劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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IFじゃなくてもあり得そうなんですが、色々と設定に無茶があるのでIF世界で……


IFルート 深雪とのデート

 深雪は今かつてないほどの緊張を覚えていた。理由は分かっている。達也と二人で出掛けてたまたま入った店がカップル割をやっており、店員にカップル認定をされたからだ。別にそれだけなら過去に何度かあるし、会計が安く済むので達也に申し訳なく思う気持ちも多少軽減される。

 では何故かつてないほど緊張しているのかというと、運ばれてきた料理は二人前なのに対して箸やスプーンなどが一人分しかないからだ。つまり、食べたいものがあるなら相手が使ったものを使うしかないという事になる。

 深雪は最初喜んだのだが、少し冷静さを取り戻して緊張しているのだ。

 

「深雪、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫ですよ? た、達也さんこそ平気なのですか?」

 

 

 恋人っぽく見せる為に、深雪は達也の事を名前で呼んでいる。これもまた緊張している原因の一つだ。未だかつて、達也の事を名前で呼んだ事は無かった。幼い時は「兄さん」や「あの人」、三年前の八月以降は「お兄様」と、兄妹らしくない関係だったのにもかかわらず、深雪は達也の事を名前で呼んだ事が無かったのだ。

 

「やはり行儀が悪いな。すみません、箸をもう一膳いただけますか?」

 

「畏まりました」

 

 

 達也は行儀などを気にする性質だ。やはりこのような食べかたは気に入らなかったようだ。

 

「深雪、先に食べてなさい」

 

「……分かりました」

 

 

 一方の達也は普段から深雪の事を名前で呼んでいるし、今更緊張するような心を持ち合わせていない。日ごろから大人との付き合いもある達也にとって、恋人扱いされるくらいでは緊張する事もないのだ。

 

「そういえば、叔母上の話は何だったんだ?」

 

「いえ……『あの魔法』はさすがにやりすぎだと言う事と、私が契約を解除した事への忠告でした。後日改めて屋敷を訪ねるようにとも言われましたが」

 

「そうか……しかしまぁあれは仕方ないだろ。場面が場面だ」

 

 

 大亜連合軍との戦いで、深雪が達也本来の魔法の使用を許可してなければ、戦況は確実に悪くなっていただろう。真夜にだってそれは理解出来ているだろうから心配するなと言わんばかりに、達也は深雪の髪を撫でる。その手に縋るように深雪は達也に身体を寄せる。

 このような他者の目があるのにも関わらず達也に甘えるのは、深雪がまだ立ち直れていない証拠なのだが……それが恋人に甘えてるように見えるのは、二人の雰囲気が兄妹らしくないからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わぬところでお金が浮いたので、達也は深雪に何か買ってやる事にした。何時までも自分が停めてしまった敵の事で心を痛めている妹に、せめてもの慰めと思い達也は深雪を甘やかすのだ。

 

「よろしいんでしょうか?」

 

「気にするな。さっき浮いた事だし、それにこれくらいなら懐も痛まない」

 

 

 FLTの人気商品、「シルバー・モデル」の売上で達也の資産はかなりのものになっている。もちろん無駄遣いなどはせず、必要分しか引き出さない為に、貯まる一方なのだが。たまに妹にプレゼントしたくらいで、達也の資産を枯渇する事は無いのだ。

 

「なんだが、本当にお兄様とデートしてるみたいです」

 

「なんだ、いきなり。これくらいならたまにしてるだろ?」

 

 

 達也としては、妹の為にお金を使うのは最も有意義な使い道だと考えているので、遠慮などされると逆に困るのだ。深雪もその事を知っているので必要以上に遠慮はせずに、最終的には達也の好意に甘えるのだ。

 

「ではお兄様、この服を買っていただけますか?」

 

「もちろん」

 

 

 精一杯達也の好意にふさわしい甘え方で達也におねだりする深雪。その深雪のおねだりに達也は頷いて応える。このやり取りは何時もの事なのだが、彼ら以外の周りの人間は常にこのやり取りを見てフリーズする。男性は深雪の可憐さに。女性は達也の態度に。

 自分の連れと見比べ互いに落胆する、などというカップルも少なくないのだが、達也と深雪にとって周りの事など気にする必要はないと思っているのだ。その境地に至らなければ買い物など出来ないくらい、二人は目立つのだから。

 むろん、二人が気にしなくても周りが気にしてしまい、中には絡んで来る輩も少なくない。そして今日はその中でも一際ガラの悪い連中に絡まれたのだった。

 

「なあ姉ちゃん、こんなやつじゃなくて俺らと遊ばねぇ? 楽しい場所に連れてってやるぜ?」

 

 

 今では天然記念物と称されてもおかしくないくらいのチンピラが、二人を囲うように現れた。そしてそのチンピラの一人が深雪に触れようとして――

 

「痛ぇ!?」

 

 

――その腕を達也に捻り上げられた。

 

「お帰り願おうか。それともこれ以上痛い目を見たいのか?」

 

 

 達也の声は、いつにもまして鋭さがあった。冷気を纏い、鍛えた刀の様な雰囲気がその視線にはあった。

 

「カッコつけてるんじゃねぇよ! こっちは数がいるんだぜ!」

 

 

 仲間を助けようと思ったのか、それとも達也の挑発に血を昇らせたのか知らないが、残りのチンピラたちが一斉に達也に殴りかかる。それをみて女性が悲鳴を上げる。もちろんそれは深雪ではない。

 

「グッ!?」

 

「ギャッ!」

 

「グフ……」

 

 

 チンピラたちは一人一発、鳩尾に拳をねじ込まれて苦悶の表情を浮かべ地面に倒れ込む。

 

「深雪、いくぞ」

 

「はい、お兄様」

 

 

 沈んだチンピラたちに目もくれず、達也は深雪を連なってこの場を離れた。騒ぎにする事でも無いのだが、周りから見ればチンピラに絡まれた可哀想なカップルに見えてしまうのだ。のちに警察が来るだろうから、二人は急いでこの場から離れたかったのだ。

 

「やれやれ、深雪と出かけると必ずと言っていいほど絡まれる」

 

「あらお兄様? それは深雪が悪いと言っているのですか?」

 

 

 達也の冗談に深雪も冗談で応える。二人にとってさっきの様な状況も日常茶飯事なので、このように笑い話に出来るのだ。

 

「もう少し落ち着いた感じにはなれないのだろうか」

 

「それでしたらお兄様、人気のない場所に行けばいいんですよ。今度お兄様がお休みの時、深雪と遠出しましょう」

 

 

 こうして次のデートの約束を取り付けて、深雪は上機嫌で家路についた。達也としても、妹との時間を確保するくらい苦でも無いのでこうして了承するのだが、彼のスケジュールはそんな余裕は無いのだ。

 それでもこうやって甘やかしてしまうのは、彼がシスコンである事の証拠なのかもしれないが、それを指摘するのも(出来るもの)は存在しないのであった。




原作では婚約者になってる二人ですが、自分的には兄妹関係の方が良いような……

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