二〇九八年三月八日。卒業式まであと一週間。ここ最近の国立魔法大学付属第一高校には落ち着かない空気が充満していた。現在の三年生は、三巨頭と呼ばれる三人の実力者が在籍していた二年前の卒業生よりさらに粒ぞろい、というより傑出していたというもっぱらの評判だ。
入学当初から三年生をも寄せ付けない卓越した魔法の実力を示し、在籍途中であの四葉家の直系だと明かされた前生徒会長・司波深雪。二科生として入学しながら一年生の夏、九校戦の舞台で高校生離れした魔法工学技術を示し、二年生の三学期に四葉家の直系、三年生の一学期にあの「トーラス・シルバー」の正体であることが判明し、既に魔法大学卒業が約束されていると噂の前生徒会書記・司波達也。この二人が放つ光芒があまりに強烈でつい霞んでしまいそうになるが、他にも優秀な魔法師の卵、それどころか高校生でありながら第一線の魔法師に引けを取らない実力があると特定の業界から評価を受けている若手魔法師が何人もいる。
例えば、現代では極めて珍しい留学生で在学中の実績は特にないものの、その実力を知る者の間では司波深雪に肩を並べていると評判の九島リーナ。司波達也と同じく入学時は二科生でありながら九校戦で頭角を現し、二年生進級時に一科生となり、さらには風紀委員長の地位を勝ち取った吉田幹比古。彼は古式の術者でありながら現代魔法にも通じており、古式魔法師の間では伝統的な魔法技術に革新を起こす麒麟児と期待されている。中止になった二〇九七年度九校戦の代わりに開催されたモノリス・コード交流戦で、女子でありながら一高代表選手の一人として出場し、交流戦一高優勝の立役者になった千葉エリカ。なお彼女は非公式記録だが、交流戦で相手選手最多撃破数を記録している。
他にも『レンジ・ゼロ』の異名を持ちマーシャル・マジック・アーツのオープン大会で、高校生でありながらベスト四に残った十三束鋼。光を操る魔法に掛けては既に日本トップクラスと魔法大学の教授に太鼓判を押されている光井ほのか。その他、北山雫、五十嵐鷹輔、明智エイミ、里美スバル、森崎俊など、それぞれ得意とする分野で高い評価を受けている生徒が何人もいた。今年の三年生が在籍していた三年間こそ、一高の本当の黄金期だったと称え、彼らが卒業した来年度以降を危ぶむ気の早い学校関係者もいる程だ。教職員も在校生も三年生の卒業を惜しみ、一抹の寂しさと共に不安を抱えつつ、精一杯の祝福を贈ろうとしている。それが一高内に充満する不安定な、揺れ動き落ち着かない空気の正体だった。
駅から一高の校門へ続く通学路。久しぶりに登校している達也に向かって、高く張りのある声が飛んだ。彼の隣には深雪、さらにその隣にリーナがそして一歩離れた所に水波がいる状態で気軽に声を掛けられる女子生徒は僅かだ。
「あっ、達也くんだ。何時東京に戻ったの?」
「エリカ、朝の挨拶はそうじゃないでしょ」
応えたのは達也ではなく、眉を顰めた深雪だった。
「ゴメンゴメン。おはよう達也くん、深雪、リーナ。水波もおはよう」
エリカが大人しく挨拶からやり直す。深雪に逆らってはならないというのは、一高女子の間では常識にも等しい不文律だった。
「おはよう、エリカ」
達也に続いて深雪とリーナが「おはよう」と返し、水波が「おはようございます」と丁寧に一礼した。一通りの挨拶の交換が終わった後、最初に口を開いたのは達也だった。
「エリカに会うのは約一ヶ月ぶりだな」
「そんなになるんだっけ。あぁ、そうか。この前達也くんが学校に顔を見せた時は、あたしが受験でいなかったのか」
エリカは魔法大学だけでなく、警察にOBが多いことで知られる一般の大学も「うちに来ないか」と呼ばれて試験を受けた。魔法科高校の生徒が一般の大学から勧誘されるのは、極めて珍しいケースだ。
「そうだったわね。それで、決めた?」
ここでリーナが、エリカに進学先を聞く。
「やっぱり魔法大学にしようと思って」
「それ、本当?」
「今度こそホント。あたしが魔法大学に進むなんて、今でも実感湧かないけど」
元々エリカは進学自体、しないつもりだった。去年の五月頃、「高校を卒業したら武者修行の旅に出たい」と話していたのは決して冗談ではなかった。夏休みまでは、かなり本気で旅に出ることを考えていた。出国の段取りや旅費を稼ぐ為の割の良いアルバイトのことなども真面目に調べていた。
だがモノリス・コードの交流戦に出場したことで、状況が変わった。エリカの実力は千葉道場の門人を通じて、以前から警察や国防軍には伝わっていた。だが組織の上の方へ行く程、身内の噂という点を割引いて考える、言うなれば「逆色眼鏡」で見る者が多かった。
しかし交流戦の活躍で、その実力が噂以上のものだと明らかになった。特に相手を傷つけず無力化する無系統魔法『
どこも人材不足ですから