劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

259 / 2283
要望が多かったので亜夜子のもやります


新・IFルート 亜夜子編

 今日は珍しく司波家には来客があった。とはいってもその来客とは血縁であり同年代の姉弟だ。

 

「久しぶりだな、文弥、亜夜子ちゃん」

 

「お久しぶりです、文弥君、亜夜子さん」

 

 

 達也と深雪の再従兄弟にあたる黒羽家の姉弟、黒羽亜夜子と文弥が訪れているのだ。

 

「ご無沙汰しています、達也兄さま、深雪姉さま」

 

「ご無沙汰しておりましたわ、達也さん、深雪お姉さま」

 

 

 再従姉弟同士なのだから、これほど堅苦しい挨拶も必要無いのだが、達也以外幼少期から礼儀作法などを叩きこまれているので簡略化してもこれくらいになってしまうのだ。

 

「それで、今日は何か用なのか?」

 

 

 黒羽家との付き合いはそれほど濃い訳ではない。文弥や亜夜子は達也を慕ってるのだがその父親であり黒羽家当主の貢は達也と自分の子たちが仲良くしているのを面白くないと思っているのだ。

 だからではないが、黒羽姉弟と達也たちはそう頻繁に顔を合わせる事もないのだ。

 

「兄さまは気にしすぎです。僕たちと兄さまは再従兄弟なんですから」

 

「そうですわ。再従兄の達也さんに会いに行くのは別に問題のある行為ではないんですよ。お父様たちが意識し過ぎなだけです」

 

「そうですよ、お兄様。お兄様はご当主様の近しい血縁の者なのですから。周りが如何思おうとお兄様は私たちの血縁者です」

 

 

 文弥、亜夜子に続き深雪までもが達也に迫る。さすがに三対一では旗色が悪いと、達也もこれ以上何かを言う事はしなかった。

 

「まぁゆっくりしていけ。気にする必要は無い」

 

「ありがとうございます。ですが兄さま、実はお願いがあるのですが」

 

「お願い? 俺にか?」

 

「はい。と言ってもお願いがあるのは僕ではなく姉さんなんですが」

 

「亜夜子ちゃんが?」

 

 

 学年は一つ下なのだが、亜夜子と文弥は生まれた年だけ見れば深雪と同じ。早生まれだから深雪は達也と学年が同じなだけでそれほど二人と離れてるわけではない。だからでは無いのだろうが、亜夜子は昔から深雪を意識している節が多々見られるのだ。

 深雪の気持ちからすれば、次期当主候補は文弥なのだから、亜夜子に敵愾心を持たれる覚えは無いのだが。

 

「実はですね、黒羽お抱えのエンジニアが長期入院する事になってしまいまして。それで周期的にメンテナンスをお願いしていまして、そのタイミングが……」

 

「なるほど。調整を頼む前に入院してしまったのか」

 

「はい。それで家の事情もありますし、他に頼めるあてもありませんので……」

 

「だけど、黒羽さんは納得してるのかい? いくら再従兄とはいえ年頃の娘のCADのフルチェックを俺にさせるなんて」

 

「ですから、達也さんは気にし過ぎなんですよ。それに、深雪お姉さまのフルチェックだって周期的になさってるのでしょ?」

 

 

 そこで亜夜子は深雪へと視線をズラした。見られた深雪も亜夜子に負けないように視線に力を込める。達也は気にしてないが文弥には見えない火花が飛び散ってるように感じられていた。

 

「いいだろう。ついでに文弥もするか?」

 

「い、いえ! 僕は大丈夫です。それに、これ以上達也兄さまの手を煩わせる訳にも行きませんし……」

 

「気にするな。再従兄弟なんだからな」

 

 

