劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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メイドとしての習慣が染み込んでいる


IF世界 水波の朝

 光宣に誘拐されたとはいえ、結果的に達也の利益につながる行いをしたとして、水波は愛人枠から婚約者への変更が認められ、四葉家内での立場も調整体魔法師従者から次期当主の婚約者へと変更になった。だからといって水波の生活習慣が変わるわけでもなく、彼女は今日も朝早くから朝食の準備の為にキッチンへ顔を出している。

 

「深雪様には申し訳ないですが、私だって達也さまに料理を作って差し上げたいですし」

 

 

 本来であれば達也の食事は深雪が担当することになっているのだが、昨晩深雪と水波の長時間における交渉の結果、一日交代で食事の用意をすることで話がまとまった。なおこの交渉は、達也が新居に戻るまでの間有効で、戻った後も達也が四葉ビルに来た時には交互に用意することとなっている。

 

「おはよう、水波ちゃん」

 

「おはようございます、深雪様。この様な時間に如何なさいましたか?」

 

「習慣で目が覚めちゃっただけよ。お茶をいただけるかしら」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 

 お茶程度ならHARで用意できるのだが、水波はわざわざ自分の手でお茶を用意する。HARを信頼していないわけではないのだが、水波が手ずから淹れた方がおいしいお茶が用意できる。深雪は水波にとって主に当たる相手であるが故に、自分の手で用意したお茶を出すのが普通だという考えが染み込んでいるのだ。

 

「お待たせいたしました」

 

「ありがとう。それにしても水波ちゃんが私たちと同じ婚約者になるとはね……」

 

「四葉家の次期当主であられる達也さまと調整体魔法師である私とでは釣り合わないと分かっているのですが、御当主様が特例を認めてくださったのですから断るわけにもいきません」

 

 

 本音は断る気などないのだが、水波はそのような表現の仕方はしない。今回の特例だって水波本人にとっても衝撃的なことであり、そもそも褒美をもらうようなことをした覚えは水波には無い。だが愛人でも満足だと自分に言い聞かせていたところに婚約者として認めてもらえるという話が舞い込んできたのだ。嬉しくないわけがないということは、隠すくことなどできず、深雪にしっかりと知られている。

 

「今回の件で達也様の婚約者を増やしてもいいのではないかと考える人がいるようだけど、水波ちゃんはあくまでも特例中の特例。これ以上達也様の周りに人を増やすことはないでしょうね」

 

「ただでさえお忙しい達也さまですから、婚約者の全員の相手を平等にするだけでかなりの時間を要しますでしょう。これ以上の増加は達也さまの研究の妨げにしかならないと思います」

 

「そうね。ただでさえUSNAや国防軍の方々が余計なことをしてくれた所為で達也様の研究は遅々としか進んでいないというのに」

 

「達也さまが直接指示を出さないとできないものも多いですからね」

 

 

 それ以外にも新ソ連に対する準備や、吉祥寺が馬鹿正直に話した所為でマスコミが達也の側にも流れてきたのもあるのだが、それを無視しても達也には時間が足りないのだ。これ以上婚約者を増やしてその相手をさせるのは、魔法師界にとっても良いことではないだろう。

 

「達也さまの研究を手伝える人材なら良いのかもしれませんが、その可能性がある市原鈴音様は既に婚約者ですし、藤林響子様も同様ですからね」

 

「中条先輩も興味はあるみたいですけど、達也様に対して憧れの念が強すぎて手伝いにならないかもしれないわね」

 

 

 あずさがトーラス・シルバーのファンであるということは水波も知っている。以前からそうではないかと疑っていたようだが、正式に発表されてからというもの、あずさは魔法大学で後悔の念を呟いていると、真由美から聞かされていた。

 

「中条先輩は本当にデバイスがお好きなようですね」

 

「渡辺先輩曰く、デバイスオタクだもの。特にトーラス・シルバーの製品には眼が無いと仰っていましたし」

 

 

 実際深雪が入学してすぐに、達也が持っていたシルバー・ホーンに物凄い興味を見せ、達也にべったりくっついて機嫌を損ねたこともあるのだが、本人が深雪の機嫌を損ねたことに気付いていなかったので、問題にはならなかった。それくらいあずさのデバイス愛は深く、生徒会長選挙に立候補させる為に飛行デバイスで釣られた過去もある。

 そんなあずさがトーラス・シルバーであった達也の手伝いに参加したとして、果たしてまともに作業出来るのかという疑念がある為、あずさからの手伝いの申し出は保留されている。

 

「そもそも中条先輩の研究テーマと達也様のプロジェクトは少し違うような気もしますしね」

 

「ですが、昨年行われた恒星炉実験の際、中条先輩は参加メンバーでした」

 

「全体の調整役として参加してくださったわね。もちろん、中条先輩なら達也様の御力になれるかもしれないけど、それ以上に妨害しそうな気もしなくもないわ」

 

「さすがに弁えているとは思いますが」

 

 

 ある意味トーラス・シルバー製品に囲まれての研究と言えなくもない環境で、あずさが正常な思考を保てるのかが深雪は不安であずさの手伝いは遠慮したいと考えているのだが、水波はさすがに分別を持っていると考えている。この二人があずさの事を話し合っても意味は無いのだが、二人はそのことに気づかずに会話を続けたのだった。




あずさは本当にデバイスオタクだからな……

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