真夜に報告する為に電話室へ向かう達也の背後には、水波が追随している。水波の件は昨夜深雪が伝えているのだが、何時病状が悪化するか分からない為、念の為達也の側で生活した方が良いという深雪の案を採用した結果だ。
『達也様、ご連絡お待ちしておりました』
「葉山さん、その呼び方は止めてくださいと何度も言っているではないですか」
『では達也殿、今回は長時間の魔法行使、ご苦労様でした。真夜様も達也殿の長時間の魔法行使で得られたデータに大変喜ばれております。これでより一層研究が進むとのこと』
「そうですか。それで、母上は今大丈夫でしょうか?」
『もちろんですとも。達也殿からの連絡を、今か今かと待っておられていましたから』
電話越しに葉山がニヤリと笑ったのを達也は感じ取り、つられるように口角を上げた。背後で控えている水波には達也の声しか聞こえていないが、恐らく察しているのだろう。
『達也さん、水波さんの奪還、並びにワイアット・カーティス上院議員の依頼達成おめでとうございます』
「ありがとうございます、母上。具体的な話は勝成さんを介して報告されているとは思いましたが、俺の方からも報告しておいた方がいいと考えてご連絡いたしました」
『確かに一連の報告は勝成さんから受けていますし、昨日の夜に深雪さんからもご連絡いただいています。ですが、本人から聞くのとは違う可能性もありますから、達也さんからも報告してちょうだい』
「分かりました」
達也はミッドウェー監獄襲撃からパールアンドハーミーズ基地で水波を奪還するまでの一連の流れを真夜に報告する。途中何度か真夜が興味をそそられるように息を呑んだのには気付いていたが、話の流れを止める程ではなかったので最後まで一気に報告を済ませた。
「――以上が俺がUSNAでしてきた全てです」
『とても興味深いわね。三矢家から聞いていた情報と実際の基地の武器配置は違っていたのね?』
「意図的に嘘の情報を教えていた感じではありませんでしたので、三矢家が持っていた情報は最新の物ではなかったと考えるべきでしょう」
『そうね。まぁ三矢家は佐伯少将に情報を流したという証拠がありますから、何か問題があればそれで対処できるでしょう。それよりも達也さん、貴方の新魔法『アストラル・ディスパージョン』は、本当にパラサイトをこの世界から消し去ることができるのですね』
「藤林長正相手に使った時よりかは詳細なデータが取れていますので、それも後日詳細なデータにしてお持ちいたします」
『楽しみにしているわ。それで、パールアンドハーミーズ基地での件だけども……』
達也が感じ取った戦闘の匂いは、当然の如く真夜にも報告されている。今更数百人が消し去られたからといって思うことはないだろうが、それでも若干声のトーンが下がったのは仕方がないことだろう。
「俺が到着した時には既に水波一人以外の存在はありませんでした。光宣の魔法『人体発火』の痕跡がありましたので、光宣とUSNA軍との間に決定的な溝ができたと考えるべきでしょう。そしてある程度の人間を消し去った後、恐怖で残りの軍人を支配し、どこかに逃亡したと考えるのが妥当かと」
『そうね、私もそう考えているわ。でも今回のスポンサー様からの依頼は、九島光宣の始末ではなかったのだから、日本に戻ってきていないことを考えれば上々の成果と言えるでしょう。水波さんもとりあえずはこちらに戻ってこられたのですから』
「その件ですが、水波を早急に本土に戻すことは可能でしょうか?」
一応達也が「眼」を使って水波の容態を確認しているのだが、何故水波の容態が安定しているのかが分からない。
『その話は深雪さんからも聞いていますが、やはり達也さんが堂々と表舞台に復帰してからの方が良いともうのよね。国防軍の皆さんが躍起になって達也さんの偽装入院を暴こうとしているようですし、今その島から人を移動させるのはちょっと面倒になりそうなのよ。もちろん、水波さんに何かあればすぐに対処できるよう環境は整えてあるから、本当に危なくなったら言ってちょうだい。すぐに兵庫さんが水波ちゃんを搬送できるように待機してもらっているから』
「分かりました。ただ水波の演算領域のオーバーヒートはとりあえず沈静化していますので、突然倒れるということはないと思います。問題は、何故沈静化したのかが分からない点ですので」
『本当にパラサイト化しているわけではないのね?』
「俺が視た限りですが、水波にパラサイト化の兆候は見られません。だから余計に不気味なのです」
もし光宣が水波を無理矢理パラサイト化させていたのなら、容態が安定しているのも理解ができる。だが水波はパラサイト化していない。なのに急に容態が安定するのかと、達也はその点が不安なのだ。
『達也さんが視て分からないのなら、他の誰にも分からないとは思うけど、とりあえずあと数日は辛抱してちょうだい。情報部の方々も、達也さんがUSNAで暴れてきたなんて思っても見ないでしょうけども、余計な詮索は避けたいでしょう?』
「そうですね」
達也がUSNA軍の基地を襲った証拠は無いが、使われた魔法から達也だと気づく連中は少なからずいる。だが達也が入院しているという嘘を吐き通せば、証拠はないのだから躱せるというのが四葉家の考えだった。
追及されても躱せそうですけどね