劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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生徒会室での昼食です


意外な優しさ

 生徒会室に入ってまず深雪がしたのは、上流階級でも通用するようなお辞儀と挨拶だった。その深雪の動作に、達也以外の四人が動きを止めてしまった。

 

「どうかしましたか?」

 

「えっ! ううん、何でも無いの。どうぞ座ってください」

 

 

 達也に声をかけてもらわなかったら、きっとまだ固まっていただろうと思いつつ、真由美は二人に席を勧めた。

 普段なら断固として達也を上座に座らせようとする深雪だが、今日は自分が主役であると自覚して大人しく上座に座った。

 

「知ってると思うけど一応紹介しておくわね」

 

 

 そう言って真由美が順番に役員を紹介してくれた。深雪の前に座っているのが、会計の市原鈴音、達也の前に座ってるのが、役員でも無いのに居座っている風紀委員長の渡辺摩利、そしてその隣に座っているのが書記の中条あずさだと。

 ちなみに鈴音の事は『リンちゃん』、あずさの事は『あーちゃん』だと紹介した。

 

「私の事をリンちゃんと呼ぶのは会長だけです」

 

「私も立場と言うものがありますから、後輩の前であーちゃんはやめてください!」

 

 

 この二人の反応を見て、達也は『あーちゃん』は似合ってるなと思ったのだが、そんな事は口にも顔にも出さなかった。

 

「それじゃああーちゃん、自動配膳機(ダイニングサーバー)の操作をお願いね」

 

 

 反論虚しくあーちゃんと呼ばれたあずさは、小さい身体をより小さくして移動したのだった。

 さて、生徒会室に居る人間は全部で六人、しかし自動配膳機から出された料理は五人分だ。深雪は一つ足りないのではと言いかけたが、摩利の前にはお弁当が置かれているのを見てその言葉を飲み込んだ。

 

「今日は鰆なのね」

 

「会長は魚がお好きなのですか?」

 

「好きよ。如何して?」

 

「いえ、特に意味はありません」

 

 

 唯単に好物を前にした子供みたいだと思っただけだったので、達也はすぐに黙った。

 

「渡辺先輩のお弁当はご自分で作られてるのですか?」

 

 

 達也に続いて深雪も好奇心を抑えきれずに質問をした。摩利の弁当はとてもあり合わせやレトルト食品に頼ったものでは無い事くらい、深雪にはお見通しだったのだ。

 

「そうだが……意外か?」

 

 

 この質問は別に嫌味とかそう言った感情から出たものでは無い。ただ出来の良すぎる後輩にちょっとイジワルをしてやろうとしただけなのだ。 

 案の定答えにくそうにした深雪の代わりに、達也が不自然なほど素早く答えた。

 

「別に意外でも無いですね。普段から料理をしているかどうかは、手を見ればわかります」

 

「そ、そうか……」

 

 

 達也に手を見つめられ、気恥ずかしくなったので、摩利はその手を自分の背中に回した。先輩を軽くあしらった兄に、深雪は嫉妬の視線を送っていた。自分を助けてくれたのは嬉しかったのだが、あそこまで見つめる事は無かったのではないかと言う意味を込めて……

 その視線に真由美が気付く前に、深雪は話題を変える事にした。

 

「お兄様、明日から私たちもお弁当にしましょうか」

 

「深雪の弁当は魅力的だが、食べる場所がね」

 

「そうでしたね……」

 

 

 深雪は達也と一緒に食事をしたいのだが、周りがしつこくて一緒に出来てないのだ。一方の達也も一科生の大半から睨まれるようになっていて、深雪に影響があると思ってなるべく会わないようにしてるのだ。

 

「兄妹と言うより、恋人同士の会話みたいですね」

 

 

 二人の話している内容と、纏っている雰囲気から鈴音がそんな爆弾発言をしてきた。心なしか面白く無さそうな顔をしているなと、達也だけが気付いたのだった。

 

「そうですね、血の繋がりが無かったら、恋人にしたいとは考えた事があります」

 

 

 鈴音の爆弾発言をあっさりと肯定した所為で、爆弾は不発……いや誤爆の形で終わった。真由美も摩利も深雪もあずさも、発言元の鈴音ですら頬を赤く染めた中、達也は涼しい顔でこう続けた。

 

「もちろん冗談ですよ」

 

