劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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雫の話は単純に自分がやりたかったからです。


新・IFルート 雫編

 風紀委員の見回りを終え、図書室に向かおうとした達也に摩利が声を掛けた。

 

「なぁ達也君。君の友人の中で風紀委員に向いていそうなやつはいないか?」

 

「風紀委員に、ですか……幹比古や雫などはが良いんじゃないでしょうか?」

 

 

 達也としては、聞かれたから答えただけなのだが、摩利は二度、三度頷いて更に続けた。

 

「では、その吉田と北山に風紀委員をやらないか如何か聞いておいてくれ」

 

「俺が、ですか?」

 

「君が、だよ」

 

 

 何時しかのやり取りと同じような事を言われ、達也は内心諦めムードで抵抗を試みた。

 

「俺は風紀委員長ではありませんし、渡辺先輩のように元でもありません。そして来年度からは生徒会に移動する事になっています。ですから、後任探しは俺では無く現委員長の千代田先輩か、それこそ渡辺先輩がする事ではないでしょうか」

 

「実にその通りだ。だが君が挙げてくれた二人とはそれほど面識は無いし、君が話してくれた方が話が早くて済むのだよ」

 

 

 摩利の反論に、達也は思わず納得してしまった。先に摩利が言ったように、実にその通りの内容だった。

 

「……勧誘出来なくても知りませんからね」

 

「勧誘してくれるだけでありがたい。やはり達也君は頼りになるな」

 

 

 元生徒会長の様な事を言い出した摩利を、達也は呆れながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 摩利からの依頼を受け、達也は幹比古と雫を呼び出し、風紀委員に興味が無いかを訊ねた。

 

「達也、僕は二科生なんだけど?」

 

「それは俺も同じだ。それを言い訳には出来ないからな」

 

「うーん……」

 

「やるって言えば達也さんが色々教えてくれるの?」

 

「そうだな……初めのうちくらいなら構わないが、原則風紀委員は一人行動だからな」

 

「僕は止めておくよ。家での修行もあるし、達也ほど神経が太くないから」

 

「なんだそれは」

 

 

 達也も分かっているが、それを認めてしまうのは如何にも納得が出来ないので苦笑いを浮かべながら反論をした。

 

「私はやってみたい。深雪とほのかは生徒会で忙しいけど、私は何もないし」

 

「そうか。じゃあ本部にいって渡辺先輩に挨拶をして、ついでに千代田委員長にも挨拶を済ませてしまおう」

 

「達也、どちらかと言えば渡辺先輩がついでじゃないのか?」

 

 

 幹比古の疑問は最もなものだろうが、風紀委員においてのみ、それは当てはまらない疑問だった。

 

「現職の千代田委員長よりも、前任の渡辺先輩の方がよっぽど働いてるからな。千代田委員長は俺か五十里先輩に仕事を投げ出す癖があるからな」

 

「とりあえず二人に挨拶すればいいんでしょ?」

 

 

 雫の問い掛けに、達也は頷いて答えた。まったくもってその通りの雫のセリフに、達也も幹比古も一瞬固まってしまったのだが、達也は一瞬以上意識を手放す事は無いのだ。

 

「じゃあ雫は俺と一緒に風紀委員会本部に来てくれ。幹比古も悪かったな」

 

「いいって。どうせ僕は部活もやってないし」

 

 

 幹比古と別れ風紀委員会本部へと向かう。生徒会室から直通の階段があるのだが、今回はちゃんと本部入口から部屋に入る事にしたのだ。

 

「失礼します」

 

「やぁ。待ってたよ」

 

「渡辺先輩。吉田は断りましたが、北山はやってくれるそうです」

 

「そうか。歓迎しよう」

 

「ちょっと司波君。如何して摩利さんに報告して私にはしないのかしら?」

 

「渡辺先輩に報告すれば、それはイコールで千代田委員長にも報告されますから」

 

「確かに」

 

 

