全てを終えて報告に訪れた達也に、真夜は満足そうな表情を浮かべながら自室へ招き入れた。さすがに堂々と達也のことを見下す従者はいなくなったが、それでも達也のことをどう扱えば良いのか困る人間はいる。その筆頭格であった青木は本家から離れる仕事を押し付けたお陰でこの場にはいないし、それ以外の人間にも達也の相手をさせないことで、達也に不快な思いをさせないという配慮をして。
そもそも達也がその程度のことで不快に思うわけもないのだが、滅多に会えない息子に少しでも気分よく過ごして欲しいという親心だと、達也の世話を仰せつかった葉山は真夜にを慈しむような目で見ている。
「達也殿、USNAから巳焼島までの長時間飛行、お疲れさまでした」
「あの程度なら問題ありませんよ。それに、そのデータを元に更なる飛行術式の向上につながれば、四葉家の利益にもつながるでしょうし」
「たっくんはこれ以上ないってくらい四葉家の利益に貢献していると思うのだけどね。次期当主として十分すぎるくらいの成果だって言うのに、貢さんたちは未だにたっくんのことを認められないみたいだけども」
「黒羽さんたちにも思うところがあるのでしょう。ずっと次期当主は深雪だと思っていたわけですから」
あの慶春会まで、達也の立場はあくまでも深雪のガーディアン、四葉家の魔法師として認められていない存在でしかなかったのだ。それがいきなり現当主の息子で、次期当主に指名されたのだから、それをすぐに受け入れられるわけがないと達也は考えている。真夜もその事は理解できているのだが、何時までも達也のことを下に見ている態度はいただけないのだろう。
「それで、パールアンドハーミーズ基地やミッドウェー監獄での詳細なレポートだけども、これだけのことをしておきながら死者はイリーガルMAPのメンバーとパラサイト化した軍人だけ。さすがはたっくんと言ったところかしら」
「東道青波からも、殲滅するのは認められないと言われていましたので、不必要な殺生はなるべく避けるように動きましたから。それでも、それ以外に死者が出なかったのは出来過ぎだと自分でも思っていますが」
「達也殿でしたら、この程度楽勝だと思っていましたが、ご本人では偶然でしかないと?」
「そうですね。一応加減はしていましたが、手榴弾の破片の当たり所などは調整できませんし、見ず知らずの相手に再成を使う必要性も感じませんでしたから。一般兵に死者が出なかったのは、本当に偶然でしかありません」
達也の言葉を、真夜も葉山も謙遜だとは思わなかった。ここで達也が謙遜する理由が見当たらないというのもあるが、達也なら手榴弾の破片の方向を変えることも、再成を使って死者を出さないという方法もあったのだから、もっと派手にやっても問題は無かったのだから。
達也が自分で言ったように、見ず知らずの相手に再成を使う必要性はないし、再成の代償を知っている身としては、もう少し派手な戦果を期待していたなど言えるはずもない。
「とりあえずUSNAの政治中枢との太いパイプも手に入ったし、佐伯閣下も遠くへ追いやることにも成功したし、今後はたっくんの妨害をしようとする連中は少なくなると思うわ」
「そうだとありがたいのですが……ですが、今回の件は些かやり過ぎではないかという声も上がっているようです」
「そんなの、放っておけばいいのよ。そもそも私有地が襲われそうになったのだから、防衛に魔法を使うのは当然。ましてや戦略級魔法が降ってくる恐れがあったのだから、相手を消し去ったとしても正当防衛よ」
「まぁ、新ソ連はベゾブラゾフの死亡を否定していますし、そもそも死体も残らず消し去ったので、死んだかどうかも調べようがないですがね」
ついでに言えば、エドワード・クラークも消し去ったのだが、達也も真夜もそのことには触れない。そもそも最初からエドワード・クラークなど脅威でも何でもなかったのだから、生きていようが死んでいようが興味がないというのが、偽らざる本音である。
「これでESCAPES計画はまた一歩実現に近づいたわね。その反面で、ディオーネー計画は表向きの目的以外の成果は期待できなくなったわけで、これ以上たっくんに参加を要請してくることもないでしょう」
「USNA政府がエドワード・クラークを新ソ連のスパイだと発表したわけですから、これ以上俺に参加を要請しては、USNA政府も新ソ連と繋がりを持っているのではないかと疑われてしまいますからね。これでマスコミ連中も大人しくなるでしょう」
「ですが、別のことでマスコミたちが達也殿の許を訪れるかもしれませんな」
「あれだけの力を見せつけたのですから、それは仕方がないことだと割り切ります。もちろん、必要以上に取材を試みるのでしたら、こちらにも考えがあると脅せばいい。もちろん、具体的なことは言わずに」
「相変わらず黒いことは平然と言ってのけるのね。そこがたっくんの良いところよね」
「それを良いところと捉える母上も、だいぶズレていると思いますよ」
母子の会話としては物騒すぎる内容だが、この母子にとってこの程度は普通である。葉山もそれは理解しているので、楽しそうな真夜に再び慈しみの視線を向けるのだった。
この母子は黒すぎる