劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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昭和の日ですね……祝日も関係なく仕事でしたが……


侵入者

 大隊本部に指示を仰ぐべく、響子も自分の車へと向かっていた。寿和の後を追う形となったが、この場に止まると告げたのは嘘ではない。用があるのは車両ではなく通信機だ。

 それにしても、と響子は思っていた。昨晩予言じみた事を言ったのは他ならぬ彼女だが、これほど過激な事態は予想していなかった。

 響子が予想していたのは、スパイの残党が仲間を解放する為の人質を求めて誘拐を試みる、程度の事態だった。だから彼女の言葉を真に受けて寿和が動員した部下の数と装備の量をしって、響子は内心呆れていたのだが、今はそれが功を奏している格好だ。愚直は狡猾に勝るということかしら、と響子は結構本気で感心していたのだ。

 

「達也君は大丈夫よね」

 

 

 大隊本部からの指示を受け、響子はもう一人この場に居る隊員の事を思っていた。特務士官だが間違いなく独立魔装大隊の最強戦力である彼に頼るのは、この場合仕方ないと思うしかない。だけどなるべくなら出動させたくないというのが、響子の偽らざる本音だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針は午後三時三十七分を指していた。突如会場内に届いた爆音と振動に、聴衆の大半は何が起こってるのか理解出来ずに、如何すればいいのかと答えを求めてざわついていた。

 

「深雪!」

 

 

 その中で達也は、彼にとって最も優先すべき者の名前を呼んだ。

 

「お兄様!」

 

 

 応えをステージ下に聞き、達也は二歩で妹の傍へ降り立った。二列目の関係者席にいたとはいえ、すぐに達也の許へ駆けつけようとした深雪の反応も素早かったのだ。

 

「お兄様、これはいったい」

 

「正面出入口で擲弾が爆発したのだろう」

 

「擲弾ですか?」

 

「ん?」

 

 

 深雪とは違う声で問われ、達也は一瞬思考停止した。だが彼は一瞬以上意識を手放さなかった。

 

「愛梨か。やはり来ていたのか」

 

「私たちも居る」

 

「久しぶりです、達也さん」

 

「それで達也様、グレネードと仰いましたが……」

 

「そうですよ、お兄様! 先輩方は大丈夫なのでしょうか」

 

「正面は協会が手配した正規の警備員が担当していたはずだ。実戦経験のある魔法師も警備に加わっている。普通の犯罪組織レベルなら問題ないはずだが……」

 

 

 達也はそう答えながらも、嫌な予感がしていた。響子から渡されたデータカード、そこには外国の国家機関関与の可能性が記されていた。まるでその悪い予感を裏付けるように、今度は複数の銃声が聞こえた。

 

「(フルオートじゃない……対魔法師用のハイパワーライフルか!)」

 

 

 実戦魔法師の魔法には、銃器を無効化するものがある。例えば十文字家の多重障壁魔法は、その典型・最高峰の一つに挙げられる。だが攻撃と防御は常にいたちごっこを演じて発展していくものであり、強力な防御手段に対してより強力な攻撃手段が開発されるものだ。

 魔法師の防御魔法を無効化する高い慣性力を生み出す高速銃弾、それが対魔法師用ハイパワーライフルの設計思想だ。

 だが実戦レベルにある魔法師の干渉力を無効化する弾速を得る為には、通常の銃器製造技術より二段階も三段階も上の高度技術が必要となる。小国の正規軍程度では製造はおろか配備も出来ない武器だ。

 

「あの、達也様……この場所は大丈夫なのでしょうか?」

 

「分からない。だが下手に動いて最悪な事態になるのは避けたい」

 

「一条のヤツ、警備に参加してるんじゃなかったの?」

 

「一条一人で如何にかなる数じゃないけどな」

 

 

 沓子がこぼした愚痴に、達也が苦笑いを浮かべて答えた。だがしかし、幸いにして苦笑いを浮かべていられる時間は長くなかった。荒々しい靴音と共に、ライフルを構えた集団が客席に雪崩れ込んできたのだ。

 

「だらしがない……」

 

 

 もしかしたら、とは思っていたのだが、それにしても突破されるのが早すぎる。悲鳴が幾重にも木霊する中、達也は小さくつぶやき心の中で忌々しげに舌打ちをした。

 聴衆が恐怖に竦む中、勇猛果敢な反応を見せたのはステージ上の三高生徒だった。プレゼンのテーマが対人攻撃に転用可能なものだったのか、舞台上に携行していたCADを操作し、侵入者に魔法を発動しようとしたが、そのタイミングで銃声が轟いた。

 三高の魔法が効果を現すより早く、銃弾がステージの後壁に食い込んだ。その弾の威力から見て、彼らが手にしてる達也の予想通りハイパワーライフルだった。

 

「大人しくしろっ!」

 

 

 その怒声は、何処かたどたどしさを感じさせた。外国人であるとしても、(密)入国したのはつい最近の事だろうと達也は感じていた。

 現代魔法はCADによる高速化で銃器との対等のスピードを手に入れた……と言っても、それはあくまで「対等」であり「魔法師の力量次第」なのであって、相手が既に銃を構えている状態では無闇に抵抗しないのがセオリーだ。

 

「デバイスを外して床に置け」

 

 

 侵入者たちは魔法師相手の戦闘に慣れている様子だった。もしかしたらこの者たちも魔法師なのかもしれないと、達也はそんな事を考えていた。

 一方でステージの上では、吉祥寺を含めた三高の生徒たちが口惜しそうな顔でCADを床に置いている。勇敢と無謀は別物だと、三高生はきちんと教えられているらしい。

 彼らの対応を感心しながら見ていた達也だったが、生憎すぐに他人事では済まなくなった。通路に立っていたのが偶々達也たちだけだった所為で目についたのだろう。

 

「おい、オマエもだ」

 

 

 侵入者の一人が銃口を向けたまま慎重な足取りで近寄ってくる。今の言葉が達也に掛けられたものであるのは間違いない。というか誤解のしようがない。

 

「お兄様……」

 

「達也様……」

 

「(ここまでか……)」

 

 

 総勢六名。フロントとバックアップのユニットが三つ。達也は会場に侵入したテロリストかゲリラ兵だかにCADを使わずに照準を合わせて、心の中でつぶやいた。

 

「(出来れば誤魔化しの効く魔法で済ませたいが)」

 

 

 これだけの人の目がある中で『雲散霧消』を使うのは好ましくないのだが、いざという場合は仕方が無い。達也は無表情にそんな事を考えていたら、侵入者の怒声が浴びせられた。

 

「早くしろっ」

 

 

 苛立った声で怒鳴られても達也は動かない。無言で近づいてくる男を眺めている達也の視線は、侵入者には「観察している」と感じた。達也の瞳には恐怖も不安も無い。自分に向けられた冷ややかな眼差しに、苛立ちと、そうと意識してはいなかっただろうが、正体不明の恐れを感じて達也と相対するその男は引き金に置いていた人差し指に力を入れた。

 

「おい、待て!」

 

 

 仲間の制止は聞こえていなかっただろう。銃声が轟き、三高女子四人の悲鳴が続いた。三メートルの至近距離から明確な殺意を以って放たれた弾丸は、避けようの無い悲劇を連想させるには十分だったのだから。




次回、吉祥寺が吼える?
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