劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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最初から相手にならなかったですけど


完全敗北

 将輝の怪訝そうな顔を見て、深雪がリーナを将輝に紹介する。

 

「一条さん、彼女は九島リーナさんです。訳あって当家でお預かりしています」

 

「九島リーナです。まぁ、もうすぐ司波リーナになりますが。リーナとお呼びください」

 

「あ、はい。ええと、一条将輝です。よろしくお願いします、リーナさん」

 

 

 将輝は少しドギマギしながら自己紹介を返した。彼は深雪のことが好きなのだが、それでもリーナの美貌に何も感じないままではいられなかったようだ。

 

「……失礼ですが、九島というのはもしかしなくても……」

 

「ええ。御想像の通り、私の祖父は先日亡くなった九島閣下の弟です。その縁で九島の姓を名乗らせてもらっています」

 

「そうですか。……老師のご血縁にも拘わらず、九島家ではなく四葉家に身を寄せていらっしゃる理由は、聞かない方が良いんですよね?」

 

 

 将輝の質問にリーナが一瞬「?」マークを浮かべたのは、九島烈を指していた「老師」という呼称がピンと来なかったからだ。リーナが戸惑っている際に、深雪が回答権を横取りする

 

「一条さん、リーナは四葉家で預かっているのではありませんよ。とあるお方のご指示で、達也様と私がリーナのお世話をしているのです」

 

「とあるお方……? いえ、失礼しました」

 

 

 将輝はそれ以上踏み込まなかった。正体をぼかした言い方に、秘密の匂いをかぎ取って触れるのを避けたのだ。十師族の跡取りとしては、当然のリスク感覚だった。同時に将輝は、達也に奇妙な敗北感を覚えていた。戦闘力なら、「世界」の脅威となった達也が相手でも『海爆』を手にする自分はそれ程劣っていないと将輝は思っていた――いや、今も思っている。最初に新しい戦略級魔法を使ったあの時以後、将輝は研鑽を重ねて、この短期間で『海爆』を進化したと表現できるレベルまで引き上げている。

 しかし今、深雪が匂わせた達也の人脈は、単なる強さでは対抗できない程深く昏い権力の深淵を予感させるものだった。自分と同じ年齢で社会の奥深くまで食い込んでいるであろう達也に、子供が大人に対して懐く劣等感に似たものを将輝は覚えていた。

 

「――司波、開会のセレモニーが終わってからでいい、少し時間をくれないか」

 

 

 彼が性急にそんなことを言いだしたのは、この敗北感に対する若者らしい反発が生み出した焦りが原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セレモニーが終わり、余興に参加者の興味が向いたタイミングで、達也は将輝に目配せをして、行動の反対側にある小体育館裏の空地へ二人だけで移動した。

 

「それで、何の用だ」

 

 

 達也に問われて、将輝は唇をギュッと引き結び、両手を体の脇で握りしめ、背筋と腹と、そして目に力を入れた。

 

「司波、俺は司波さんが――司波深雪さんが好きだ」

 

「知ってる。それで?」

 

「………」

 

「それで?」

 

「………」

 

 

 黙ったままの将輝に、達也が背を向けようとする。

 

「待て!」

 

「何だ、いったい」

 

「司波、お前は……彼女のことが好きなのか?」

 

「深雪のことなら、好きに決まっている」

 

 

 将輝の問いかけに、達也は呆れ声で答えた。

 

「どういう意味で好きなんだ! ちゃんと女性として愛しているのか!?」

 

「当たり前だろ」

 

「誤魔化すな! お前は彼女を女性としてではなく、妹として愛しているだけなんじゃないのか!?」

 

「一条」

 

「っ!」

 

 

 今まで何の感情も篭っていない声だった達也が、急に込めた感情に将輝が息を呑む。実戦を知っている者だから感じる恐怖――逃れられないであろう殺意が向けられているのだ。

 

「お前は妹がいるな」

 

「ああ」

 

「その妹を愛しているか?」

 

「あ、当たり前だ! 家族として、俺は茜を愛している!」

 

「ならその『愛』と深雪に向けている『愛』の違いは、当然理解してるな」

 

「あ、あぁ……」

 

「できるできないはさておき、お前は妹に向けている『愛』の感情だけで、その相手と結婚しようと思うのか?」

 

「そ、それは……」

 

 

 達也と深雪が卒業後すぐに結婚することは将輝も知っている。以前から発表されていることであり、卒業後に籍を入れるのは深雪以外にも大勢いる。先程リーナが「すぐに司波姓になる」と言ったのは、そういうことだ。

 

「一条。お前が深雪の事を好きなのは知っているし、人の感情にとやかく言える程、俺は感情について詳しくはない。だがな、深雪の気持ちを無視して自分の気持ちだけを押し付けようとしているお前は、少なくとも深雪に相応しくない」

 

「そ、それを決めるのはお前じゃなくて司波さんだろうが!」

 

「既に断られているのに、しつこく迫っているのは一条家だろう? いい加減、深雪を解放してやったらどうだ」

 

「………」

 

「言いたいことはそれだけだな? 余り席を外していると深雪以外の婚約者たちも心配するだろうから、俺はこれで失礼させてもらう。一条、深雪の幸せを願うのなら、これ以上付き纏うのは止めるんだな」

 

 

 肉体的にではなく精神的にぼこぼこにされた将輝は、暫くその場から動くことができなくなってしまう。もちろん、達也が将輝の事を気にすることもなく、彼は余興から興味がそれて彼の事を探していた婚約者たちから何処に行っていたのかと質問攻めにあうのだった。




大人しく劉麗蕾と付き合ってください
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