劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ここは公正な判断ができる


参謀本部の判断

 ウォーカーの脅迫にも屈することなく睨み返してきたリーナに、ウォーカーは軍内部で事実とされていることを投げつける。

 

「ベガ大尉らの行動は、シリウス少佐、貴官が日本の魔法師と内通しているという深刻な嫌疑があったが故のものだ。彼女やアークトゥルス大尉を叛乱分子扱いするのは、貴官自身の内通を誤魔化す為か?」

 

「ではどちらの言い分が正当が、内部監察局に判断していただきましょう」

 

「いや、それは……」

 

 

 リーナの反論に、ウォーカーが目に見えてたじろぐ。内部監察局は前の大戦後に設立された、連邦軍内の不法行為を取り締まる部署。そこのナンバー・ツーをバランス大佐が務めている。叛逆や内通は軍事法廷の管轄だが、その検察役を担うのが内部監察局だ。査問委員会が組織された際は、これを指揮する。現在のケースでリーナが内部監察局の裁定を求めるのは連邦軍の制度上、間違っていない。しかしバランスがリーナの側についているのが明白なこの状況下でウォーカーが内部監察局の関与を忌避するのは、たとえ彼に後ろ暗さがなかったとしても、無理からぬことだろう。

 

「司法手続きに入る前に、参謀本部の意見を聞いてみてはどうかね」

 

 

 言葉につまったウォーカーに(形式上)助け舟をだしたのはカーティス上院議員だった。

 

「上院議員閣下のご意見は、ごもっともと存じます。明日の朝一番に連絡してみましょう」

 

 

 ウォーカーは安堵を隠せぬ顔で、その提案に乗った。――いや、乗ろうとした。しかし事態は、ウォーカーの思い通りに進まなかった。

 

「明日まで待つ必要はあるまい」

 

「しかし閣下。ペンタゴンはもうすぐ十九時です」

 

「大佐、その心配は無用だ。私から長官を通じて、参謀本部の方々には職場に残ってもらっている」

 

 

 翻意を促すウォーカーの言葉を軽く切り捨てて、カーティスはカノープスに参謀本部へ通信回線をつなぐよう指示する。カノープスは即座に、その指示を実行した。ウォーカーの副官を押し退け――階級はカノープスの方が上だった――ヴィジホンの直通回線を開く。大型モニターの中では、統合参謀本部議長、副議長、陸軍参謀総長が待ち構えていた。

 思いがけない面々に、ウォーカーは言葉を失ってしまう。その隙にリーナが先手を取った。

 

「お忙しいところ失礼します、議長閣下。アンジー・シリウス少佐であります」

 

『シリウス少佐、大体の話はバランス大佐から聞いているが、改めて君の口から説明を受けたい』

 

「ハッ!」

 

 

 参謀本部議長の言葉を受けてリーナが陳述を始めようとする。

 

「お待ちください、議長閣下!」

 

 

 我を取り戻したウォーカーが、それを遮った。

 

『ウォーカー大佐、君の主張は後で聞く。まずはシリウス少佐からだ』

 

 

 しかし陸軍参謀総長にたしなめられて、ウォーカーは引き下がらずを得なかった。

 

『シリウス少佐』

 

 

 改めて本部議長に促され、リーナはパラサイト化した隊員による叛乱に関連するウォーカーの罪状について述べ立てた。基地司令として反乱分子を鎮圧すべきだったにも拘わらず、逆にパラサイトと結託してその便宜を図ったこと。パラサイトに抵抗したカノープスに濡れ衣を着せ、アルゴル少尉、シャウラ少尉と共にミッドウェー監獄に収監したこと。スターズを私物化し、パラサイト化した隊員を日本及び北西ハワイ諸島に派遣したこと。

 リーナは特に、カノープスに科せられた禁固刑が全くの冤罪であり彼の名誉が回復されるべきである点を強調した。

 リーナの告発を、不快げに顔を顰めながら聞いていた陸軍参謀長がウォーカーに向かって『反論は?』と訊ねる。無論ウォーカーは、自らの無実を主張した。

 

『アークトゥルス大尉、ベガ大尉、レグルス中尉、スピカ中尉、デネブ少尉の出動について、参謀本部には承認した記録がない。これはどういうことだ?』

 

 

 しかし副議長からこう指摘され、

 

『カノープス少佐の処分に関し、略式の軍事法廷しか開かれていないようだが……そこまで急を要する案件だったのか?』

 

 

 さらに参謀総長からこう詰問されて、ウォーカーは二人を納得させられる答えを返せなかった。彼に浴びせられた追及の問いは、それだけでない。参謀本部には既に、カーティス上院議員の意向を受けたバランス大佐から、ウォーカー大佐を「クロ」と判断するに十分な材料の提供を受けていた。

 

『ウォーカー大佐。残念だが、君の主張にはシリウス少佐の告発を退けるだけの説得力がない』

 

 

 本部議長が一つため息を吐いた後、結論を告げる。

 

『大佐。現時点を以てスターズ本部基地司令官の任を解く。また明日正午、内部監察局に出頭せよ』

 

「――了解しました」

 

 

 ウォーカーが背筋を伸ばしてそう応えたのは、せめてもの意地と矜持だったに違いない。彼の潔い態度に三人の幹部は満足げに頷いた。そして、モニター画面の中で本部議長がリーナの背後に立つカノープスへ目を向ける。

 

『カノープス少佐。君に科せられた禁固刑は参謀本部の権限で取り消す。この瞬間、少佐の名誉は回復されたことをここに宣言しよう』

 

「ありがとうございます」

 

 

 議長はカノープスに向かって頷いた。この瞬間、リーナがUSNAでしなければいけなかったことは完了したのだった。




野心家はこうして駆逐されていく
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