劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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個人では難しかった人と、個人でも行ける人を織り交ぜた話です。


新・IFルート 達也争奪編

 偶の休日、達也は深雪と二人で街に来ていた。特に目的があるわけではないが、達也も深雪もこうしてブラブラとする余裕の無い日々を過ごしていたのでゆっくり出来てる証拠だということで気にせずのんびりするつもりだったのだが、この兄妹がそんなのんびりとした一日を過ごせるはずもなかったのだった。

 

「あら、司波君じゃない。珍しいわね、こんなところで」

 

「小野先生? 如何かしたんですか」

 

「あら、私が街にいたらいけない?」

 

「いけないって事はないですけども、珍しいのはお互い様では」

 

 

 第一高校カウンセリング部の小野遥とバッタリ遭遇したのが、この日の災難の始まりだったのかもしれないと、のちに達也と深雪は考えるのだが、今はそんな事を微塵も考えていない。

 

「相変わらず貴方たちは二人一緒なのね」

 

「学校でそれほど一緒にいるつもりは無いのですが、先生は何処で俺たちを見て一緒だと思われてるのですか?」

 

 

 達也は前に遥が自分たちを監視していた事を遠回しに追及したのだが、遥もそれくらいで動揺するようなやわな心の持ち主では無かった。

 

「べつに何処ってわけじゃ……」

 

「あら~司波君じゃない~。それに司波さんと小野先生も~」

 

「安宿先生……このようなところで珍しいですね」

 

 

 遥の背後から声を掛けてきた、第一高校保険医、安宿怜美に遥がひきつった笑みで何とか応える。その一方でだんだん深雪の機嫌は悪くなっていき、達也も頭痛を感じ始めていた。

 

「たまたま街に行こうって思いまして、そしたら司波君たちを見つけたんです」

 

「そうですか。では俺たちはこれで……」

 

 

 これでこの場から逃げだせたのなら、達也の負担も少なかったのだろう。今の状態の深雪なら、それほど機嫌を取り戻すのに苦労はいらなかったのだから。

 だが彼は苦労する星の下に生まれたのか、逃げ出そうとしたタイミングで更に別の女性から声を掛けられた。

 

「達也君、それに深雪さんも」

 

「エレクトロン・ソーサリス……」

 

「小野先生、お知り合いですか?」

 

 

 更に声を掛けてきた藤林響子の顔を見て、遥が苦々しげに彼女の異名を呟いたその呟きに怜美は思い当たる事は無く首を傾げている。

 

「藤林さん、このようなところで何かあったのですか?」

 

「ううん。今日は非番だし、偶にはノンビリ街でもブラブラしようと思ってたんだけどね。何となく見知った背中だなって思ったらやっぱり達也君だったの」

 

「そうですか。しかし、非番とはいえ大丈夫なのですか?」

 

 

 いつ呼び出しがあるか分からない独立魔装大隊に所属してる身として、あまり自宅から離れ過ぎる場所に来るのは好ましく無い。言外に響子に訊ねた達也だが、響子は笑顔で達也の心配を無用なものと答えた。

 

「心配しなくても、呼び出される時は一緒だしね」

 

「司波君、彼女とは如何いったお知り合いなのかしら?」

 

「あら、何で達也君と私の関係を知りたいのでしょうか?」

 

 

 楽しそうに達也と話してる響子が気に入らなかったのか、遥が二人の会話に割って入る。だがその程度で響子の余裕を崩す事は叶わない。

 二人が微妙な争いをしている横で、怜美が動いた。

 

「ねぇ司波君。ちょっと付き合ってくれないかしら」

 

「すみません、安宿先生。お兄様は今私と一緒に行動していますので」

 

 

 達也に分かる範囲で深雪は冷気を漏らしている。これが魔法となり暴走するまでそう時間は掛らないだろうと思いながら、出来れば大人しく治まってくれないかという希望を達也は抱いていた。

 ここで新たな異性が現れなければ、深雪の暴走も起こる事無く済み達也の負担も小さいと言えなくとも軽めで済んだのだろうが、運命とは実に彼に冷たかった。

 

「あら、深雪さんに達也さん。こんなところで珍しいですね」

 

「夕歌さん? 本当に珍しいですね」

 

 

 四葉家の分家にあたる津久葉家の一人娘で、深雪同様四葉家次期当主候補の津久葉夕歌が達也たちの背後から声を掛けてきた。

 

「今日は如何したの? こんな場所で会うなんて今まで無かったのに」

 

「夕歌さんこそ。大学はここら辺では無かったと記憶していますが」

 

「ちょっとね。ボディーガードを巻いてたらこんな場所に来ちゃったの」

 

 

 夕歌の言うボディーガードというのはもちろん「ガーディアン」の事なのだが、事情を知らない他の人の耳を気にしてあえてその表現を使ったのだ。

 

「て事だから、達也さんに代理のボディーガードをお願いしたいのだけど。もちろん深雪さんを守るついででいいのだけど」

 

「はぁ……ま、それくらいなら構いませんが」

 

「ほんと? じゃ、お願いね」

 

 

 達也の返事に夕歌は破顔し、スルリと達也の腕に自分の腕を絡ませた。

 

「「「「あぁ!!」」」」

 

「ん?」

 

 

 夕歌の行動に大声を上げる四人。その声に夕歌は勝ち誇った顔をしていたのだが、達也は四人が大声を上げた理由に心当たりがなく首を捻った。

 

「何かありましたか?」

 

「お兄様、私もよろしいでしょうか?」

 

「何を?」

 

「ですから!」

 

 

 多少強引ながらも、深雪も夕歌が組んでいる反対の腕に自分の腕を絡ませた。エスコートなのかハーレムなのかちょっと分からない光景だが、組まれている達也は至って冷静だった。

 

「二人とも、歩きにくいので少し離れてくれませんかね。別に組むなとは言いませんので」

 

「「はーい」」

 

 

 聞き分けの良い二人だが、達也に見えない角度で残された三人に勝ち誇った笑みを向ける。それで大人しく引き下がればよいものを、負けず嫌いがここには揃っていたのだった。

 

「ねぇ達也君。今度一緒に石川に行く話だけども……」

 

「「はぁ!?」」

 

 

 響子が言っているのは遠征の話なのだが、達也以外にその事が分かるはずもない。だから怜美と遥はとんでもない声を上げたのだ。

 

「お兄様、その話は聞いておりませんが?」

 

「話しただろ? 今度の日曜だ」

 

「……そういえば聞いておりました。すみませんでした、お兄様」

 

「相変わらず貴方たち兄妹は仲良しね。私も達也さんのようなお兄さんがほしいわね」

 

「司波君! 不純異性交遊はカウンセラーとして認められません! 今度ゆっくりと指導する必要がありそうですので、後日時間を取らせてもらいます!」

 

「あらあら、そういうのは保険医の仕事ですので、小野先生ではなく私が担当します」

 

「……行きましょう」

 

 

 言い争う大人を無視し、達也は深雪と夕歌を引き連れてこの場から逃げ出すのだった。




夕歌さんは原作16巻で登場するキャラなので、知らない人もいたかと……遥を希望してくださった方もおりましたが、如何してもふざける展開しか想像できなかったので今回は噛ませだけで……次回までには必ず話を作りたいと思います。

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