劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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運命

 固定端末のメンテナンスを終えた達也は、ハッチを閉め摩利に報告をする。

 

「点検終わりました。痛んでいた部品は取り替えたので、これで当分は大丈夫だと思いますよ」

 

「ご苦労だったな」

 

「ところで、さっき会長の声が聞こえたような」

 

「あぁ……片付けの催促に来たら、既に片付いていて驚いて帰ったさ」

 

「催促ですか?」

 

 

 如何やら前々から片付けをしてなかったようで、生徒会の方でも問題視していたようだったのだ。

 そこへ達也が風紀委員に入り、早速風紀委員会本部を片付けた事により、摩利は真由美からの小言を言われずに済んだようだった。

 

「ハヨースッ!」

 

「オハヨーございます、姐さん」

 

 

 片付けも終わり、ある程度の活動内容を聞いた達也は、生徒会室に戻ろうとしたが、威勢の良い声と共に風紀委員会本部に入ってきた二人が気になって足を止めた。

 

「本日の巡回終了しました! 逮捕者ありません!」

 

「ところで、この部屋は姐さんが掃除したんですか?」

 

 

 威勢の良い男子と、ねじり鉢巻の似合いそうな男子が、それぞれ摩利に報告と確認をした。一方の摩利は、姐さんと呼ばれて少し恥ずかしそうだった。

 そんな事を思いながら眺めていると、おもむろに摩利が冊子を筒状にしたかと思えば……

 

『パシン!』

 

 

 乾いた音が風紀委員会本部に響き渡った。

 

「姐さんは止せと言ってるだろうが、鋼太郎! お前の頭は飾りなのか!」

 

「何回もポンポンと叩かねぇでくださいよ姐……委員長」

 

 

 再び振りかぶった摩利を見て、呼び方を変えた鋼太郎と呼ばれた男子、摩利から視線を逸らした先にいた達也を見つけてジロジロと見てきた。

 

「新入りですか? 紋無しのようですが」

 

「辰巳先輩! その表現は禁止用語に抵触する恐れがあります! この場合は二科生と言うべきかと」

 

「お前ら、そんなんじゃ足元をすくわれるぞ? 此処だけの話、さっき服部がすくわれたばかりだ」

 

 

 摩利の発言に、さっきまでとは違う意味で達也の事をジロジロと見てくる二人、達也としては正直居心地の良いものでは無かった。

 

「ソイツは逸材ですね」

 

「は?」

 

 

 だから辰巳のこの発言は達也にとって意外でしかなかった。

 

「風紀委員は一科生である事の優越感に浸ってるばかりのヤツじゃないんだ。アタシがこう言った性格だからね。真由美も十文字もそういった意識の少ないヤツを推薦してくれる。まぁ、教職員枠のヤツはそうはいかなかったがね。だから君にとっても此処は居心地が良いはずだよ」

 

「三年の辰巳鋼太郎だ」

 

「二年、沢木碧です」

 

「一年の司波達也です」

 

 

 そろって出された手を握り、自分も自己紹介をした達也だったが、沢木がその手を離してくれないのに疑問を覚えた。

 

「十文字さんと言うのは、課外活動連合会、通称部活連の会頭の事だよ。それから、自分の事は苗字で呼んでくれ。くれぐれも名前で呼ばないようにな」

 

 

 その瞬間に達也の手に凄まじい圧力が掛かってきた。念押しのつもりなのだろうが、達也に先輩を名前で呼ぶ習慣は無いのだ。

 しかし挨拶をされたからには返礼をしなくてはならない。

 

「分かりました、沢木先輩」

 

 

 手首を細かく捻って、握られた手を解く。達也の見せた体術に、沢木より辰巳の方が驚いた。

 

「大したもんだな司波、沢木の握力は百キロ近いって言うのによ」

 

「魔法師の体力じゃありませんね……」

 

 

 自分の事は棚上げして、達也はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の生徒会室では、深雪があずさに生徒会業務についての説明を受けていた。そして深雪に任されたのは生徒データの整理、学校から生徒会に任されたものだ。

 深雪がコマンド入力で作業を進めていくと、あずさが感嘆の声を上げた。

 

「司波さんってコマンド入力なんですね。しかも凄く速いです!」

 

「兄がコマンド入力なもので。それにお兄様に比べれば私などまだまだです」

 

「そ、そうなんですか……あれ? 会長、また風紀委員会本部に行くんですか?」

 

