劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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前回が260話だったんですね……気がつかなかった


新・IFルート 三高女子編

 論文コンペは結局あの時点までの発表で順位をつける事になり、発表前だった三高は評価の対象とされなかった。その事に不服申し立てしたのは、三高論文コンペ代表吉祥寺真紅郎だ。

 彼ももちろん論文コンペをやり直せるとは思っていない。だが戦わずして負けるのが納得出来なかったのだ。

 

「吉祥寺も何を考えてるんでしょうね」

 

「再戦の機会があっても、達也さんに勝てるわけ無いのに」

 

「でもまぁ、発表さえしてれば二位くらいにはなれてたのにね」

 

「仕方ないですよ。あの事件では発表も出来ませんし」

 

 

 横浜事変が起こったのは三高が発表の為に準備をしていた、丁度そのタイミングだ。三高の応援としてその現場に居合わせた愛梨たちだが、目的は真紅郎の応援ではなく達也に会いに行く為だ。

 ただでさえ簡単には会えない相手。しかもライバルが多いので会うチャンスがあるのなら、愛梨たちはどんな手を使ってでも会いたいと思っているのだ。

 

「そういえば、今度の週末にまだ発表してなかった学校のプレゼンをやるって聞いたんですが、如何やらそこに達也さんも来るそうですよ?」

 

「では私たちも行きましょう!」

 

「即決……でも、賛成」

 

「達也さんに会えるなら、予定は全てキャンセルだね」

 

 

 恋する乙女の力に、それぞれの家の使用人たちは泣かされるのだが、中にはお嬢様が生き生きとしているのを感動したように眺めている老執事なども見受けられる。

 それでも、お見合いを蹴っ飛ばして顔に泥を塗られた一色家当主は、愛梨の自由過ぎる行動にイライラしているのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレゼンと言っても、本番同様に時間が与えられる訳ではなく簡潔に、より手短に説明して終わるようなものだ。それでも、選考してもらえるだけありがたいと思わなければならないのだろう。

 吉祥寺真紅郎を含めた三高代表は、各校の選考委員と代表の前でより簡潔に、より手短にしたプレゼンを披露し舞台から降りる。納得はしていないのだが、これで戦わずして負けると言う事では無くなった。

 

「お疲れ、吉祥寺」

 

「一色、それに十七夜に四十九院に九十九崎まで……なんでここにいるの?」

 

「我が校の代表がプレゼンすると聞いて、わざわざ足を運んだのです」

 

「そっか。ありがとう」

 

 

 もちろん本音は違う。だが愛梨たちは普段から本音と建前を上手く使い分けなければいけない生活をしているので、真紅郎のような『精神』は普通の高校生の相手には見抜かれる事は無いのだ。

 

「……司波達也」

 

「お見事だったな、吉祥寺真紅郎。本番時に強気な発言をしていた理由が分かった」

 

「だけど、僕たちは本来の時間、本来の規模でプレゼンする事が出来なかった。今年は負けを認めるけど来年は容赦しないからね」

 

「俺は来年の代表になるか如何か分からないのだが」

 

「えっ……」

 

「何ですって!?」

 

 

 真紅郎が何か言いかけたが、愛梨の悲鳴にも似た言葉に遮られた。

 

「達也様は来年も代表になられるのでは無いのですか!?」

 

「もともと代理だからな。選考の為の論文も提出してなければ、代理に選ばれたのもメインの先輩の一存だから俺の意思では無い」

 

「そういえば、初め入手した一高代表メンバーの情報は、市原鈴音、五十里啓、平河小春の三名でしたね」

 

「さすが香連だな。情報収集はぬかりなくしていたのか」

 

 

 達也に褒められ、香連は嬉しそうな表情を浮かべる。それと対照的な表情を愛梨たちが浮かべているのを見て、達也は首を傾げた。

 

「如何かしたのか?」

 

「いえ、来年は達也様にお会いできないのかと思うと……」

 

「随分と気の早い事を……」

 

 

 そもそも達也は二科生であり、本来ならこのような大会に出場する事は無いのだ。だが例外に例外が重なり九校戦も論文コンペも表舞台で活躍しなければならなくなってしまったのだ。

 そのせいで自分が――『司波達也』という存在が世間的に有名になってしまっているのを、達也は好ましく思っていない。

 

「達也さん、この後時間ある?」

 

「ん? まぁ特に予定は無いが」

 

「そういえば、今日は司波深雪と一緒じゃないんですね」

 

「あのな、栞……俺と深雪は別に常に一緒という訳では無いんだが」

 

 

 同校の先輩たちにも誤解されている事だったので、他校である栞が勘違いしていても仕方は無いのかもしれない。だが達也はその勘違いを正さなければ気が済まないようであった。

 

「では、この後私たち四人にお付き合いいただけますか?」

 

「……吉祥寺では駄目なのか?」

 

「「「「駄目(です)!」」」」

 

「……何とも思ってないけど、そこまでハッキリ否定する事も無いだろと思うんだけど」

 

 

 四人に即時否定された真紅郎は、少し肩を落としてこの場から去っていった。

 

「エスコートは達也様にお願いしたいのです」

 

「そうそう。吉祥寺じゃ役不足だよ」

 

「役不足という言葉は褒め言葉だ。おそらく役者不足か力不足の事だろ」

 

「沓子、言葉遣いがいい加減だもんね」

 

 

 間違いを指摘された沓子は、少し恥ずかしそうに舌を出した。

 

「では達也様、我々四人とお付き合いください」

 

「あぁ……? なんだか今、ニュアンスがおかしかった様な」

 

「気のせいですわ。別に深い意味などございませんので」

 

 

 先ほどから達也に向けられている視線が増えているのだ。半分は嫉妬、もう半分はだいぶ色っぽい視線だ。それは愛梨たちにも同様な事が言える。達也の傍にいれる事への嫉妬、愛梨たちに見惚れている視線だ。

 それが嫌で愛梨は敢えて『付き合う』という言葉にアクセントを置いたのだ。達也が気にかかったのはそのせいだ。

 嫉妬と憧れの視線から逃れ、四人は一斉に達也にくっつく。視線地獄から抜け出し、今度は周りに自分たちはこの男性と懇意なのだと知らしめる為の行動だったのだが、当の本人である達也には、何故くっつかれたのかその理由に心当たりがなく少し困った表情を浮かべるのだった。




最近しっくりくる終わらせ方が出来てないような気がする……

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