劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どういう反応をされるかが怖いよな……


深雪への報告

 真夜から告げられた褒賞の内容と、達也の胸に飛び込んで泣いたことを知られていた恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら深雪が待つリビングへ戻ってきた水波は、かなり動作が不自然な感じはしたが、それでも食器を落としたりせずに片づけを進めている。だがもちろん、深雪に水波の様子がおかしいとバレているので、何時までも誤魔化すことはできない。

 水波は一通りの片づけを終えてから深雪に話があると切り出し、深雪の分のお茶だけを用意しようとして、すぐに深雪から自分の分も用意するよう指示を受ける。

 この従兄妹にとってはそれが当たり前なのかもしれないが、水波からしてみれば自分の分のお茶を用意する習慣が無いため、毎回達也や深雪に言われない限り自分の分を用意しようとはしないのだ。

 

「それで、水波ちゃんの様子がおかしかった理由を教えてくれるのかしら?」

 

 

 深雪にお茶を出し、その正面に腰を下ろしたタイミングを見計らったように深雪が尋ねてきたので、水波は思わずバランスを崩しそうになり、ギリギリのところで粗相をせずにすんだ。

 

「水波ちゃんが達也様のご報告に同行した前と後で明らかに様子がおかしかったから、何かあったと分かりそうだと思わない?」

 

「それ程おかしかったでしょうか?」

 

「えぇもう。水波ちゃんからしてみれば不自然ではないように動こうとしていたのかもしれないけども、それがもう不自然だったし、それ以前に顔が真っ赤よ?」

 

「っ!」

 

 

 深雪に指摘されるまで自分の顔の赤さに気付いていなかったのか、水波は慌てて自分の頬を両手で隠すが、すぐに意味が無いことだと考えなおして誤魔化すようにお茶を飲んだ。それで覚悟が決まったのか、それとも何時までも深雪の時間を奪うのは良くないと考えたのかは分からないが、水波の瞳には覚悟を決めたような光が宿っている。

 

「今回の件で、真夜様から褒美をいただけることになりました」

 

「あら、そうなの? まぁ、水波ちゃんが光宣くんに連れ去られたおかげで、達也様にとっていい方向に話が進んだわけだし、水波ちゃんにとっては不本意だったかもしれないけど、USNAに連れていかれたからこそ、今回の結果になったと言えるでしょうしね」

 

「実は、私が光宣さまに着いて行ったのは、半分は自分の意志だったのです」

 

「どういうこと? まさか、光宣くんの気持ちに応えたいと思ったの?」

 

 

 深雪は水波の気持ちを知っている。だが光宣程の見た目の異性が自分のことを好きと言ってくれていたのだ。気持ちが揺らいでしまっても仕方がないだろうと思っている。もちろん、深雪がいくら他の異性から告白されようと気持ちが揺らぐことはないのだが。

 

「いえ、青木ヶ原樹海に潜伏していた際、その御屋敷に八雲僧都さまがお目見えになられまして」

 

「八雲先生が?」

 

「はい。あの時は何故あのようなことを言われたのかは分かりませんでしたが、私がUSNAに行くことで達也さまと深雪様の未来にとっていい方向に話が進むと」

 

「なるほど……それで水波ちゃんは光宣くんに曖昧な答えを返し続けてそのままUSNAに同行したってわけね」

 

「その結果、達也さまに多大なるご迷惑をお掛けしてしまいましたが」

 

「達也様にとってあの程度のことは迷惑の範疇には入らないでしょうけども、しなくてもいい戦闘をしたのは確かね。もちろん、水波ちゃんの所為ではなく、達也様の御考えを理解できない方たちの所為で、だけども」

 

 

 水波が恐縮しかけたので、深雪はすぐにそうフォローしたが、あまり効果は見られない。そもそも自分が深雪と光宣の間に割って入ろうとしなければ、ここまで事が大きくなることもなかったのだから気にするなと言うほうが無理である。

 

「それで、叔母様は何ておっしゃったの?」

 

 

 深雪のセリフで、水波は自分が一番大事なことを深雪に告げていないことを思い出し、俯いていた顔を正面に向け直す。

 

「今回の件で私を、達也さまの婚約者の一人として認めてくださる、と……」

 

「あら、良かったじゃない。これで水波ちゃんも堂々と達也様の御側にいることができるのね」

 

「深雪様はよろしいのですか?」

 

 

 水波は深雪が反対するのではないかと怯えていたのだが、あっさりと受け入れてくれたので拍子抜けな気分を味わい、思わずそう問いかけてしまう。

 

「本音を言えば、これ以上達也様の周りに女性が増えるのは好ましくないわ。でも、水波ちゃんは私にとって妹のような存在。その水波ちゃんが幸せになれると言うのなら、私の我が儘を押し通すわけにもいかないでしょ? それに、水波ちゃんなら七草先輩やほのかのように達也様に対して過度のアピールをすることもないでしょうし」

 

「深雪様……ありがとうございました」

 

「それは何に対するお礼かしら?」

 

「私のことを迎え入れてくださったこと。婚約者になることを認めてくださったこと。そして、私のことをそのように思ってくださっていることに対してのお礼です」

 

「これからもよろしくね、水波ちゃん」

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 

 泣きながら笑みを浮かべる水波を、深雪は席を立ち強く抱きしめる。その際水波から達也の匂いがしたが、深雪はそのことに目を瞑るのだった。




水波なら受け入れられるでしょう

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