達也の視線を受け、挑発されたと感じたのか、元の物言いに険がこもる。
「……何が言いたい」
「戦略級魔法は政府に対して有効な交渉材料になると思いますよ」
達也のセリフは先程の「戦略級魔法師は政府の管理下にあるべきだ」という元の意見に対する真っ向からの反論であり、元に同調を見せた当主たちに対する「同調圧力には屈しない」という明確な意志表明だった。
「……それは君の個人的な考えだ」
元が苦し紛れの口調で言い返す。
「いいえ、私は司波殿に同感です」
しかしここで、達也を擁護する声が上がった。真夜ではない。四葉家の――というより真夜のシンパである温子でも、先ほどから剛毅や元に批判的な態度を見せている雷蔵でもない。声を上げたのは、五輪勇海だった。
「司波殿が大亜連合艦隊を壊滅させた戦略級魔法師であれば、国家に対する軍事的功績は世界大戦後随一と言って間違いないでしょう。にも拘らず暗殺のリスクを警告すらされなかったのでは、国防軍に全面的な信は置けません」
「私も司波殿のご意見はもっともだと思います」
勇海に続いて、七宝拓巳が達也の支持に回る。
「反魔法主義の世論は確かに憂慮すべきです。しかし国防軍に民間魔法師の管理を委ねてしまうのは、国家権力の横暴に対抗して魔法師の人権を守るという十師族の存在意義を放棄してしまうことになりかねない気がします」
勇海の言葉を受け、他の当主たちが頷くのを見て、三矢元が慌てて反論する。
「全ての民間魔法師を軍の管理下に置くべきだなどとは考えていない。戦略級魔法師は社会に与えるインパクトが強すぎるので管理責任を政府に持たせるべきだ、と言っているのです」
「戦略級魔法師だから軍の管理に甘んじろ、と仰るのか」
元に対して、五輪勇海が強い声で反発する。勇海の娘、澪は戦略級魔法師だ。身体が弱く、本来であれば長距離の移動も避けるべきなのに、彼女は「戦略級魔法師である」というだけの理由で二年前の十一月、東シナ海に出撃する軍艦に同乗することを強制された。
案の定、澪は帰国後、一ヶ月程病院のベッドで過ごす羽目になった。幸い命に別状はなかったが、やはり親としては色々と思うところがあるのだろう。
澪の入院はここにいる全員が知っている。勇海の問いかけに対して「そうだ」と言える者はさすがにいなかった。
「そろそろ雑談は終わりにして本題に入りませんこと?」
それまで沈黙していた真夜が、ここでおもむろに口を開いた。雑談という表現に剛毅、元、勇海が不快げな表情を浮かべる。だがそれ以上、内心を窺わせることはなかった。
真夜の指摘は事実だったからだ。達也に対する剛毅や元の糾弾は、彼らが懐いていた苛立ちが露わになったものだった。暴走とまではいかないが、感情に任せて十師族間に余計な対立の火種を撒く結果になった。それを自覚できないような無能は、この場にいない。
「達也さん」
真夜は彼らの反感をまるで気に掛けた様子も無く、達也に話しかけた。
「USNAとの交渉結果をご説明して差し上げて。元シリウス少佐の件も含めて」
達也は即、真夜のリクエストに応じた。
「それでは、ご説明します。一昨日、アメリカ国防長官付き秘書官と面談し、私個人とアメリカ政府が敵対しないこと、および今後の協力関係を確認しました」
達也の言葉を聞いて、会議室に動揺が広がる。個人と国家の間に対等な取引が成立するなど、彼らの常識に反していた。
「私からは恒星炉技術を提供。USNAからは資金協力と、シリウス少佐こと九島リーナ中佐の無償無期限レンタルの申し出を受けました」
真夜が「元シリウス少佐」と口にした意図を、達也は誤解しなかった。
「国家公認戦略級魔法師を……レンタル? 国防軍にではなく、司波殿個人に?」
三矢元が喘ぐような口調で訊ねる。
「そうです。リーナ中佐には軍籍を伏せて一高に通ってもらうことになっています」
「危険だ! USNAの戦略級魔法師を軍の監視も付けず野放しにするなど……」
剛毅が怒りではなく戸惑いを露わにする。剛毅は半月前、「アンジー・シリウス」が四葉家に匿われていると佐伯少将から聞かされていたが、まさか四葉家がUSNAの戦略級魔法師を高校に通わせるつもりだとは考えていなかった。
「野放しにはしません。私の従妹が常時行動を共にする予定ですし、他の婚約者たちの監視もあるでしょう」
「危険ではありませんか? 四葉家にとっても司波殿の従妹は大切な身の上でしょう」
弘一が心配する態で四葉家の対応を批判する。
「御心配には及びません。私も遠隔監視します。距離が私にとっての障碍にならないことは、先日ご覧いただいた通りです」
しかしこう断言した達也に、それ以上の反論はなかった。反論が途絶えたタイミングを逃さず、達也はさらに畳みかける。
「USNA政府はアンジー・シリウスの正体を秘匿してきました。リーナ中佐がシリウスであると暴露された場合、日米関係の悪化が予想されます。皆様にも情報管理の徹底をお願いします」
攻守は逆転し、当主たちが達也に釘を刺される形で達也に対する事情聴取は終わった。インド・ペルシア連邦のチャンドラセカールと合意した魔法師の世界的連帯組織結成構想については、達也も真夜も話題にしなかった。
高校生に丸め込まれる当主たち