劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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襲撃者が恐ろしすぎるだろ……


襲撃開始

 原子力潜水空母『バージニア』が待機位置に停止しても、達也はしばらく出撃しなかった。これは、計画通りの行動だ。達也が発進したのは現地時間七月二十二日午後七時半。日没直後の空に、達也が操縦するエアカーが舞い上がった。

 ミッドウェー島は一つの島ではなく、サンド島、イースタン島と幾つもの小島から形成される環礁で、ミッドウェー諸島と呼ぶ方が正確かもしれない。ミッドウェー監獄は、この内サンド島のほぼ東半分を使った大規模な施設だ。達也がその施設を肉眼に捉えたのは、発艦から十分後のことだった。対空砲火は無い。

 

「(ステルスシステムは設計通りの性能を発揮しているようだな)」

 

 

 新型エアカー最大の改良点であるステルス機能。恒星炉にも使われている人造レリックに認識阻害・探知妨害の魔法式を保存して、ドライバーの魔法技能に依存せず高度なステルス魔法を車体とその周囲に展開する。持続時間は現段階で最長半日。累計稼働時間が十二時間に達した時点で再使用までに十二時間の休止時間が必要だが、活動限界時間に達する前でも十二時間以上のインターバルを置けば時間制限はリセットされる。今回のミッションには十分な性能だ。

 達也はエアカーをサンド島の北西岸に着陸させた。そこから飛行装甲服『フリードスーツ』で監獄施設に向かう。フリードスーツも高いステルス性能を備えているが、人造レリックを利用した新型エアカー程ではない。監獄の敷地を囲う高い塀を越えようとしたところで、けたたましい警報が鳴り響いた。

 監獄屋上に設置された砲塔が旋回する。ミッドウェー監獄に設置されている兵器はフレミングランチャーと対人火器だけ、達也は三矢家からそう聞いていた。だが今、達也を照準しようと回転している砲口は――

 

「(パルスレーザー砲!)」

 

 

――対人の枠に収まらない、対空レーザー砲だ。

 騙されたのか、という思考が入り込む余地は無かった。その正体を認識するのと、魔法を発動したのは同時だった。パルスレーザー砲の狙いが達也に固定される、その直前、砲塔は輪郭を失い、電光と共に弾け散った。

 達也の分解魔法『雲散霧消』がパルスレーザー砲の砲身と台座を元素レベルで分解。電光はレーザー発射の為に供給されていた電流が行き場を失って、金属元素のガスの中を無秩序に暴れまわったものだ。

 

「(危なかった……)」

 

 

 フリードスーツの防弾機能はあくまでも質量弾に対するものであり、高エネルギーレーザーに耐える程の性能は無い。レーザー砲の照準速度と連射速度次第だが、『再成』と同時に身体を打ち抜かれる無限ループに陥る危険性もあった。

 被弾・自己修復の無限ループは、あらゆる外傷を無かったことにできる達也にとって最も警戒すべき事態だ。『再成』を使わせられ続けると、いずれ魔法演算領域が連続発動に耐えられなくなりオーバーヒートを起こしてしまう。あるいは『再成』の発動に失敗してしまう。何十回程度ならともかく、短時間に何百回も続ければそうなってしまう可能性が高い。それは達也の不死身性を突き崩す数少ない攻略法の一つだった。

 危機感が達也の知覚を一層鋭敏化する。屋上及び壁面、広大な敷地内に配置された全ての対空・対人兵器の情報が、彼の「視界」に瞬時・同時並行で映し出された。

 

「(『雲散霧消』発動)」

 

 

 先程の『雲散霧消』は反射的に、自分の力だけで発動したものだった。今度はスーツに内蔵されたCADの助けを借りて、同時に十二機の砲座・銃座を「分解」していく。その中には、達也の現在位置からはブラインドになっている対空砲座、地下に格納されたままの自動銃座も含まれていた。ミッドウェー監獄に設置されていた迎撃兵器は、対艦兵器のフレミングランチャーも含めて、連続五回の分解魔法で跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迎撃兵器が無くなったミッドウェー監獄の上空で、達也はカノープスが収監されている建物を「眼」で探した。ベンジャミン・カノープスの情報は今年の二月、ジード・ヘイグこと顧傑の捕獲を邪魔された時に取得している。さすがに一度接触しただけの相手の居場所を、太平洋の半分を隔てて探ったりはできないが、この敷地内にいると分かっていれば、見つけ出すのは達也にとって難しいことではなかった。だいたい一キロメートル四方の敷地の中に、低層の見るからに頑丈なビルが十棟建っている。

 

「(監獄はその内、五棟。一棟が管理事務所、二棟が職員・兵員用住居、一棟が武器庫、一棟がトレーニング施設か)」

 

 

 求める相手、カノープスの情報は、敷地の中央に見付かった。三階建てのビルの、三階南端の部屋にいる。達也はさらに、当該ビル内部の情報を閲覧した。カノープスから少し離れた所に、武装した兵士が十人いる。これは監獄の警備兵だろう。カノープスを護衛する為に集まったのか、脱獄を阻止する為に集まったのかまでは分からない。同じ階に囚人はカノープス一人だった。二階、三階には八人ずつ収監されている。当然なのかもしれないが、全員が男で、魔法師だ。

 

「(当たり前だが、俺の侵入は知られているか。屋上から来るのを警戒しているのだろうな)」

 

 

 裏をかいて一階から攻めるという手もある。だが今は、時間が惜しい。ミッションはここだけではない。本番はむしろ、パールアンドハーミーズ基地だ。達也は警備兵の予想通り、上から攻め入ることにした。




レーダー機能搭載襲撃者っていったい……

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