劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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元々破綻していた気もするが


関係破綻の原因

 数人から厳しい視線を注がれても、達也は全く動じることなく無言を貫いている。

 

「十師族は魔法師の『人として生きる権利』を守る為の組織だ。魔法師が魔法師であるというだけで迫害される危険性があるなら、それを取り除かなければならない」

 

 

 達也にさらに厳しい視線が注がれる。しかし達也は眉一つ動かさない。とはいえ彼も内心は、外見程平然としていたわけではなかった。彼の心にあったのは気後れ、ではなく静かな怒り。三矢元が口にした「魔法師の『人として生きる権利』を守る」というフレーズが気に障ったのだ。魔法師に兵器の役割を強制する現状に甘んじていながら「人として生きる権利」を口にするなど、達也には偽善としか思えなかった。

 

「司波殿、ここではっきりさせておきたいことがある」

 

「何でしょうか」

 

 

 今度は元の視線を、達也は受け止めるのではなく撥ね返した。緊張が高まる。

 

「二〇九五年十月三一日、大亜連合艦隊を壊滅させた魔法を放ったのは貴殿だな?」

 

 

 元は以前、達也が戦略級魔法師だと知っているようなことを彼にほのめかした。今回はそれを、正面から突き付けているのだった。

 達也が真夜を見る。真夜は頷き返す。二人はこのやり取りを最早隠さなかった。

 

「そうです」

 

 

 三矢元の質問に対して、達也が肯定を返す。

 

「国防軍の命令により、質量・エネルギー変換魔法を使いました」

 

「質量・エネルギー変換魔法? 本当に、実在したのか……」

 

 

 雷蔵が信じがたいというニュアンスの呟きを漏らす。そう考えたのは雷蔵だけではなかったが、彼の呟きに反応した者はいなかった。雷蔵自身の興味も、すぐに達也と元の対決に戻った。

 

「国防軍の命令に従って、か。あの時政府が貴殿を新たな『使徒』と認めていれば現在のような状況は生じなかっただろうな……」

 

 

 元が独り言のように感想を漏らす。彼が口にした『使徒』という単語は、国家公認戦略級魔法師のことだ。十三人の国家公認戦略級魔法師が『十三使徒』と呼ばれていたことに由来する。

 

「司波殿。貴殿は今後も、国防軍の命令に従う意思はあるのか?」

 

 

 元が意識を自分の内側から自分が相対している達也に戻して問いかける。

 

「あの時とは事情が変わりました。国防軍の要請に応じることはあるでしょう。しかし、命令に従うことは最早ありません」

 

「理由をうかがっても?」

 

 

 七宝拓巳が口を挿む。彼の口調は三矢元より穏やかだったが、眉間には皺が寄っていた。達也が真夜に目を向けると、彼女はわずかに口角を上げて小さく頷いた。

 

「国防軍との信頼関係が壊れたからです」

 

 

 真夜の承認を確認して、達也が拓巳の問いに答える。

 

「信頼関係? 司波殿はまだ十八歳でしたよね。それなのに『灼熱のハロウィン』以外にも、国防軍との間に継続的な関係があったのですか?」

 

 

 拓巳の声と表情に困惑が混入した。

 

「私は約四年間、非公式の軍人として軍務に従事していました。法的には、常時、継続的に軍の指揮命令を受ける義勇兵となるでしょうか。大亜連合艦隊の撃滅も、その一環として命じられたものです」

 

「……国防陸軍第一〇一旅団、独立魔装大隊」

 

 

 弘一が独り言のように呟く。その声は小さなものだったが、全員の耳に届いていた。

 

「はい」

 

 

 達也の応えが、その部隊に所属していたと認めるものであることも、全員に伝わった。

 

「自分で言うのも何ですが、私がいなければ二年前の大亜連合との戦争は日本にとって厳しい結果に終わっていたでしょう。それ以外にも少なくない貢献を積み重ねてきたと自負しています」

 

「にも拘らず、国防軍に裏切られたとでも?」

 

 

 三矢元がそう問いかけたのは、佐伯少将との間に生じた対立は達也がリーナを匿った所為であり、責任は彼にあるという論法で自分たちに有利な流れを引き寄せる意図があったからだ。

 

「六月九日、伊豆に滞在していた私たちがベゾブラゾフのトゥマーン・ボンバによって奇襲を受けた件をご記憶でしょうか。あの奇襲に関する情報を、国防軍は事前に掴んでいました」

 

 

 しかし元の思惑は外れる。リーナの亡命――という名の帰国――は六月十九日のことだ。達也の言葉が正しければ、先に信頼関係を損なったのは佐伯の側ということになる。

 

「それは確かな事実ですか?」

 

「確認済みの事実です」

 

 

 雷蔵の問いかけに、達也は揺るぎない態度でそう答えた。

 

「自分が理不尽な扱いを受けたとは思っていません。不当ではありますが」

 

 

 達也は視線を全員同時に見るものに切り替えた。

 

「古人曰く、狡兎死して走狗煮らる。たとえ政府に絶対服従を誓っても、危険と見做されれば政府は庇護するどころか積極的に排除しようとするでしょう。それが政府のリアリズムだ」

 

 

 反応は無い。この程度のことは、改めて言われるまでもなく、皆理解していた。

 

「誤解しないでいただきたいのですが、私には政府と積極的に対立するつもりはありません。ですが、政府に全面依存するのは危険です。魔法師の『人として生きる権利』を守る為には、政府に無条件で従うのではなく交渉材料を残しておく方が得策だと考えますが」

 

 

 そう言って達也は、目の向きを分かり易く三矢元に固定する。




口でも達也に勝てるはずが無いだろうに……
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