達也に自分の妄想内容を知られたと勘違いした深雪は、部屋に戻っても終始落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。達也は自分に宛がわれた部屋にいるので、この場には深雪しかいないのだが、どうしても落ち着けずにいた。
「(達也様に知られてしまった……イヤラシイ娘だと思われてしまったらどうしよう……)」
実際には達也は深雪が何故顔を赤らめたのか分からず終始深雪の心の裡を見ようとしていたのだが、それも深雪からしてみれば無言の責めのような気がして落ち着けない要因となっていた。
「(達也様は鬼畜な面がおありなのですね……初めての時はそのような方向でも――って、私は何を考えているのかしら! こんなことを考えているから、達也様の前でもあのような考えをしてしまったというのに)」
普段から深雪は達也に抱かれる妄想をしていた。これは婚約者になる前からであり、血の繋がった兄妹だと思っていた時もそうである。その時はまだ大人しめな妄想だったので達也の前でも恥ずかしさを覚えることはなかったのだが、今回のはかなり具体的なことまで考えていたので、それが達也に知られてしまったと思い顔を真っ赤にしたのだ。
「(達也様が『そういった行為』は高校卒業するまでしないと公言しているので、他の婚約者の方たちも無理に迫ったりはしていないのですが、少なからず達也様に抱かれる妄想はしているはず……ほのかなら十中八九しているでしょうね)」
深雪はほのかが本気で達也のことを愛していることを、達也が四葉家の次期当主に指名され、大勢と結婚できると決められる前から知っており、自分にある枷がほのかにはないことを羨んでいた時期がある。だからほのかの気持ちが本物であるということも理解しているし、ほのかなら自分と同じような妄想をしていても不思議ではないと感じている。
「(でも、このようなことを聞けるわけ無いし……というか、もしほのかがそのようなことを考えていなかったら、私はただ自分が恥ずかしい思いをするだけじゃないの)」
いくら十中八九ほのかが妄想していると思っていても、万が一の可能性がある。その場合ただただ深雪の思考がほのかに知られてしまうだけであり、そうなった場合深雪は恥ずかしさの余り引き篭もる自信があった。
「(誰かに相談したいけど、こんなことを話せる相手なんて……)」
いるはずがないという結論に先ほどから辿り着いているのだが、自分一人ではどうにもできないので何度も考え直しているのだが、どう考えても相談できる内容ではない。深雪は遂に耐えきれなくなりベッドに倒れ込み何度も左右に転がって恥ずかしさを紛らわせ始める。
「(私のバカ! 達也様の前だと分かっていたはずなのにあのようなことを……そもそも私が余計なことを言った所為で達也様に見詰められたのだから、達也様は悪くないのにあんな態度を取ってしまうなんて……)」
自分を責めても責め足りない気持ちになり、深雪の思考はどんどんと悪い方向へ進んでいく。そんなことをしていると、部屋の外に人の気配を感じ取り、深雪は居住まいを正した。今この空間にいるのは深雪と達也の二人のみ。つまり外にいるのは達也だ。
「深雪、少しいいだろうか?」
「申し訳ございません、達也様! ちょっと見せられる恰好をしておりませんので、扉越しでもよろしいでしょうか?」
「……深雪がそれでも構わないなら、俺の方は構わないが」
実際今の深雪の格好は下着姿であり、さすがに達也に見せることはできない。幾ら恥ずかしいからといえ、服のままベッドに飛び込むことはできなかったのでとりあえず服を脱いでベッドに飛び込んだのが仇となり、深雪はしなくてもいい羞恥を再び感じなければいけなかったのだ。
「さっきのことだが、深雪は何も悪くない。恐らくお前の気持ちを汲み取れなかった俺が悪いのだろう」
「そのようなことはございません! 達也様の前であのようなことを考えてしまった深雪が悪いのです」
「……深雪が何を考えたのか、俺には分からない。だがそのようなことを考えさせてしまった俺の方に問題があるのだろう。だから、深雪は気にするな」
「達也様……」
「それだけだ。俺は暫く部屋にいるから、落ちついたら言ってくれ。何時までも深雪の機嫌を損ねたんじゃないかと考えていたら、他のことが手に付かなくてな……」
まさかそこまで自分のことを考えてくれていたとは思っていなかった深雪は、今すぐにでも部屋から飛び出て達也の胸に飛び込みたい衝動に駆られたが、自分の格好と先ほどまでの羞恥心の所為でそれは叶わなかった。
「申し訳ございません、達也様。後一時間もしない内に落ち着くと思いますので、それまでは……」
「あぁ、それじゃあ、後でな」
達也が遠ざかるのを感覚で理解し、深雪はのろのろとベッドに向かい、先ほどとは違う理由でベッドの中を転がる。
「(達也様にとって私が一番だということよね……)」
何においても自分のことを考えてくれていたということで、深雪は歓喜で先程までの羞恥を吹き飛ばし、立ち直るきっかけを得たのだった。
深雪第一ですから