劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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大物が出てきた


知人の来日予定

 達也がちょうど、将輝と話し始めた頃。東京の調布では、深雪と同じ階の自分に宛がわれている部屋に戻ったリーナの許に国際電話がかかってきた。発信人情報は非通知。ただ発信元の都市名が表示されているだけだ。

 

「(ボストン? まさかね)」

 

 

 向こうはそろそろ真夜中じゃないかしら? と余計なことを考えながら、リーナは二十七インチの壁面モニターの前で受信ボタンを押した。

 

『ハロー。リーナ、久しぶりだね』

 

「アビー!?」

 

 

 リーナの声が裏返る。モニターに現れたのは「まさか」と思った相手だった。アビゲイル・ステューアット博士。スターズの技術顧問で戦略級魔法『ヘビー・メタル・バースト』の開発者。リーナの魔法兵器『ブリオネイク』を作り上げたのも彼女だ。

 リーナとアビゲイル・ステューアット博士の付き合いは、五年前まで遡る。まだリーナがスターズの正式隊員ではなく『スターライト』と呼ばれる訓練課程の見習いだった頃、彼女は初めての任務でボストンに赴いた。そこでリーナを待っていたのがアビゲイルだった。それ以来、二人は年に四、五度のペースで顔を合わせている。『ヘビー・メタル・バースト』の起動式調整と『ブリオネイク』の改良という仕事上の付き合いだが、だからといって二人の間に友情が存在しないというわけではない。

 リーナとアビゲイルの年齢差は五歳。アビゲイルはリーナの、五歳年上でしかない。二人とも、極めて若くして一方はスターズ総隊長となり一方は連邦軍の魔法研究所の一部門を任された、早熟の天才だ。年が近く共通点もあり、会う機会は少ないが、会えば親しく食事をする関係だった。

 しかしそれは「直接顔を合わせれば」であり、頻繁に電話で話をする間柄ではなかった。事実上亡命した自分に国際電話を掛けてくるなど、何か深刻な事態が発生したのだろうか? そう首を捻ったリーナだったが、カノープスやバランスならともかくアビゲイルが電話してくるような用件など、彼女にはまるで思い当たる節が無い。

 

「……お久しぶりです。それにしても、良く私の連絡先が分かりましたね」

 

 

 リーナの問いかけに、アビゲイルがモニターの中で悪戯っぽく笑う。五年前に出会った時の彼女は一見して美少年という外見だったが、今ではすっかり女性らしくなっている。当時と共通するのは髪が短いだけで、それだって明らかに女性のショートカットだ。だがこういうふとした表情に、当時の面影が垣間見える。

 

「実はね、リーナ」

 

 

 思わせぶりに、言葉を句切る。それがアビゲイルの思惑通りだと分かっていても、リーナの意識はアビゲイルの次の言葉に吸い寄せられた。

 

「今度、そっちに行くことになった」

 

「ハァッ? そっちって……日本にという意味ですか?」

 

『日本は日本だけどね。もしかして、何も聞いていない?』

 

「……心当たりがありません」

 

『おかしいな。恒星炉プロジェクトの件でミスター・シバとの交渉に携わったのはリーナだと聞いているんだけど』

 

「交渉と言っても親書を手渡しただけで、詳しい内容はジェームズ秘書官が取り纏められたんですが」

 

『じゃあ内容は聞いていない?』

 

「いえ、ある程度のことは達也から聞いています。確か、技術移転の為にステイツの技術者を何人か受け容れることになったって……まさか!?」

 

『その通り。私も派遣技術団の一員として巳焼島に行くことになった。半年くらいお世話になると思う』

 

「アビー、貴女が、半年も!? 本当に許可が下りたんですか!?」

 

『我がステイツも、それだけ恒星炉技術を重視しているということさ。そちらのカレンダーで十五日に着く予定だから。よろしくね』

 

「え、ええ。アビーが来てくれるのは嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします」

 

『そうだね、私も嬉しいよ。では四日後に会おう』

 

 

 電話が切れモニターの画面が暗くなっても、リーナは暫く放心したままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八月十一日の夕方、巳焼島事変の事後処理に関して、無視し得ない出来事があった。偶々現地に居合わせた高校生が、テレビのニュース番組で武力攻撃を受けたその時の様子を証言したのだ。

 「偶々居合わせた高校生」というのは言うまでもなくエリカ・レオ・幹比古のことだ。三人は魔法科高校生だということも、達也の友人であることも明らかにした上で巳焼島の攻防について語った。

 番組の反響は大きかった。魔法師の卵だという点、達也の友人という点を色眼鏡で見る向きも一部にはあったが、偶然事件を目撃した単なる高校生が語った目撃談という事実を重視する視聴者の方が多かった。

 三人は元々テレビに出るつもりなど無かったが、一昨日某地上波テレビ局から顔も名前も出さない条件で取材を受けた際、テレビ局側のシナリオにしつこく誘導されて「事実を捻じ曲げられるのではないか」という危機感を覚えたのだ。あの日は第三者の証人となるという条件で巳焼島に残らせてもらったのに、このままでは達也に不利なフェイクニュースのネタ元にされてしまうかもしれない。見かけに反して義理堅いエリカはそう危惧して、歪曲報道のリスクが小さい生放送を条件にニュース出演を決意したのだった。

 前述したようにエリカたちが明かした素性から、同じ高校に通う魔法師をかばっているのだろうと決めつける声はあった。数は少ないが、その声は大きかった。しかし声の「数」で言えば好意的なものの方がはるかに多かった。――その中に「誰だ、あの美少女は?」という声も多数紛れ込んでいたのはご愛敬だろう。

 かくしてエリカはお茶の間に鮮烈なデビューを飾り、それに伴ってレオ、幹比古と共に真実の証人となるミッションをクリアしたのだった。




何処の世界でもマスコミは煽るのが仕事なのだろうか……
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