劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まだまだ続く、ショタの洗礼


番外編・誕生! ショタ達也 その3

 午後は生徒会室で過ごした達也だったが、その間ずっと真由美と摩利がちょっかいを出そうとしていたのを鈴音が止めていた感じだ。本当なら鈴音も一緒になってちょっかいを出したかったのだろうが、ここでストッパーがいなくなると後で生徒会室が大変な事になると思ってストッパーに徹したのだった。

 

「失礼します。お兄様、お迎えが来ましたのでそろそろ行きましょうか」

 

「お迎え? 深雪さん、そのお迎えというのは?」

 

「先ほど話した伝手に関してのお迎えです。七草先輩や渡辺先輩にはあまり関係ない事ですので」

 

 

 達也の疲れている表情を見て、深雪はこの数時間この場所で繰り広げられたであろう出来事を察した。自分が我慢して授業に出ている間、この先輩たちは小さくなった兄と触れ合っていたのだと思うと、思わず魔法を発動したい気持ちに駆られてしまう。

 だが何時もならストッパーとして達也がいてくれるために、深雪はそういった感情を我慢する必要が少なくて済んでいるのだ。しかしこの状況の達也にストッパーとしての役割が務められるかと聞かれれば、間違いなく無理だろう。

 したがって深雪は感情を爆発させないために、あえて攻撃的な風に言葉を発したのだった。

 

「バイバイ」

 

 

 生徒会室から出ていく際に、達也は真由美たちに手を振る。それだけでついさっきまでピリピリとしていた空気が和やかなものに変わる。そしてそのまま達也は深雪に手を繋がれ迎えの車へと乗り込む為に校門まで向かう。途中誰にも見られなかったのは奇跡と言うほかないだろう。

 

「お待ちしていました、深雪さん」

 

「藤林さん? 何故本家の迎えが貴女なのでしょうか?」

 

 

 本家――四葉家の迎えの車であるはずなのに、その車の運転席にいたのは独立魔装大隊少尉・藤林響子だった。

 

「達也君の件、如何やら古式魔法が関係しているらしいのよ」

 

 

 深雪たちを車に迎え入れ、扉を閉めるなりそう響子が繰り出した。

 

「四葉さんはこの件で古式魔法の名門である藤林家に助力を求めてきたの。独立魔装大隊としても、何時までも達也君が無力化されている状況は好ましく無いのよ」

 

 

 そういいながらも、響子の視線はバックミラーを通して達也に向けられている。藤林家や独立魔装大隊の意見とは別に、響子個人としては今のままの達也でも良かったのかもしれないなと、深雪は内心思っていた。

 

「そこで深雪さんに質問なのだけど」

 

「何でしょう?」

 

「達也君が古式魔法師と接触したって事は無いかしら?」

 

 

 響子の質問に、深雪はしばし考え込んだ。ついこの間まで達也の周りをうろうろしていた大亜連合の魔法師、彼らを古式魔法師と捉えるならばいくらでも接触はあっただろう。だがしかし、その場合達也がショタ化してしまった原因が分からない。リーダーの陳は深雪がコキュートスで停めそのまま魔法協会の魔法師によって捕まり、副官だった呂剛虎は摩利たちによって撃沈され、これまた魔法協会の魔法師によって拘束されている。

 この二人が今回の犯人で無いのは、深雪にも容易に理解する事が出来た。そのせいで響子の質問の意図を測りかねていたのだ。

 

「如何やら達也君は古式魔法師によって幼児化させられているのよ。一応言っておくと大陸の魔法師は関係ないわよ」

 

 

 深雪の考えを知ってか知らずか、響子は大陸の魔法師は関係ないと言う。そのおかげで深雪の思考はまた一から練り直しとなったのだ。

 

「この件で叔母様が藤林家を頼ったのは分かりました。ですが何故藤林さんが迎えにきたのでしょうか? 四葉家の屋敷は部外者の立ち入りを固く禁じているはずです」

 

「そうね。だから今私たちが向かっているのは四葉本家ではありません。横浜の魔法協会関東支部です。そちらに四葉家ご当主もいらしてるみたいよ」

 

 

 よくよく考えれば、いくら真夜が協力を求めたとはいえ、藤林家の令嬢――もっと言えば九島烈の孫娘である響子に四葉家の本拠地を教えるとは思えなかった。普段達也が考えてくれている事も、今は深雪が考えなければいけないので、深雪の頭は情報の処理に追われているので細かな思考が疎かになってしまっていたのだ。

 

「でもね、深雪さん。ご当主様は既に犯人に目星は付けてるみたいだったわよ」

 

「そうなのですか?」

 

 

 響子の意外な言葉に、割かし本気で驚いた深雪。その姿を見た響子が小さく笑みを浮かべた。

 

「ええ。画面越しだったからハッキリとは言えないけど、何か掴んでるような雰囲気だったわ。それと、達也君に会いたいってオーラだけはハッキリ掴む事が出来たわ」

 

「そうでしょうね。例の件で近く屋敷を訪ねるはずでしたので」

 

 

『例の件』と言うだけで、響子にはそれが何なのかが正確に伝わっていた。達也に戦略級魔法『マテリアル・バースト』を使わせたのは、他ならぬ彼女の上司なのだから。

 

「もしかして怒られる?」

 

「違うとは思いますけど、お兄様の力を勝手に解放したのは咎められるでしょうね。本来私にはその権利はありませんでしたし」

 

「緊急事態であっても?」

 

 

 響子の質問に小さく頷き答える深雪。四葉の事情の詳しい事まで彼女に教える事は出来ないが、このくらいなら真夜も許してくれるだろうと考え、そして最愛の兄がこうなってしまった状況を調べる為という建前もある事で、深雪は多少事情が漏れてしまっても仕方ないだろうと考えていたのだ。

 

「そろそろ着きますね。あら、達也君はお疲れなのかしら?」

 

 

 バックミラーを覗き、微笑む響子に言われ、深雪は隣に座っている達也がいやに静かだった事に今更気がついた。

 

「お兄様?」

 

 

 声を掛けるが返事は無い。如何やら真由美たちに散々からかわれた所為で疲れたのだろう。達也は小さく寝息を立てて眠っていた。

 

「普段の達也君からは考えられないほど穏やかな寝顔ね」

 

「兄は常に私を守っていますからね。気の休まる時間など存在しなかったのでしょう」

 

「お兄ちゃんも大変ね」

 

 

 冗談混じりでつぶやいた響子に、深雪は少し鋭い視線を向けた。いくら冗談だと分かっていても、自分以外が達也を兄と言うのが我慢出来ないのだ。再従妹である亜夜子ですら、達也の事を兄の様に扱うと深雪に鋭い視線を向けられるのだ。

 まぁもっとも、達也を兄の様に慕っているのは再従弟の文弥であり、亜夜子は別の意味で達也を慕っているのだが。

 

「どうします? 私がおんぶしていきましょうか?」

 

「いえ、私がお兄様をおんぶしますので」

 

「そう。では行きましょう」

 

 

 車から降り、魔法協会関東支部で真夜が待っているであろう部屋まで向かう間、深雪はこれまで以上の幸せを感じていたのだった。

 




リンちゃんはあくまで冷静に……

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