劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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光宣も強い部類なんですがね


強さの次元

 達也がこの技術を実戦で使ったのは七月中旬、八雲と対決した時が初めてだ。光宣にとっては初見の対抗魔法。『分解』と『再成』に特化している性質上、達也は魔法防御に弱点を持っていた。特に至近距離から作用する魔法に対する防御に難があった。光宣は当然、そこが達也の攻略ポイントだと考えていたはずだ。

 今、光宣が放った魔法は『人体発火』。『生体発火』とよく似ているが別の魔法だ。「電子を奪う」という意味で酸化現象を引き起こす点は同じ。だが『生体発火』が酸素との急速な化合により組織を破壊するのに対し、『人体発火』は分子間結合に用いられる電子を奪い取ることにより分子レベルで細胞を破壊させる魔法だ。難易度も威力も『人体発火』の方が勝っているが、相手の肉体を直接魔法で攻撃する点では同じだ。この戦いで重要な点は、まさにそこだ。肉体に直接作用するのだから、途中で魔法を無効化されてもダメージは加わる。パラサイトとなった光宣の魔法発動速度は達也に匹敵するから、相手の魔法式を認識してから魔法を組み上げるという『術式解散』のシステム上、達也は光宣の『人体発火』を完全に防ぎ続けることはできない。光宣が『人体発火』を使えば、達也は自分が防ぎ切ることができなくなる前に勝負を決めようとするだろう。その焦りを引き出すことが、光宣の狙い目だった。

 しかし接触型術式解体であらかじめ防御を固められては、この計算は成り立たない。今の攻防は逆に、光宣に焦りを生じさせた。

 達也が光宣に向かって突進する。光宣は『跳躍』で後退しながら多彩な魔法攻撃を繰り出した。しかし肉体に直接干渉する魔法だけでなく電機や熱、冷気、圧縮空気などの改変された物理現象によって攻撃する魔法も、発動地点が達也の身体から五十センチ以内の場合、高密度の想子に阻まれて未発に終わる。

 だからといって五十センチ以上離れた地点から打ち込む魔法は全て躱されてしまう。五十センチという短い間合いが、達也にとっては十分な安全距離となっているのだ。

 それではとばかり躱されてもダメージを与えられる大威力の魔法を放とうとすると、魔法式を投射する前から気配で覚られてしまうのか、『術式解散』で無効化されてしまう。強くなっている――光宣はそう思った。

 水波が入院していた病院での直接対決から、まだ二ヵ月余りしか経っていないのに、達也の戦闘力は一段階、いや、一次元レベルアップしている。あの時は互角だったのに、今は明らかに上を行かれている。この短い攻防で、光宣はそう実感した。このままではじり貧だ。光宣はそう考えた。

 

「(これでは為す術も無く負けてしまう。何故こんなに差が付いたんだ)」

 

 

 心に湧き上がる疑問。

 

「(……逃げ回っていた僕と、強敵相手に戦い続けていた達也さんとの差か?)」

 

 

 そして自問の形の自答。

 

「(このままだと達也さんは、僕を殺す必要さえ認めないだろう)」

 

 

 光宣は奥場を噛みしめて口惜しさを堪えた。

 

「(それでは駄目だ。せめて一矢報いないと)」

 

 

 達也は魔法を使っていない。素の身体能力だけで光宣を追い掛けている。にも拘らず達也は、魔法で後退している光宣のすぐ側まで迫っていた。足を草原に降ろした光宣は『跳躍』の連続発動をストップした。そして『跳躍』に割いていた魔法力を含めて、力を別の魔法に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光宣が足を止めた直後、達也もまた足を止めていた。間合いを保つ為ではない。そもそも達也が光宣に向かって突進していたのは近接戦に持ち込む為だ。

 

「(跳躍の連続発動を止めたか。気付いたようだな)」

 

 

 光宣が戦闘が始まった直後から『仮装行列』と『鬼門遁甲』を使って自分の実体を隠していた。二つの偽装魔法により、達也は光宣の正確な位置を掴めずにいる。彼が追い掛けていたのは光宣本人ではなかった。光宣が逃走に使った魔法の気配を追い掛けていたのだ。達也が手掛かりとしたのは余剰想子光ではない。そういう魔法的な産物は『仮装行列』の対象になっている。彼が捕らえていたのは魔法によって生み出される、世界の局所的な歪みだ。事象改変を引き起こす魔法そのものを感知したのではなく、魔法が作用した結果と、それを復元する世界の法則の働きだった。

 達也もまだ、世界そのものの法則を知覚するレベルには達していない。漠然とした気配を感じ取るのが精一杯だ。しかしそれでも、世界が復元されていく軌跡を追うだけなら十分だった。

 光宣が『跳躍』を止めたのは、達也が何をしているのか見抜いたからではない。その点を達也は誤解していた。だが結果は同じ。彼は光宣の正確な位置を見失ってしまった。『仮装行列』と『鬼門遁甲』、この二つの偽装魔法は依然、達也に対して有効だ。『鬼門遁甲』だけなら、『術式解散』で無効化できる。しかし光宣の『仮装行列』は情報次元における魔法式の座標すら偽装し、『術式解散』の照準を許さない。

 とはいえ、全く打つ手が無いわけではない。光宣はアンジー・シリウスを演じている時のリーナと違って、姿は変えていない。居場所さえ特定できれば、急所の位置も分かる。『仮装行列』や『鬼門遁甲』を破る必要は無い。




達也の強さは次元が違い過ぎるから……
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