劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今回は「摩利が修次と付き合っていなかったら」という設定です。無理くり感満載ですが、そこは気にせずお楽しみください。


超IFルート 摩利編

 論文コンペも終わり達也は再び平穏な日常を取り戻しつつあった。彼の平穏が一般の高校生が平穏と思うかは別だが……

 

「おや、達也君じゃないか。如何したんだ、こんなところで」

 

「渡辺先輩。見回りも終わりましたので地下で資料でもと思いまして」

 

 

 図書室へ向かう途中、前風紀委員長の摩利とばったり会い、他愛ない会話をする達也。少し前まではこんなのんびりと会話をするなどという当たり前な事すら、する余裕が無かったのだ。

 

「それにしても、君の戦闘能力は凄まじいものがあるな。あの魔法が使えると聞かされて驚いたが、それ以上にその能力は驚嘆に値する」

 

「あの魔法? ……あぁ、渡辺先輩はあの場所にいたんですね」

 

 

 桐原たち三人を「再成」した現場に、確かに摩利の存在があったなと、達也は今更ながらにそんな事を思っていた。

 

「そうだ、達也君。暇なら少し付き合ってもらいたいのだが」

 

「暇ではありません。せっかく資料を漁る時間が確保出来たのですから……」

 

「細かい事は気にするな。さぁ、いくぞ」

 

 

 この人も人の話を聞かないタイプなのかと、達也は盛大にため息を吐きながらも摩利の後に続いた。逆らって後で面倒な事になるくらいなら、ここは素直に諦めてついていこうと、年下らしくない考えで自分の時間を放棄したのだった。

 

「それで、何処に行くんですか?」

 

「道場だ。少し剣術の相手をしてもらいたいんだ」

 

「……エリカにでも頼めばいいじゃないですか」

 

 

 達也がエリカの名前を出した途端、摩利の表情が苦々しげに歪められた。

 

「あたしじゃエリカの相手にならない……道場の娘という事もあるのだろうが、アイツの実力は本物だからな」

 

「そうですか。しかし俺は剣術は専門外もいいところですが」

 

「なに、君なら平均以上に動けるだろ?」

 

 

 同性受けしそうな男前の笑みでそう問われ、達也はもう一度ため息を吐いた。

 

「ご期待に応えられるか如何かは知りませんから」

 

「魔法は使わない。だから君でも大丈夫だろ」

 

「別に魔法ありきでも構いませんけどね」

 

 

 達也の申し出に、摩利は首を傾げたくなった。達也の事情は、先日深雪から聞かされた。最高難度の魔法が演算領域の殆どを占めている為に他の魔法を自由に扱う事が出来ない。それでも達也は魔法ありきでも構わないと言ってきたのだから。

 

「君がいいなら魔法を使わせてもらうが、怪我しても知らないからな」

 

「大丈夫ですよ。俺を本当の意味で傷つけられる相手など存在しません」

 

「?」

 

 

 今度こそ、摩利は首を傾げた。「再成」の事は聞かされているが、それと彼を傷つけられないという事が如何いう事なのか、この時の摩利はまだ知らなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、道場にはまったく汗も掻かず、傷一つ無い達也と、汗だくで道場の床に倒れこんでいる摩利の姿があった。

 

「まだ、やりますか?」

 

「いや……このままやっても勝てないだろうし、止めておこう」

 

 

 宣言通り魔法ありきで戦った摩利だったが、達也の術式解体にあえなく沈み、体術の差で圧倒されたのだった。

 

「やはり君は面白い存在だな」

 

「そうでしょうか?」

 

「まさかCAD無しであそこまで無系統魔法を操れるとは」

 

「力技です。実践では使えません」

 

 

 達也は謙遜ではなく割かし本気でそう思っている。だが摩利には達也のこの言葉が謙遜に聞こえていた。

 

「なぁ達也君、君にはまだ秘密がありそうだな」

 

「何故そうお思いで?」

 

 

 顔色一つ変えずに、また正面から摩利を見つめる達也の視線に、摩利は思わず視線を逸らした。普段はからかう側の摩利だが、自分がからかわれると弱いのだ。

 

「司波の話しでは、君は他の魔法を自由に使う事が出来ないと言っていた。だが君は『術式解体』や無系統魔法を比較的得意としてるだろ? 何となくだが話に齟齬があるように感じるんだ」

 

「自由に使えないと言っても、全く使えない訳ではありません。じゃなきゃ入学試験に、二科生とはいえ合格出来ませんよ」

 

「それは……そうかもしれないが」

 

 

 達也の言葉は一々正論で、摩利は反論の隙を窺えなかった。だが同時に、正論過ぎて逆に怪しいとも感じていた。

 

「そろそろ帰りましょうか。下校時間はとうに過ぎてますよ」

 

「おや、それは気づかなかったな」

 

 

 もちろん気づいてない訳が無い。摩利も達也もそこまで熱中していたわけでもなければ、視野狭窄を起こすような性質でも無い。

 

「悪かったね。無理矢理付き合わせて」

 

「本当に悪いと思っているのなら、最初から誘わないでいただきたかったですね」

 

 

 二人で軽口を叩きながら昇降口まで向かう。生徒会の業務を終えた深雪が達也を待っているのだ。

 

「お兄様! 渡辺先輩もご一緒だったのですか?」

 

「剣術の相手に指名されてしまってな」

 

「なんだ、不満だったのか?」

 

 

 再び軽口を叩きあいながら、三人で駅までの道のりを行く。その半分くらい歩いただろうか、三人目掛けて大型車が突っ込んで来る。もう少し早く気がつけば深雪に対処させたのだが、既に深雪の魔法では間に合わないくらいまでトラックは突っ込んできている。

 

「(カメラは如何とでもなるが、渡辺先輩には事情を話さなければな)」

 

 

 懐にしまってある銀色の特化型CADを引き抜き、達也は引き金を引いた。瞬間、トラックは消え去り、運転手は空中に放り出された。

 

「お兄様!」

 

「深雪は師匠に知らせてくれ。俺は少佐に連絡を入れる」

 

「分かりました!」

 

 

 見たところ運転手は大陸の人間だった。残党か新規かはともかく、例の件の名残である事は間違いなさそうだった。

 

「……今のはいったい?」

 

「渡辺先輩。今見た事は他言無用でお願いします」

 

「だ、だが……」

 

「もし承諾していただけないのであれば、俺は貴女を消さなければいけません」

 

「おいおい、穏やかじゃないな……」

 

 

 何時ものように笑い飛ばそうとしても、今だけは上手く出来なかった。

 

「本気なのか?」

 

「ええ。その代わり、俺も最大限先輩の言う事を聞きましょう」

 

 

 交渉の余地は無い。摩利は達也の真剣な眼差しを受けてそう結論付けた。

 

「では、あたしが達也君に頼みたい事は一つだ」

 

「何でしょう?」

 

「あたしと付き合ってもらおう。もちろん剣術ではなく男女としての付き合いだ」

 

「……仕方ありませんね。その条件で構いませんよ」

 

 

 秘密を守る為ならと、深雪も何とか自分を納得させている様子だった。こうして摩利は、達也の身元を隠すのに一枚噛む代わりにかけがえのない存在を手に入れたのだった。




秘密を共有する事で繋がりを誇示する。ありがちですけど、この流れでは付き合わないよな……

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