 

 深雪のブラコン発言に押され気味だったあずさが、ふと視線を逸らすと、真由美がまた風紀委員会本部に繋がる階段に向かってるのを見つけた。

 

「新人風紀委員の様子が気になってね。ほら、摩利は空気を使って媚薬にする魔法が得意だし」

 

 

 真由美の発言に、深雪がピクッと肩を震わせた。兄がそんな魔法に掛かる訳が無いのは分かってるのだが、万が一と言う事もありうるかもしれないのだ。

 

「別に面白い事は何も」

 

「あら、達也君」

 

「お兄様!」

 

 

 心配した矢先に達也が風紀委員会本部から上がってきた。

 

「会長、あまり妹におかしな事を吹き込まないでください」

 

「達也君、お姉さんに対する扱いがぞんざいじゃない?」

 

 

 あまりにも親しげに話す真由美を見て、深雪は気になってた事を聞く事にした。

 

「あの、会長とお兄様は入学式の日が初対面ですよね?」

 

「ふっふっふ……」

 

 

 不吉な笑い声を上げたかと思ったら、真由美は楽しそうに語り始めた。

 

「遠い日に出会いを果たしながらも運命の悪戯に引き裂かれた2人、しかし巡り巡って入学式の日に再会を果たして惹かれ合った!」

 

「ッ!?」

 

「……なんて事があったら面白いのだけれど、間違いなくあの日が初対面よ」

 

 

 深雪の反応に満足したのか、真由美はあっさりと捏造した事をバラす。そして再び悪戯っぽい笑みを浮かべて達也にしがみついた。

 

「ねぇねぇ、達也君は運命を感じちゃった?」

 

 

 真由美の行動に、深雪の機嫌が急降下する。そして深雪の隣に居たあずさは、恐怖のあまり震えており、鈴音も面白く無さそうに成り行きを見守っている。

 

「これが運命なら『Fate』じゃなくて『Doom』ですね、きっと」

 

「そっか……」

 

 

 達也の答えに残念そうに絡み付いていた腕を解いて、俯く真由美。そして……

 

「チッ」

 

 

 生徒会室に響き渡るような音が、真由美の口元から聞こえてきた。この下品とも言える音は、舌打ちだったのだ。

 

「いい加減にしろ」

 

「あうっ!」

 

 

 影から覗いていた摩利が、不意に真由美の頭に拳を置く。拳骨まではいかなくとも、それなりにダメージはあったようだ。

 

「勘弁してやってくれ達也君。真由美は気に入ったヤツにしか本性を見せないからな。それ以外の相手にはネコ被ってるし」

 

「えへへ」

 

「はぁ……」

 

 

 猫かぶりなら身内にも居るなと思いつつ、達也は真由美と摩利を眺めた。今回は摩利が真由美の暴走を止めてくれたが、本来ならこの二人はそろって暴走しそうだなと感じていたのだ。

 

「会長、そろそろお時間です」

 

「そうね、それじゃあ今日はこれで解散! 明日また来て頂戴ね!」

 

「それじゃあアタシは帰るよ。真由美は如何する?」

 

「私はもうちょっと残ってくわ」

 

 

 真由美一人を生徒会室に残し、達也たちはそれぞれの帰路についた。

 暫く一人でのんびりしていた真由美だったが、来客を告げる合図に返事をして、自分も席に着いた。

 

「今年の新入生は如何だ? 七草」

 

「面白い子が居るわ、二人も」

 

「そうか、お前の目的が達成されると良いな」

 

 

 生徒会室にやって来たのは、部活連会頭、十文字克人だった。同じ三年生で、しかも十師族なので、それなりに交友はある二人だが、こうして二人きりで会うのは珍しい事だった。

 

「如何動いてくれるか楽しみね。どうも他人のように感じないのよね……運命を感じてるのは私の方かも」

 

「何の事だ?」

 

「ううん、何でも無いのよ」

 

 

 真由美の不自然な明るさに、疑問を抱いたのだが、不必要に詮索してこないのが、十文字の良い所だった。

 

「そうか」

 

 

 それだけ言って克人は生徒会室から出て行った。程なくして真由美も生徒会室から出て行き、本日の活動が終了したのだ。




辰巳、沢木、十文字が初登場。絡み少ないですが、結構重要キャラなので省くわけにも行かずにダラダラと……

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