艦長との対面が終わりリーナは今、潜水艦の中とは思えない立派な部屋でカノープスと向かい合っている。カーティス艦長が自分の部屋を貸してくれたのだ。艦長室には机とベッドだけでなくソファセットまで揃っていた。カノープスに勧められるまま三人掛けのソファの右端にリーナは腰を下ろす。
「ベン、私が出ていった後のことを教えてください」
向かい側にカノープスが座るの待って、彼女はそう問いかけた。
「私も総隊長が脱出した後、すぐにミッドウェーへ送られたので、大したことはお話し出来ませんが……」
カノープスはそう前置きして、自分がミッドウェー監獄に送られた経緯を説明した。
「……カペラ少佐はパラサイトに屈していなかったのですね?」
スターズ第五隊隊長、ノア・カペラ少佐。スターズ恒星級魔法師の中で最年長、軍歴もまた最長。スターズ本部基地司令のウォーカー大佐もカペラの言葉は無視できないという、権限は兎も角として影響力ではリーナやカノープスを上回る隊員だ。カペラがパラサイト陣営につかなかったという情報に、リーナはホッと胸をなでおろした。
「カペラ少佐は中立です。こちらの味方になったわけではありませんよ」
「敵にならなかっただけで十分ですよ。他の隊長の態度はどんな感じですか?」
「ハーディがお伝えしていると思いますが……第三隊アークトゥルス大尉、第六隊リゲル大尉、第十一隊アンタレス少佐がパラサイト化しています。第四隊のベガ大尉もおそらく、パラサイトになっているでしょう」
「シャル――ベガ大尉には日本で会いました。彼女とデネブ少尉、レグルス中尉は四葉家の魔法師に斃され、取り憑いたパラサイトの本体も封印されました」
「そうでしたか。四葉の魔法師が……」
カノープスが言葉を切って考え込む。四葉家の戦闘力に警戒感を懐いているのだろうか。彼の沈んだ表情を見て、リーナはそう思った。カノープスが沈黙に閉じこもった時間は短かった。
「……私がミッドウェー監獄に護送された時点で明確にパラサイト側だった部隊長はその四人です。これは私の推測ですが、現在も状況は変わっていないでしょう。部隊長を含めた恒星級の隊員が新たにパラサイト化していることはないと思います。ですが、衛星級やスターダストの中でパラサイトが増殖している可能性は否定できません」
「そうですね。恒星級隊員は兎も角、スターダストはパラサイト化が延命につながるかもしれませんし……それを望んでパラサイトになるのなら、私には責められません」
目を伏せて哀しげに呟いたリーナが、気を取り直した表情でカノープスに視線を戻した。
「――とにかく、本部基地に残っている恒星級のパラサイトは第六隊だけというですか」
リーナのセリフに、カノープスが眼差しで説明を求める。
「四葉家の――いえ、隠しても仕方ありませんね。達也に聞いたのですが、アークトゥルス大尉とアンタレス少佐、サルガス中尉も達也が既に斃しているそうです」
「達也というと、質量・エネルギー変換魔法の戦略級魔法師・司波達也ですか?」
「そうです」
「私をミッドウェーから出してくれたのもその男ですね?」
達也はミッドウェー監獄でカノープスに名乗っていない。顔も見せていない。だが去年の冬にもスターズの標的になっていた達也の情報をしっかり記憶に留めていたカノープスは、自分を脱獄させた魔法師の正体に気付いていた。
「ええ」
頷いたリーナは、この時達也の素性隠蔽について深く考えていなかった。もしかしたら、達也が顔を隠していた可能性にすら思い至らなかったのかもしれない。リーナは自分が軽率な真似をしたと言う自覚皆無で、すぐに話題を変えた――いや、話を戻した。
「スピカ中尉の消息は分かりませんが、彼女のことは気にしなくて良いでしょう。スピカ中尉はベガ大尉が巳焼島を攻撃した際に、同じ船に乗っていました」
「巳焼島と言うのは、総隊長が保護されていた四葉家の拠点ですね?」
カノープスの質問に、リーナが「そうです」と頷く。
「スピカ中尉は義理堅い性格です。ベガ大尉やデネブ少尉の仇を取らずに、本部へ帰還することはないでしょう」
「そうですね。確かに彼女には、そういうところがありました」
リーナの推測にカノープスが賛同を示した。
「……総隊長は本部基地に戻るおつもりですか?」
その上でリーナがこれからどうするつもりなのか、彼女の言葉から割り出して見せる。
「そのつもりです。何時までも逃げ回っているみたいに思われるのは不本意ですし、ベンも脱獄囚の汚名に甘んじるつもりはないでしょう?」
「……そうですね」
カノープスの目に好戦的な光が宿る。リーナにカノープスを挑発する意図は無かったが、結果を見れば彼女の答えは彼の心に火を点けたようだ。
「それに、これ以上スターズをパラサイトの好きにさせられません。幸い、手強いパラサイトは達也が斃してくれました。今がやつらの影響力を一掃するチャンスだと思います。ベン、力を貸してください」
「もちろんです、総隊長」
リーナの頼みに、カノープスは力強く頷いた。
この辺りがリーナの限界か……