪いアルゴリズムは誰が組んだんですか?」

 

「制御式は風間君にもらったんだが」

 

「なるほど、作ったのは真田さんですか」

 

 

 人当たりの良い笑みの裏に独立魔装大隊でも一、二を争う腹黒さを持つ技術士官の顔を思い浮かべて達也は低く唸った。

 

「それにしてもお兄様、何時の間に同時照準を三十六まで増やされたのですか? 三ヶ月前は二十四が上限だったと思いますが」

 

「今回は相手が撃ち返して来ない、と言うか撃ち返すのを待ってくれる設定だったからね。待ったなしの実戦なら今でも二十四が精々だよ」

 

「ご謙遜なさらないでください。それを言うなら私なんて撃ち返すのを待ってくれる設定でも同時に十六しか照準出来ません。やっぱりお兄様は凄いんです」

 

「こらこら、煽てても何も出ないぞ。お前は俺より広いエリアに魔法を作用させられるんだし、常駐で俺に心を配りながらそれだけ出来るんだから制御面だって本当は俺より上だろ?」

 

「それを仰るんでしたら、お兄様だって本当は私よりもずっと強く、ずっと深い階層まで干渉する事が可能ではありませんか」

 

 

 謎掛けのような二人の会話に、八雲が苦笑いをしながら割って入る。

 

「コラコラ二人共、壁に耳あり、だよ?」

 

 

 事情を知らなければ何の話だか分からない内容だったが、八雲はその事情を知っている。二人はしまったという表情で顔を見合わせて似たような誤魔化し笑いを浮かべたのだった。

 

「それじゃあ、上に戻ろうか」

 

 

 訓練は終わったので八雲の提案に素直に従い、達也と深雪は地下練習場から地上へと戻るのだった。




久々登場の八雲でした。
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