劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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最初から分かってることだが


同行者の正体

 達也の反応を見て、リーナはまだ何か良いたげだったが、達也はリーナの都合には付き合わずに話を進める。

 

「極東アジアでつながっていた犯罪シンジケート『無頭竜』は二年前、日本と大亜連合の警察組織が共同して潰した。また亡命ブローカーとして利用していたルートも厳しい摘発を受けて壊滅状態と聞く」

 

「逃走先として東アジアは考えなくても良いということですね?」

 

「そう思う」

 

 

 深雪に向かって達也が頷く。ここで達也が、それまで達也たちに無視される格好になっていた水波に目を向けた。

 

「水波、一つ教えてくれ」

 

「はい、何でしょうか」

 

 

 水波は不満を見せず――実際に、不平も不満も覚えていなかったのだろう――素直に返事をする。

 

「お前が日本から連れ去られた際、光宣にはパラサイトの同行者がいたのではないか」

 

「……はい」

 

 

 達也が水波に逃亡中のことを尋ねたのは、これが初めてだ。今までは水波が告白衝動に駆られても、達也も深雪も話を逸らして聞こうと――水波に語らせようとしなかった。

 

「その者の正体を知らないか。名前だけでも良い」

 

「光宣さまは『レイモンド』と呼んでいました」

 

 

 達也の問いかけに、水波は記憶を探る素振りも無く答えを返す。

 

「金髪碧眼の、整っているが何処となく子供っぽい印象がある白人青年ではないか?」

 

「そうです。達也さま、ご存じなのですか?」

 

「達也様、それって……」

 

 

 水波と深雪の疑問には答えず、達也は中断していた説明を再開した。

 

「東アジアが逃亡先の候補から外れる一方で、北アメリカ、特にカリフォルニアは周公瑾のボスである顧傑が半年前まで潜んでいた地域。それに今、水波が話してくれたように北西ハワイ諸島から逃亡した光宣に、アメリカ出身のパラサイトが同行しているのは確実だ。光宣の潜伏場所として最も可能性が高いのはUSNA西海岸だと思う」

 

「それでもまだ広すぎると思うけど……どうやって探すつもり?」

 

 

 母国の広さを知るリーナが「本当に見付けられるのか」という不安を隠せぬ声で尋ねる。

 

「俺個人で探すには広すぎるだろう。四葉家の情報網を総動員しても難しいと思う。だが、USNA連邦政府ならどうだ? 国土安全保障省やCIA対テロ・センター辺りなら密入国したパラサイトを見つけ出すのも不可能ではないと思うが」

 

 

 自分の質問に対する達也の答えに、リーナは軽く顔を顰めた。

 

「……ついでにFBIの国家保安部まで動かせば難しくないでしょうね」

 

 

 どうやら達也が使った「不可能ではない」という表現が、リーナにとっては控えめすぎる評価だったようだ。

 

「それで? カーティス上院議員に『光宣を探してください』ってお願いするの? それとも私から国防長官の秘書に依頼する方が良いかしら?」

 

 

 リーナの少し投げ遣りなセリフに、達也は薄らと笑った。

 

「ホワイトハウスがせっかく派遣してくれたんだ。早速、一仕事お願いするとしよう」

 

 

 達也が皮肉っぽく口にしたのは、達也に宛てたUSNA大統領府の親書に「アンジェリーナ・シールズ中佐を無償無期限で貸し出す」と書かれたことを指している。

 リーナはUSNA軍を辞めて来日した。ある意味これは「平和的亡命」であり、USNAは国家公認戦略級魔法師に逃げられたと言える。しかし面子に懸けて、そんなことを認められるはずがない。そこでUSNAの政府と軍は、受け取った辞表はアンジー・シリウス少佐のものであって、アンジェリーナ・シールズの退役は認めてない、リーナの訪日はアンジー・シリウスの正体である「アンジェリーナ・シールズ中佐」を日本における秘密工作任務に投入した結果だと強弁することにしたのである。

 そしてその秘密任務が「無償・無期限の貸与」という体裁を取った「戦略級魔法師・司波達也の監視と懐柔」というわけだ。

 無論、達也はそんな裏側の諸事情まで打ち明けられたわけではない。彼がUSNA政府から伝えられているのは「無償・無期限の貸与」の部分だけだ。あとは達也の推測に過ぎない。だが今この場では、彼の推理が当たっていても外れていても、どちらでも良かった。

 

「リーナ、光宣の捜索を連邦政府に依頼してくれ」

 

「ハイハイ。私はアナタに貸し出されているのだものね」

 

 

 メッセンジャー役が務まる人間がここにいるという事実だけで十分だった。

 

「それと言っておくけども、近い内に『アンジェリーナ・シールズ中佐の退役届』もベンに送りつけるつもりだから、メッセンジャーとしても使えなくなるからね」

 

「その時にはすべてが片付いていると願うよ」

 

「達也が希望的観測を口にするなんて、珍しいこともあるわね」

 

「こればっかりは分からないからな」

 

「そんなものなの? まぁ、達也ならその時には別の方法で連邦政府を動かしそうだけどね」

 

 

 達也との会話を切り上げて、リーナはアメリカ東海岸が朝になるのを待って、ペンタゴンのバランス大佐を電話で呼び出した。敢えて特別な暗号は使っていない。通常の――「軍にとっては」という意味で特別ではない暗号を使った通話で、リーナはバランスに光宣の捜索を依頼した。




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