「「「えぇ!?」」」

 

「……深雪、何故お前まで驚く」

 

「な、何でも無いですよ?」

 

「そうか……ところで市原先輩」

 

「何でしょうか?」

 

「さっきから食べにくそうにしてますが、魚を取るのは苦手ですか?」

 

「リンちゃんにも苦手があったのね~」

 

「市原の苦手か、そう言えば知らなかったな」

 

 

 

 何気無く見ていた事で、達也は周りの人は知っているものだと思っていたのだが、如何やら知らなかったようだ。

 

「ちょっとだけ取り辛いだけです。問題ありません」

 

「そうですか……ちょっと失礼します」

 

 

 断りを入れ立ち上がり、鈴音の背後に回る達也。彼が何をしようとしているのか分かった深雪は、少しつまらなそうな顔をしたが、すぐに元の笑顔に戻った。

 

「あの、何を……」

 

「これで食べられると思いますよ」

 

 

 鈴音の箸を取り、代わりに身をほぐした達也。昔母親が苦手にしていたので、代わりにやらされていたのだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえ、余計なお世話だったかもしれませんが」

 

「そんな事無いです」

 

 

 実際、食べ辛かった鈴音は、珍しいくらい大きな声で達也の謙遜を否定した。その姿を見て、真由美と深雪がムッとした表情を浮かべていたが、達也以外には気付かれる事無く元の表情に戻したのだった。

 

「君は優しいんだな」

 

「そうですかね? 昔親も同じようにしてたので」

 

「そうだったのか」

 

 

 達也の行動に純粋な賛辞を送った摩利だが、彼女も内心驚いていたのだ。果して自分が鈴音の立ち位置だった時、自分の彼氏は同じようにしてくれるのだろうかと。

 

「それで会長、自分たちが呼ばれた用件をお聞きしても良いでしょうか?」

 

 

 食事も終わり如何切り出したものかと悩んでいた真由美に、達也がそう尋ねた。無愛想に見えてしっかりと相手を気遣えるのが、達也の美点だと深雪は思っている。その美点が女子の気持ちを引いてしまうのが悩みでもあるのだが……

 

「えっと、我々生徒会は、司波深雪さんに生徒会に入ってもらいたいと思っています。如何でしょうか?」

 

 

 主席入学者が生徒会に入るのは、もはや恒例になっているのだと説明があり、その後で勧誘をしてきた真由美に、深雪は躊躇いがちに答えた。

 

「会長は、兄の入試の成績をご存知ですよね? 優秀な者を生徒会に入れるのなら、兄を入れる事は出来ないのでしょうか?」

 

 

 深雪の発言に、鈴音が否を示した。気持ち的な問題では無く、規則で二科生は生徒会役員にはなれないのだと。

 その規則を話している時の鈴音の表情は、何故だか残念そうだと彼女の同級生2人は思っていたし、達也もちょっとした表情の変化は見抜いていた。

 

「そうですか……」

 

 

 鈴音に言われた事を完全に納得した訳では無いのだろうが、深雪はとりあえず諦めたようだ。

 

「ちょっと良いかい?」

 

「何よ」

 

「風紀委員の生徒会選任枠がまだ決まって無いんだが」

 

「それはまだ選定中よ!」

 

「風紀委員には一科生縛りは関係無いよな?」

 

「摩利……貴女」

 

 

 摩利の言葉を噛み締めるように震えている真由美を、達也はなんだか嫌な予感と共に見つめていた。

 

「ナイスよ! そんな抜け道があったなんて! 我々生徒会は、司波達也君を風紀委員に任命します!」

 

「お兄様!!」

 

「いや、そんな『決まりですね』みたいな顔で見られても……」

 

 

 真由美の興奮が移ったようにはしゃぐ深雪を制し、達也は自分が風紀委員に相応しくないと否定した。実力で劣っている自分が一科生を取り締まれるはずが無いと。

 しかし摩利は昨日の一件で達也の特殊技術を知っていたので、魔法識別で役に立つと言って聞かなかった。

 

「とりあえず放課後にもう一回来てね?」

 

「分かりました……」

 

 

 面倒な展開になったものだと思いながら、達也は渋々頷いたのだった。




実際に見てるとイライラするんですよね、魚の食べ方が汚い人……親がそうなので余計になのですが

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