 遠慮している文弥の頭を軽く叩き、達也は地下室へと亜夜子を案内する。残された深雪と文弥は、地下室が気になりながらもはしたない行動をするのを躊躇い、大人しくリビングで残っていたお茶を飲んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えていたよりも話がスムーズに進み過ぎて、亜夜子は内心混乱していた。最終的には達也に調整をお願いする事は決まっていたのだが、そこにたどり着くまでの過程が、亜夜子の想像とはまるで違ったのだ。

 

「あの、達也さん」

 

「如何かしたのか?」

 

「いえ……」

 

 

 測定の前に、達也は亜夜子が普段使っているCADのチェックをしている。普段作業している達也の姿を見た事がない亜夜子は、その速度と正確さに圧倒されてしまっているのだ。

 

「なるほど……」

 

「如何かなさったのですか?」

 

「いや、黒羽家のお抱えって言っていたから、どれくらいの腕かと思ってな。まぁこれくらいなら遜色無い仕上がりに出来るだろう」

 

「別にそれ以上でも構いませんわよ?」

 

 

 悪戯っぽい笑みを達也に向けた亜夜子だが、実はかなり余裕が無い。密室ではないが、この空間に達也と二人きりだという現状は、中学三年生の恋する乙女には刺激的すぎる場所だ。しかも、これからその相手に自分の全てを見られるのだから……

 

「じゃあ調整の前に測定を済ませちゃおう。そこに横になって」

 

「はい……」

 

 

 測定をする為、亜夜子は着ている服を脱ぎ下着姿になる。そして測定機の上に寝転がり、機械と達也の両方に全てを読み取られる。

 

「お疲れ。服を着ていいよ」

 

 

 測定が終わり達也はものすごい勢いで調整を進めている。同年代の女の子の半裸姿を見たと言うのに、彼に動揺は微塵も見られなかった。一方の亜夜子は、全身が真っ赤に染まり、服を着る動作もかなりぎこちないものだった。

 

「達也さん」

 

「ん? 何か問題でもあったか?」

 

 

 作業の手を止めずに、達也は背後から呼びかけてきた亜夜子に応える。そんな達也の態度に我慢の限界が訪れたのか、亜夜子が背後からその背中に抱きついた。

 

「達也さんはズルいです。こうやって私がドキドキしてるのに気づいてるのに、気づかないフリを続けるのですもの」

 

「事情は亜夜子ちゃんだって知ってるだろ。俺には感情が殆ど残って無いんだ」

 

「ですが、恋愛感情は残ってるはずですよね」

 

「一般と比べればかなり希薄ではあるがな」

 

「じゃあやっぱり、私じゃ興奮しないんですか? 深雪お姉さまの様な体じゃなきゃ!」

 

「おいおい、随分と感情的じゃないか。何時もの亜夜子ちゃんは何処に行ったんだ?」

 

「そうやって……何時も達也さんは私の事を子供扱いして。これでも立派なレディなんですよ」

 

 

 色々とツッコミを入れたかった達也だったが、そうするとまた面倒になるので別の行動で大人しくさせる事にした。

 

「まったく達也さんは……ッ!?」

 

「レディならもう『亜夜子ちゃん』とは呼べないな」

 

 

 やかましかった亜夜子の口を自分の口で塞ぎ、亜夜子の思考を停止させた達也。

 

「な、な、何を!?」

 

「立派なレディならそうやかましい事を言うな。それに、ちゃんと亜夜子の事は女性だと思ってるよ」

 

 

 達也の言葉に言葉を失った亜夜子は、達也が調整を終わらせるまで静かに悶えながらも冷静に考えをまとめていた。

 

「達也さん、これからよろしくお願いします! 亜夜子は一生達也さんについていきますから!」

 

 

 宣言通り、翌週から亜夜子は司波家で生活する事になり、深雪ともめる事もしばしば。その都度頭痛を覚えながらも、幸せを感じていた達也だった。




タイトル、黒羽姉弟とどっちにしようか悩んだのですが、文弥はまぁ……ってことで亜夜子編に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。