劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

2138 / 2283
気にしてしまうのも仕方がない


IF世界 響子の心労

 お咎めがなかったとはいえ、響子は肩身の狭い思いで新居で生活していた。達也に仇を為したと思われているのではないかとビクビクしながらの生活では心身ともに疲労が蓄積していくし、職場では職場で佐伯を裏切った罪悪感から上司の目が気になってしまう。

 そして達也がUSNAに襲撃することを知って、身内である光宣が水波を攫った所為で達也に余計な手間を掛けさせ、挙句に達也の邪魔をしようとする佐伯の計画を知りながら達也に伝えられなかった罪悪感も相まって、体調を崩しかけているのだ。

 

「(このままここで生活していたらいずれ駄目になりそう……達也くんとの婚約を破棄した方がいいのかもしれないわね……)」

 

 

 新居で生活していても他の婚約者から責められている錯覚に陥り、職場から戻ってきてもすぐに部屋に篭っている為、周りからは心配されているのだが、響子にはそれが責められているからだと思い込み、更なる悪循環が生まれているのだった。

 

「あら、このような時間にどちらへお出かけでしょうか?」

 

「貴女……津久葉夕歌さん」

 

「藤林さんが達也さんを裏切ったと思い込んでいるようでしたので、一度ゆっくり話した方が良いと達也さんから相談されていたのでお迎えに上がろうと思っていたのですが」

 

「達也くんが?」

 

「先日申し上げた通り、我が四葉家は藤林響子さん、貴女に責任を負ってもらうつもりはございません。この決定は当主である真夜だけでなく、次期当主である達也さんも納得しての決定です」

 

「四葉家の方々が私のことを罰しないと決めているからといって、私の罪が消えるわけではありません。そもそも達也くんからも、話し合うことはないと突き放されたばかりですので」

 

「達也さんはいろいろと配慮不足な面がありますので勘違いされがちですが、そのことは貴女も知っているはずですよね?」

 

 

 響子は四葉関係者以外では、それなりに達也と付き合いが長い部類に入る。少なくとも、婚約者の中では一、二を争うくらいの付き合いがある。

 

「達也さんが貴女からの謝罪は不要だと言ったのは、謝ってもらったからといって水波さんが戻ってくるわけでも、九島光宣の手掛かりが手に入るわけでもないからです。そもそも達也さんの邪魔をしたのは藤林長正殿であり、貴女ではない。娘の貴女が親の犯した罪を背負う必要もなければ、たとえ藤林長正殿が邪魔をしなかったとしても、あの時は九島光宣に逃げられていたでしょうし」

 

「……九重八雲殿の妨害があったから」

 

「その通りです。いくら達也さんの実力が群を抜いているとはいえ、九重八雲を相手に九島光宣の追跡を続行することは難しいことは貴女も理解できていますよね? 稀代の古式魔法の遣い手であり、達也さんの体術の師匠でもある九重八雲が本気で達也さんの妨害をしてきたのですから、藤林長正殿の妨害が無かったとしても水波さんはUSNAに連れ去られていたでしょう」

 

 

 言外に父親の妨害など大したレベルではなかったと言われているような気がして、響子はますます肩を落とす。実際達也を苦しめるレベルまでの妨害は確かにできていないので、長正が妨害しようがしまいがという部分は否定できないのが余計にダメージを与えているのだ。

 

「とりあえず急ぎ片付けなければならない案件もありませんので、貴女の心のケアが必要だと判断した御当主が時間を作り、達也さんも必要だと判断されました。貴女の都合の良い日で良いということでしたが、想像以上に貴女が心身ともに疲弊している様子。今すぐ達也さんと面会した方が良いと判断し、先ほど達也さんにも連絡を入れておきました」

 

「それって、今から達也くんがいる場所に連れていかれるということ?」

 

「強制は致しません。あくまでの貴女が会いたいと思った場合のみです。ですので、ここからは貴女の判断次第です。このまま勝手に心身を病んで倒れようが、私には関係ありませんので。むしろ、婚約者が一人減るということは、その分私たちに割ける時間が増えるということですので」

 

 

 下手に慰めることはせず、むしろ響子を追いこめるようなことを平然と言ってのける夕歌。ここでつぶれるのなら真夜が勧誘する価値もないと判断する材料となってしまうのではないかと裏を読み、響子は気丈に振る舞いながら思考を巡らせる。

 

「(ここで差し伸べられた手を払ってしまったら、今後達也くんとの関係を修復するのは不可能になってしまうかもしれない。それどころか、精神的に脆いと判断され、四葉さんからの誘いもなかったことにされる可能性すら出てくる……上官を裏切った時点で、私はあの軍に居続けることができなくなっているというのに、今後の就職口のアテまで失ってしまうのは避けたい……それに、達也くんに配慮がないことは知っていたじゃないの)」

 

 

 何故達也が自分のことを気遣ってくれると思っていたのかと、響子は今更ながらに自分の勘違いに気づき恥じた。そのことで漸く冷静な思考を取り戻した響子は、夕歌の申し出を受けることにした。

 

「……達也くんがいる場所に連れていってくれるかしら」

 

「既に手配してあります。門を出た先に車を待たせていますので」

 

「用意が良いのね。私が行かないって考えなかったの?」

 

「その場合はそのまま元の家までお送りする手筈になっていましたので、無駄足にはなりません」

 

 

 何処までも先回りされていたと思い知らされ、響子は降参の意味を込めて苦笑いを浮かべ、夕歌に一礼して車に乗り込んだのだった。




四葉家相手にさすがの電子の魔女もお手上げ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。