強襲揚陸艦グアムを発進した兵士は、パラサイトばかりではなかった。エドワード・クラークは国防長官との密談で「今回の暗殺作戦にUSNA国籍を持つ人間を使わない」と約束した。その時のクラークはパラサイトから暗殺部隊を調達するつもりだったのだが、実際に兵士を集める段になって、パラサイトの総数は彼が思っていたよりずっと少なかったと判明した。
そこでクラークは帰化を希望する外国籍の兵士に対し作戦成功後の市民権取得を餌にして、約二百人の兵力を調達していた。その中には、低レベルながら魔法師もいる。九十人前後が、延命の為に自らパラサイトになったスターダストの隊員たち。残りの九人がスターズのメンバーで、そこにはパラサイト化した恒星級隊員の生き残り、第六隊のリゲル大尉、ベラトリックス少尉、アルニラム少尉も含まれている。
巳焼島に一番乗りした搭載艇の上陸部隊指揮官は、アレハンドロ・ミマスという名の二等軍曹だった。旧メキシコ領出身のスターズ衛星級隊員で、二〇九六年の冬に日本へ派遣されて達也と交戦し重傷を負わされた経緯がある。ミマス軍曹がパラサイト化したのは、達也に対する報復を望んだからだ。
そんなミマスにとって今回の暗殺作戦は、待ちに待ったものだった。彼はこのミッションに参加した士卒の中で、最も積極的なメンバーの一人だろう。彼が乗る搭載艇が一番乗りとなったのは、運航クルーがミマスのプレッシャーを受けて無茶な操艇をしたからだった。上陸を阻むフェンスにグレネードの使用を命じたのもミマスだ。彼は元々、短気なところがある人間だったが、パラサイトになったことでその傾向が顕著になった。
パラサイト化の影響と言えば、人間だった頃のミマスは振動系加熱魔法を得意とする魔法師だった。有視界内の物体を自由に加熱する、パイロキネシスに似た魔法だ。ただそれしか使えないというわけではなかった。スターズに伝わる奥の手、『分子ディバイダー』も使いこなしていた。
だがパラサイトとの同化により、能力が変質した。多くのパラサイトに見られるように、魔法技能が少数の魔法に特化している。ミマスの場合は加熱魔法の中でも『生体発火』と呼ばれる魔法に技能が偏っていた。この『生体発火』は文字通り、生物の身体を発火させるもので、どういう訳か生物の死骸や生物を加工した素材には効果はない。例えば生木は燃やせるが、炭に火をつけることはできない。魔法という技術の不思議なところだ。
その代わり対人戦には無類の強さを発揮する。効果が限定されている所為か、小さな事象干渉力で魔法を発動できるのだ。『生体発火』ならば、通常は事象干渉力の不足で魔法が通らない格上の魔法師を葬ることも可能となる。
この局面では、フェンスという人工物に対して『生体発火』は何の効力も持たない。彼が率いる上陸部隊の中には遠隔攻撃能力を持つ魔法師もいた。だがミマスは自分の魔法で破壊できないからと、短絡的に通常兵器での破壊を命令したのだった。
「上陸開始!」
搭載艇が接岸するや否や、ミマスはそう叫んだ。復讐に逸っているのか、彼は前しか見えていない状態だ。上陸前に行うべき、索敵も命じていない。
搭載艇から兵士が次々と岸壁に上がる。いや、甲板の方が高い位置にあるから「降りる」と言うべきだろうか。実際に多くの兵士が船縁から舗装された係船岸に飛び降りている。ミマスの姿勢が伝染したのか、彼らに周囲を警戒している様子はない。
そんな上陸部隊に突如、矢の嵐が襲いかかった。降ってきたのではない。長さ五十センチ程の短い矢が横殴りの雨となって浴びせかけられたのである。およそ三十本ずつの矢が倉庫の陰から短い間隔で、続けざまに飛来する。上陸部隊に含まれていた魔法師が素早く反応してシールドを張ったが、約三分の一の隊員が矢に当たって負傷した。
致命傷を負った者はいなかったが、部隊の一割以上、六人が足や腹を貫かれ行動不能に陥ってしまった。
「グレネードであの角を狙え! 治癒魔法が使える者は負傷者の手当て。それから戦闘継続が困難な負傷者を船に戻せ」
ミマスの命令により、上陸部隊が一斉に動き出す。十八人の非魔法師がアサルトライフルにグレネードをセットし、前に出て膝射の体勢を取った。その工法では軽傷を負った十人の間を二人の魔法師が治癒に駆け回り、重症の六人を三人の魔法師が魔法を使って搭載艇に運び込んでいる。なお、この五人の魔法師にパラサイトは含まれていない。
片膝を突いた射手の横には二人の下士官が立っていた。そのうち一人が「撃て!」と号令と共に片手を振り下ろす。間髪を入れず、九発のグレネードが同時に発射された。
撃ち終わった九人の兵士が合図をした下士官と共に後ろへ下がり、もう一人の下士官が片手を上げる。その体制で粉塵が立ち込める着弾点に目を凝らしていた下士官は、その体勢のまま『軍曹殿!』と叫んだ。
「射撃手の姿、ありません!」
ミマスが双眼鏡に目を当てる。グレネードで崩れた壁の向こう側に人影は無い。横たわる死体も見当たらない。
「射撃中止」
ミマスがそう命じた直後。壁があった所を迂回して、再び矢の群れが襲来する。
リーナのポンコツっぷりが可愛かった