真由美から真実を聞いた香澄は、真由美の部屋で憤慨した。自分も巳焼島に行きたかったという気持ちが無かったわけではないが、あまり大勢で押しかけるのも失礼だと自重したお陰で、巳焼島で張っているマスコミたちに不審な行動を見られずに済んだということは、香澄自身自覚していないが。
「つまり、水波を連れ戻しに行くために達也先輩はUSNAへ向かう必要があるけど、国防軍の連中がそれを阻止しようとするから、達也先輩は巳焼島で入院しているという名目を作る必要があったから、あの事故を引き起こしたってこと?」
「ざっくり説明するのなら、そういうことになるわね」
「それならそうと、さっさと教えてくれればよかったのに! 達也先輩ならあの魔法があるから大丈夫だって分かってはいたけど、あんな映像を見せられたボクたちの気持ちを少しは考えてくれればいいのに」
「あの映像は、必要以上に巳焼島に人間を近づけさせない為に四葉家の息が掛かったマスコミが流したのよ。別に私たちにショックを与える為に流したわけじゃないし、達也くんの意思はそこに介在していないわ」
「でもさ!」
「あのね、香澄ちゃん……ここで私に文句を言ったところで、達也くんには響かないし、香澄ちゃんの所為で水波さんが帰ってこれなくなるかもしれないのよ? 水波さんの友人として、少しは落ち着いてちょうだい」
「分かったよ……」
香澄は水波が光宣に惚れるなど微塵も思っていなかったので、USNAに素直について行ったのには何か理由があると思っている。だから水波の為と言われたらこれ以上は何も言えなくなってしまうのだ。
だが、感情を理性で抑え込める程、香澄の精神は大人びてはいない。苛立たしい気持ちは誤魔化せずに、ムスッとした表情を浮かべてしまうのは仕方がないのかもしれないと、真由美は苦笑いを浮かべる。
「香澄ちゃん、この家の中では別にいいけど、外でその顔をするのは我慢してよね? 泉美ちゃんは達也くんの魔法のことは知らないんだし、泉美ちゃんに話せばあの狸親父の耳に入る可能性がある。そうなるとこれ幸いと四葉家の邪魔をするとも限らないし」
「分かってるよ。でもさ、お父さんもいい加減諦めればいいのに。前に聞いた話では、本当なら十師族から外されるのは九島家ではなくウチだったんでしょ? 四葉家に喧嘩を売ればどうなるか、いい加減理解しても良いと思うんだけど」
「理解していても感情は抑えられないんでしょうよ。あの人も中身は子供のままということなのかもしれないわね」
「お姉ちゃんには言われたくないと思うよ、お父さんも……」
「どういう意味よ!」
香澄から見ても、真由美は中身がまるで成長していない。だから父親も真由美にだけは言われたくはないだろうと、その点だけは父親に同情したのだった。
水波が無事に日本に戻ってきて、達也も事情を説明する為に一高を訪れた際、香澄は風紀委員会本部に達也を連れ込み、内側から鍵を掛けた。これで部外者は室内に入ってこれなくなり、また風紀委員はほとんど出払っているので、本部に用がある人間もいないので、暫くは二人きりである。
「達也先輩、事情はお姉ちゃんから聞きましたが、事前に説明してくれても良かったんじゃないですか? ボクだけじゃなくて、他の婚約者だって、かなりショックを受けたんですから」
「あまり時間をかけられる状況じゃなかったからな。あの計画だって決まってすぐの実行に移したと言っても過言ではないくらいだったから、ゆっくりと事情を説明している暇は無かった。水波の状態もそうだったが、国防軍から横槍を入れられたら、二度と水波を取り戻すことができなくなっていたかもしれないしな」
「そうかもしれないですけど……だったら、事後報告でも良いから新居で生活しているメンバーに伝えてくれても良かったんじゃないですか? ボクはお姉ちゃんから話を聞けたから良いですけど、事実を伝えられていない人だっているんですから」
香澄は真由美を問い詰めて事実を聞いたが、他のメンバーはエリカやほのかたちから嘘の報告を受け安心していた。命に別状はないということだけでも十分に安心できるのだが、それでも達也が本当に襲われたとなれば、安寧とは程遠い精神状態だっただろうと、香澄は他人事のようにそう考えていたのだ。
「事実を知る人間を絞った方が、嘘を暴かれる可能性が下がるからな。本当なら香澄にも深雪が言った嘘を伝えて欲しかったんだが、恐らく香澄が問いただしたんだろ?」
「当たり前です! お姉ちゃんは嘘を吐くとき、微妙に視線を逸らしたりしますし」
姉妹だから分かる程度なのだろうが、達也は真由美ならあり得そうだと納得し、この後真由美を責めることは止めることにした。
「兎に角! 落ち着き次第ボクたちに対する穴埋めをしてもらいますからね! 司波会長や北山先輩たちは実際に巳焼島にいって達也先輩のことを聞けたから良いですけど、ボクたちは情報が入るまで生きた気持ちがしなかったんですから!」
理不尽なことだとは思わないが、達也に余裕が出るのは相当先だと分かっていながらも、香澄はそう言わなければ気持ちが抑えられなかった。達也は香澄が何を思っているのか理解しながらも、彼女の提案を素直に受け入れるのだった。
結局は甘えたいだけ