劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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勝ち確なのにこの慎重さ


過度な警戒

 深雪はそこで、考えるのを止めた。企てたのが誰であれ、動機が何であれ、このシステムは目前に控える戦いの役に立つ。

 

「(叔母様にどのような考えがあったにせよ、叔母様ではない他の誰かの思惑があろうと関係ない。今は目の前の敵に備えることだけを考えればいい。そしてこのシステムは、その為に使える)」

 

 

 このシステムで、深雪は達也の力になれる。

 

 

「――分かりました。この装置を使いこなして、必ずや達也様の御役に立って御覧にいれます」

 

 

 深雪はとりあえず、それだけを考える事にした。それ以外のことは考える必要は無いと、自分に言い聞かせるまでもなく、深雪の思考は『達也の役に立てる』という一つのこと以外を排除した。彼女にとってそれが一番重要であり、それ以外のことなど後で考えればいいのだとすぐに思考を切り替えることは難しいことではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後八時五十五分。遂に強襲揚陸艦『グアム』が作戦行動を開始した。格納庫から艦尾のスリップ・ウェイを通って小型高速艇が次々と海面に降りてくる。戦闘車両を積んだ揚陸艇ではなく、戦闘員を携行武器と共に送り届ける搭載艇だ。

 搭載艇は合計六隻。各艇、運航クルー以外に戦闘員が五十名搭乗している。合計三百名、約二個中隊の戦力だ。千名以上の上陸部隊を運べる『グアム』本来の能力から見れば随分と少ないが、非公式の作戦であることを考えると、「よくこれだけの数を揃えたものだ」と事情を知る者ならば感嘆を惜しまないだろう。

 搭載艇は順次発進するのではなく、海面上に六隻が揃ってから一斉に発進した。だからといって、隊列を組んだのではない。散開して別々に巳焼島の東岸を目指し突き進んでいる。隊列を組まなかったのは狭い空間に攻撃を集中させない為、同時に発進したのは各個撃破を避ける為だと思われる。

 それでも、小型艇六隻だ。八平方キロの島に二個中隊は不足のない兵数だが、収容力五十人の兵員輸送艇六隻程度なら、達也や深雪のように強力な魔法の遣い手でなくても遠距離攻撃魔法を使える魔法師が二、三十人もいれば沈められるだろう。いや、魔法に頼らなくても現代の対艦兵器で海防陣地を構築していれば、陸地に寄せ付けないに違いない。

 仮にもUSNAの正規軍に所属する強襲揚陸艦『グアム』の艦長が、その程度のことを理解していないはずもない。搭載艇が侵攻を開始するのと同時に、『グアム』の飛行甲板から無人攻撃機が飛び立った。

 全長わずか五メートル。小型トラックより少し大きい程度のサイズしかない。武装は対物ライフルサイズの十二・七ミリ弾を使用する機関砲のみ。無人攻撃と言うより、ガンポッドドローンとでも呼ぶべきだろうか。単発のジェットエンジンにウイングレット付きのクリップトデルタ翼、カナード。機体の形状は前世紀後半の無人実験機・HI-MATが最も近いかもしれない。

 この無人機は、防御力に劣る航空兵力や歩兵、非装甲車両を数量と機動性で排除するという戦術思考に基づいている。機体サイズが小さいから、航空母艦に比べて格納庫が狭い揚陸艦にも十分な数を搭載できる。搭載艇一隻あたり六機の無人機がその上空で支援についた。『グアム』自体の護衛にも、八機が艦の上空を旋回している。 

 海岸線の道路から丘一つを隔てた窪地に陣取った新発田勝成は、これらの動きを指揮車と指令室との情報リンクでリアルタイムに把握していた。敵の搭載艇は既に領海の奥深くまで侵入し、海岸線から肉眼でも視認可能となっている。

 

「まだ手を出すなよ」

 

 

 それなのに勝成は、迎撃の許可をまだ出していない。現時点では侵攻に備えて取った具体的な措置は接岸可能な岸壁に昨晩、上陸阻止のフェンスを設置しただけだ。不法入国に備えた国境のフェンスに匹敵する頑丈な物を一晩掛からず建設できたのは魔法と言う便利な技術があってこそだが、逆に言えばまだ余力があったはずなのに、機雷を海中に配置するなどの攻撃的な対策は取っていない。今のところ、日本の国内法に触れる行為を四葉家は避けていた。

 島の北と東の海岸部は護岸の為、消波ブロックが積み上げられている。上陸作戦に使われる軍用艇が越えられない障碍物ではないが、突破には余計なコストがかかる。島に到着した最初の搭載艇が消波ブロックの無い港湾部を目指したのは、合理的な行動と言える。また合理的だからこそ、相手もそれに備えていると警戒するのが自然だ。

 実際には、岸壁沿いに設置されているのは頑丈なだけのフェンスに過ぎない。地雷や銃座が隠されていたり、致死レベルの高圧電流が流れていたりという攻撃的な機能は無い。

 だが過剰な警戒感に囚われた敵は岸壁を目前にした位置で、フェンスに向かってグレネードランチャーを使用した。それも一発ではなく、十発前後の一斉射撃だ。フェンスは大きく破損した。それにとどまらず、被害は岸壁間際に建っている倉庫にまで及んだ。私有財産に対する、明確な破壊行為だ。

 

「――反撃を開始せよ」

 

 

 被害を確認して、勝成は冷静沈着な声で配下に戦闘許可を与えた。




達也と深雪がいる時点で正義はこちら側
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