劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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リクエストがあったあーちゃんのIFですが、何か違う気も……


IF世界 あずさの夢

 真由美と鈴音に何とか都合してもらって、あずさは今達也が帰ってきている新居の中でも限られた人間しか入られない地下へとやってきている。理由は達也が憧れのトーラス・シルバーだと発表されたことにも関係しているので、達也も断るということができなかったのだ。

 

「おひさしぶりです、中条先輩」

 

「お、おひさしぶりですね、司波君」

 

 

 当たり障りのない挨拶を交わした達也とあずさだったが、あずさの方の表情は緊張で固まっている。達也とあずさの距離は十分に開いているので、達也の圧が原因というわけではない。

 

「それで中条先輩、俺に何か言いたいことがあると伺ったのですが」

 

「言いたいことという程のことじゃないんですけど……司波君に私の調整を見てもらいたくて」

 

「調整を? 以前先輩が調整したCADを拝見したことがありますが、十分に魔工技師としてやっていけるレベルだと思いましたが」

 

「実は私、以前から司波君がシルバー様なんじゃないかと思っていたんですけど、それを確認する勇気がなかったんです。一高在籍時なら司波君に調整方法を教わったりできたのにって話をしていたら、真由美さんたちが司波君に話を通してくれたんです。ですから司波君――いや、シルバー様! 私がCADを調整しているところを見ていてくれないでしょうか?」

 

「み、見るだけなら」

 

 

 彼我の距離を一気に詰められさすがの達也も顔を引きつらせる。普段怖がられていると思っていた相手がいきなり手を掴んできたら当然だろう。

 

「あっ、ゴメンなさい!」

 

「見るのは構いませんが、それ程時間は取れません。それでも良いですか?」

 

「もちろんです! シルバー様がお忙しいのは知っていますから!」

 

「あと、その『シルバー様』というのも止めてください。俺はもう、トーラス・シルバーに戻るつもりはありませんし」

 

 

 正体を明かした以上、トーラス・シルバーである必要は無くなっている。牛山とまたコンビを組んで何かをする可能性はあるが、トーラス・シルバーとして活動する予定は、今のところないのだ。

 

「わ、分かりました。それじゃあ司波君。すぐに準備するので!」

 

 

 あずさは新居の地下に設置されている機器を見て、大学の機材より立派なものだとすぐに見破っていた。達也が世界的な魔工師であり、四葉家の御曹司なのだからこれくらいでは驚かないが、それでも実際に操作する時には緊張を禁じ得なかった。

 

「(シルバー様に――いや、司波君に私の調整を見てもらえるなんて思ってなかったから、何だか緊張するな……真由美さんたちが言っていたけど、司波君に見られていると、何だか心の裡まで見透かされている気分になるな)」

 

 

 達也は今『精霊の眼』を使ってはいない。それでもあずさは達也に見透かされている気分に陥るのは、それだけ達也の視線が鋭いからかもしれない。技術者として他人の調整を見て、何処をどう改善した方が良いのかをしっかりと見極める為なのだが、その視線があずさをますます緊張させているのだ。

 

「お、終わりました」

 

 

 達也に見詰められること十分足らずであずさは用意したCADの調整を終えた。さすがに魔法式の改良などはできないが、この程度なら十分もかからずにできるのだ。

 

「まず気になった点ですが、何故俺に教えを請おうと思ったのでしょうか? 大学の教授の中にも、それができる人はいたと思いますが」

 

「司波君は、私がトーラス・シルバーのファンだということは知っていますよね。その相手が高校の後輩だと分かれば、可能性は低くても教わりたいと思うのは当然だと思うのですが」

 

「そんなものですか。それで、肝心の調整の方ですが――」

 

 

 達也は調整の際に気になったことを、事細かに説明していく。あずさは一言一句聞き逃さまいとする勢いで身体ごと達也の言葉に耳を傾けて説明を聞いていき、重要なことはメモに記す。

 

「――以上ですかね。中条先輩がCADの調整を生業にするつもりなら、まだいくつか気を付けておくべきことはありますが、これ以上は先輩がパンクしそうですから止めておきます」

 

「あ、ありがとうございます……また別の機会にその部分は教えて――」

 

「先輩?」

 

 

 さすがに詰め込み過ぎたのか、あずさは目を回してその場に崩れそうになった。しかしいつまで待っても地面に身体を叩きつけるような痛みが襲ってこないので、あずさは不思議に思い瞑っていた目を開き状況を確認する。

 

「し、司波君!?」

 

「大丈夫ですか? すみません、研究所の癖で、一気に話し過ぎましたね」

 

「そ、それは大丈夫なんですけど、この状況は……」

 

 

 あずさは今、達也に抱き止められている。あずさなら、達也が抱きかかえても問題は無いくらいのサイズだから達也に負担は無いかもしれないが、あずさの心は冷静ではいられない。

 

「も、もう大丈夫ですから!」

 

「そうですか? 七草先輩を呼んできましょうか? 何なら駅まで送りますが」

 

「そ、そんなことしたら真由美さんたちに殺され――い、いえ、質問攻めにされますので……」

 

 

 達也に抱き止められたなど真由美に知られれば、間違いなく嫉妬されると分かっているあずさは、慌てて自分の足で立ち地上へと続く階段を上っていく。自分がシルバーである達也に抱き止められたということを忘れようとしても、微かに匂う達也の香りが、それをさせなかったのだった。




これはこれで甘い……のだろうか?

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