地下道を通って居住区へやって来た四人は、達也が入院していることになっている病院を訪問してから達也と水波が待つ部屋へ向かった。この辺りの抜かりはなく、夕歌も亜夜子も病院から出てきた際にはかなり動揺した表情を浮かべていた。
「夕歌さん、亜夜子、わざわざ申し訳ございません」
「これも達也さんが考える未来に必要なことだもの。四葉分家の人間として、婚約者としてこれくらいのことは当然よ」
「そうですわ、達也さん。本来であれば達也さんが入院したということになったその日に訪問してもおかしくはなかったのですが、あまりにも迅速に動くとそれはそれで疑念を持たれてしまいますので」
追突事故があらかじめ決まっていたので、亜夜子も夕歌もその日の内に巳焼島を訪れることになっても問題ない様準備はしていたのだが、亜夜子が言うように迅速に動き過ぎると、それはそれで不自然だと感じる人間も出てきてしまう。なので達也が巳焼島に不在の間は誰一人巳焼島を訪れることはなく、この日まで経過したというわけだった。
「達也さんが入院したニュースは本土でも大々的に報道されているし、国防軍内の反魔法主義者たちには厳しい目が向けられているわ」
「魔法師に友好的なメディアだけなら兎も角、魔法師に否定的なメディアまで今回の件は大々的に報じていますので、それだけ達也さんが今後の世界に必要な人物であると思われている結果だと思いますわ」
「国防軍内の動きはどうだ?」
「佐伯閣下は面白くなさそうに感じている様子ですが、それも近々解決する目途が付きましたし、それ以外の方で達也さんの魔法を知っている軍上層部に属している方はいらっしゃいません。なので達也さんが偽装入院であると見破っているのは、一〇一旅団関係者だけです。なおかつ軍上層部は達也さんの研究を有益だと考えている様子ですので、ディオーネー計画への参加要請も正式に断る方向で政府高官に進言するそうです」
亜夜子からの報告に、達也は満足そうに頷いたが、深雪は少し不満げな表情を見せている。そのことが気に懸かったのか、亜夜子が深雪に視線を向ける。
「深雪お姉様は何か気に入らないことがあるご様子ですが」
「そもそも達也様が既に参加拒否を表明しているというのに、何故未だに政府はUSNAからの要求を正面から断らないのかと思っただけです」
「恒星炉プロジェクトが有益であると考えが至らなかったんじゃない? 政府としては真正面からUSNAと衝突はしたくなかったでしょうし、達也さん一人を差し出せば友好な関係を続けられるというのなら、多少の犠牲は仕方がないと考えても不思議はないし。まぁ、達也さんをUSNAに差し出すなんて、四葉家全ての人間を敵に回すのに等しいから、国内平和からは遠ざかるでしょうけども」
「USNAか四葉家かどちらかを選ばなければならないとなれば、慎重に慎重を重ねるのも仕方がないことですわ。ですが、達也さんを差し出したからといって、USNAと友好な関係が続けられたかどうかは微妙でしょうが」
「USNA軍の現状を考えれば、とてもじゃないけど友好的な関係なんて築けなかったでしょうね。下手をすれば国防軍内にもパラサイトに侵食された人間が出てきて、まともな軍人がいなくなっていた可能性の方が高そうだし」
「その尻拭いを達也様にさせておきながら、未だに上から物を言ってくるなんて……やはり一度軍上層部や政府官僚の掃除を行った方が良いのではないでしょうか?」
深雪が言う掃除とは、馘にするという訳ではなく、本当にこの世から排除するという意味である。この場にいるリーナ以外の人間にはそれが分かったが、リーナはそれが分からずに首を傾げる。
「一民間人でしかない深雪が、どうやって軍上層部や政府官僚の刷新をするのよ?」
「リーナ……貴女スターズで同胞を始末していたとは思えないくらい思考がピュアね」
「やりたくてやってたわけじゃ――えっ、掃除ってそういう意味?」
「当たり前でしょう? 達也様の邪魔をしようとするだなんて万死に値する行為だわ。本当なら今すぐにでも罰を与えたいところだけども」
「深雪が言うと冗談に聞こえないのだけど……まさか本気じゃないわよね?」
リーナは深雪が冗談を言っているのだろうと思いたかったが、深雪の表情が、また周りの人間の雰囲気がそのような誤解を許してくれなかった。
「まぁ、今そのようなことをすれば、よその国に侵略のチャンスを与えるだけだし、実行はしないけどもね」
「しようと思えばできるのが恐ろしいわね……」
「貴女だって、たった一人で戦況をひっくり返せる魔法があるんだから、私のことをとやかく言える立場ではないと思うのだけども」
「そもそも深雪さんがそんな事をしようとすれば、達也さんが止めるから心配ないわよ。ね、達也さん?」
「そうですね」
今までの雰囲気が夕歌の冗談で一変し、リーナは張り詰めていた緊張を解いてその場にへたり込む。そんなリーナの反応を、亜夜子が楽しそうに見詰めていたのだが、リーナはその視線に気づくことができなかった。
リーナはやっぱり……