水波が日本に戻ってきて、達也の自由を制限しようとする輩の排除も終わり、深雪は久しぶりに達也と二人きりの外出を楽しんでいた。
「こうして達也様と二人きりでお出かけするのは久しぶりですね」
「そうだな。最近はいろいろと忙しかったりしていたし、深雪にも危害が及ぶ可能性もあったから別行動を取っていたからな」
「リーナが護衛としてついていてくれましたが、やはり達也様と一緒の方が安心感があります」
リーナの実力はそこらへんの魔法師なら相手にならないくらいのものなのだが、深雪はそれと互角程度の、達也はそれ以上の実力を有しているので、リーナの護衛に多少の不満があったのは仕方がないだろう。だがこの二人の間でそのことに対するツッコミは発生せず、リーナの力不足の所為だったということで結論付けられてしまった。
「しかし達也様、本当に水波ちゃんは普通に魔法を使うことはできないのでしょうか?」
「少なくとも今のままでは使うことはおろか、使われたことにも気づけないかもしれないだろうな。早急に人工魔法演算領域の研究も進め、水波に施術する方向に本家では話が進んでいるようだ」
「ですが、その施術を行うのも達也様ですよね? 達也様は先日まで入院しておられましたし、それ以外にもいろいろと忙しい身ですのに、これ以上研究に時間を割く余裕はあるのですか?」
達也の体調を心配している深雪だが、だからといってこの時間を手放すつもりは無いのか、自分と遊んでいる時間を「忙しい」の中にはいれていない。達也も深雪との時間を切り上げてまで研究に没頭するつもりは無いので、このことに関してもツッコミはなかった。
「パラサイト問題が一段落したから、そっちに使っていたリソースを水波の為に使えば、今までとさほど変わらない生活が送れるだろう。もちろん、USNAが余計なことをしてくる前と比べれば、忙しいのには変わらないだろうがな」
「私ももちろんですが、ほのかやエリカたちも達也様の御身を心配しているのですから、くれぐれも無理だけはしないでくださいね?」
「分かっている」
会話内容こそ普通とかけ離れているが、達也と深雪の間に流れている空気は、いかにも恋人同士のような感じで、周りの独り身たちに多大なるダメージを与え続けているのだが、二人はそのことに気付いていない。達也は本気で気付いていないのだが、深雪は気付いていながらなお自分の態度を改めるつもりが無いのである。
「そういえば深雪、母上が巳焼島で生活してみた結果をレポートにして提出して欲しいと言っていたのだが」
「叔母様が?」
「深雪ならよりよい生活環境を整える為に何が必要なのか分かるのではないかと言っていたが」
「そうですね……」
達也が入院していたとされる期間、深雪も巳焼島で生活していたので、それなりにあの島のことは把握している。だがこれと言って改善して欲しい箇所は思い浮かばなかった。もしあの島での生活に不満があったとすれば、それは自由に達也に会うことができなかったことだけなので、生活環境を整えるといった名目からは外れてしまっているのだ。
「今のままでも十分快適に生活できましたし、もしまだ問題点があるのかもしれないと不安であるのならば、あの島に泊ったほのかや雫、そして七草先輩たちにも意見を求めてみては如何でしょうか?」
「いや、今のままで十分ならそのことをレポートにしてくれればいいだろう。母上だって、これで十分だと分かれば、別のことに時間を使えるだろうし」
「叔母様は達也様が開発した新魔法『アストラル・ディスパージョン』のレポートに大変興味をそそられている様子ですし、万が一私たちの誰かに不満があったとしても、そのことは後回しにされてしまうのではありませんか?」
「どうだろうね」
達也は既に新魔法『アストラル・ディスパージョン』の詳細なレポートを四葉家に提出しており、真夜は達也のレポートを読み見る者を虜にするような笑みを浮かべていたと、先日葉山からの連絡で深雪は知っていた。だから今別のレポートを提出されたとしても、真夜の興味がそちらに向くことはないだろうと考えたのだった。
一方で達也は、レポートを提出して欲しいと言ったのだから、それなりに興味は持つだろうと思っているのだが、深雪が生活して問題がないと言うのであれば、ほのかや雫も文句は無かったのではないだろうかと感じていた。
理由は違うが、二人とも今回のレポートはさほど真夜の興味を惹かないだろうということで話を終わらせる事にしたのだった。
「ところで達也様。せっかくのデートなのですから、もう少し楽しい話題にしませんか? まだ完全に浮かれられる状態ではないとは分かっているのですが、せめてこの時間だけは……」
「そうだね。せっかくの時間だ。暗い雰囲気は深雪に似合わないし、何処か行きたいところはあるか?」
「そうですね……いろいろあって夏物をちゃんと見れていなかったので、お付き合いいただけませんか?」
「いいよ。深雪が望むところに行こう」
二つ返事で快諾した達也に、深雪は満面の笑みで近づき、腕を組んで目当ての店を目指す。本音を言えば飛びつきたかったのだが、そこは淑女の嗜みで堪え、それでも堪えきれなかった分を腕組みで誤魔化したのだった。
達也も深雪に甘いからなぁ……