 基本的に摩利に報告さえしておけば、そのうち花音の耳にも入る事になる。引退したのに頻繁にこの部屋に顔を出す摩利の方が、今でも委員長として扱われているのだろう。

 

「じゃあ、北山さんの面倒は司波君が見てあげてね。君なら風紀委員の仕事がどんなものか、手っ取り早く教えられるでしょ」

 

「はぁ……」

 

 

 花音の時同様、達也は新人の教育を任されたのだが、達也としては「一年の自分より二年の先輩方の誰かの方がいいのではないか」と言いたいのだが、摩利と花音の二人を同時に説得する苦労を考えれば、雫に教えた方が楽が出来ると考えて抗議はしなかったのだった。

 

「では、明日から頼むわね」

 

「分かりました」

 

「じゃあ司波君、色々と教えておいてね。私は生徒会室に行ってるから」

 

 

 片付けるべき書類が山積みになっているのにも関わらず、花音は直通の階段を上って生徒会室へと行ってしまった。苦笑いを浮かべている摩利も、それを手伝おうとは思ってないようだった。

 

「……じゃあ雫、書類の処理の仕方から教える。渡辺先輩も用が無いのならお帰りください。相手を出来るほど余裕があるわけじゃないですし」

 

「冷たいな、君は」

 

「では先輩もお手伝い願えますか?」

 

「では達也君。頑張って教育するんだぞ」

 

 

 達也が厭味ったらしく摩利に視線を向けると、旗色の悪さを瞬時に感じ取った摩利は風紀委員会本部から逃げ出した。

 

「達也さん、大丈夫?」

 

「あぁ……割と何時もの事だから」

 

 

 軽くこめかみを押さえながら答える達也に、雫は心配そうな視線を向けていた。

 

「ねぇ達也さん、風紀委員とは関係ないんだけど……」

 

「なんだ?」

 

「横浜で達也さんがヘリの周りにいた蝗を消し去った「アレ」って何?」

 

「………」

 

 

 雫は感情こそさほど表に出さないが、好奇心は友人の中でも一、二を争うほど強いのだ。達也としては説明出来ないものなので如何誤魔化すかを考えていたのだが、雫は口が軽い訳でもないので、念押ししておけば情報が漏れ出る心配は無いのではないかと考えて説明する事にした。どうせ他のメンバーには「もう一つの魔法」の事を知られているのだから。

 

「あれは俺本来の魔法、名称は『分解』。エイドスに直接作用する魔法で、構造体を原子単位まで分解する魔法だ。対象は人体や機械関係なく使える」

 

「それ、最高難度魔法……」

 

「これを生来の魔法として、演算領域に持って生まれた為に、俺は他の魔法を自由には使えないんだ。分かってるとは思うが、これは他言無用で頼むからな」

 

「うん……」

 

「黙っててくれるのなら、俺は出来る限り雫の言う事を聞こう」

 

 

 脅すよりもこっちの方が雫には有効だろうと思い提案したのだったが、達也は雫が何を願うのかを全く考えていなかった。

 

「じゃあ……私の専属エンジニアになって」

 

「……ライセンスを取ったらな」

 

「うん。それと」

 

「まだあるのか?」

 

 

 まさか二つ以上願いがあるとは、達也も思ってなかったのだ。

 

「こっちの方が大事。達也さん、私と婚約してください」

 

「……何?」

 

「婚約。北山家の事情は知ってるでしょ? そして魔法師は早婚を求められている。自分の意にそぐわない婚約者を連れてこられる前に、私は自分の意思で婚約したい」

 

「………」

 

 

 雫の意思の強さに、達也は少し考えさせられた。自分が出来る限り言う事を聞くと言ったので、雫は切り出してきたのだろうと。

 

「恋人では駄目なのか? いきなりはさすがに……」

 

 

 これが、達也の精一杯だと受け取った雫は、返事の代わりに座っている達也の唇に自分の唇を重ねたのだった。




やっぱり雫は可愛いなぁ……

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