劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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次回でIFは終了の予定です。リクエストをもらってまだ出来てないものは、次回のIFで何とかしたいと思っています。


新・IFルート 響子編

 司波家には珍しく来客があった。来客そのものが珍しいのであって、訪ねてきた人が珍しい訳ではない。そして、その訪ねてきた人は、司波家を訪れる人の中でも珍しくは無い部類の人だった。

 

「すみません、兄は今出かけていまして」

 

「大丈夫ですよ、深雪さん。今日は達也君に会うまで仕事が入らないようになっていますので」

 

「それは、兄に会う事が仕事だと言う事でしょうか?」

 

「そう捉えてもらって構わないわ」

 

「でしたら、事前にアポを取るなりするべきでは無かったのでしょうか?」

 

「この仕事が入ったのがついさっきなのよ。だからアポを取る暇もなくここに来たってわけ」

 

 

 何となく険悪な雰囲気な深雪に対し、来客者――藤林響子は普段通りの雰囲気、何処か人を喰ったような感じだと深雪には感じられていた。

 

「そういえば、達也君は何処に行ったの? 深雪さんを置いて出かけるなんて珍しい気もするけど」

 

「兄が一人で出かけるのはそう珍しい事ではありません。それは藤林さんの方が詳しくご存知なのではないでしょうか?」

 

 

 独立魔装大隊の訓練や任務の時には、当然達也は一人で出かけている。だからこその皮肉なのだが、この程度の皮肉で表情を歪めるような響子では無かった。

 

「だから珍しいって言ったんですよ。今日は訓練でも任務でも無いのに深雪さんを置いていってるから」

 

「……そうですね」

 

 

 深雪と響子では人生経験の差が大きい。十も離れていれば当然と言えば当然なのだが、深雪もだが響子も普通の魔法師の家系では経験出来ないような事を経験しているので、同年代と比べても彼女の人生経験は豊富だと言えるだろう。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませ、お兄様」

 

「お帰りなさい、達也君」

 

「藤林さん? 何かありましたか?」

 

 

 気配で響子がいる事には気づいていたのだが、ここは一応驚いた風を装う達也。もちろん演技だと言う事は響子も分かっているので達也を白々しいという目で見ていたのだが。

 

「帰ってきたところ悪いんだけど、ちょっと付き合ってもらえるかしら?」

 

「それは別に構いませんが……では何故家に? 外で待ち合わせる事も出来たでしょうに」

 

 

 達也の当然の疑問に、響子は一瞬「しまった」という表情を見せたのだが、幸いにして達也にしか気づかれなかった。

 

「まぁ良いですけど。深雪、そういう訳だからまた出かけてくる。戸締りはしっかりしておくんだぞ」

 

「お兄様は心配し過ぎですよ。深雪だって何時までも子供じゃないんですからね」

 

「分かってるさ。だけど念のためにね」

 

 

 甘えるようにすり寄ってくる深雪の髪を撫で、とても妹に向けるような笑みでは無いものを見せてから響子に向き直った。

 

「では、行きましょうか」

 

「え、えぇ……」

 

 

 あまりにもスムーズな切り替えに面食らいながらも、響子は何とか達也についていく。付き合いが長い部類に入る響子でも、達也のこの変化には一瞬だけテンポをずらされてしまうのだ。

 

「それで、何処に行けばいいんですか?」

 

「何処かテキトーな場所で構わないわよ。聞かれてもそれが何の話だか分からないでしょうし」

 

 

 つまりは専門的な話なのかと理解した達也は、手近な店に入る事にした。

 

「それで、要件は何でしょうか」

 

 

 店員にコーヒーを注文してから、達也は間をおかずに問い掛ける。長い時間深雪を一人にすると、あとでその反動から甘えまくってくるので、出来るだけ早く家に帰りたいというのが達也の本音だ。

 

「まずは報告からね。例の件で大亜連合から抗議はありません」

 

「でしょうね。表向きでは大亜連合は関係ないって事になってるんですから」

 

 

 艦隊を沈めたり、半島の形を変えておいて、達也はそんな風にあっさりと言い放つ。その反応に響子は苦笑いを浮かべながら、運ばれてきた紅茶を一口啜った。

 

「それから、今回の件で君本来の魔法が学友に知られてしまったでしょ? もし望むのなら精神干渉魔法でその記憶を消す事も出来るけど……」

 

「別に構いませんよ。そもそもその記憶だけ抜いても、平河、桐原、五十里の三名の負傷の記憶は消えないんですから。そうなると、何で自分たちは無事だったんだという考えになってしまいます」

 

「そうね……施術された三名はそう考えるでしょう。いえ、三名だけじゃないわね。その近しい人たちも大きな疑問を抱えたままになる。そして、その疑問を解決するには色々と調べたくなってしまうでしょうね」

 

「そういう事です。それに、化成体を消し去るところも見られてますし、話してないとはいえ俺が普通ではないと知られているんですし」

 

「そっか……今回はホントにごめんなさい。私たちも油断してた訳じゃないんだけど、呂剛虎に逃げられたり色々と迷惑をかけちゃって」

 

 

 本気で申し訳なさそうな響子に、達也は苦笑いを浮かべながらその謝罪を受け入れた。これ以上響子にそのような表情をさせていると、周りから白い目で見られそうだと判断したからだ。

 

「そのうち叔母上から少佐に連絡がいくでしょう。それでこの件は終わりですので」

 

「それじゃ私の気が済まないわよ。達也君に散々助けてもらってるのに、私は何も出来ないなんて……」

 

「別に気にしなくて良いですよ。大した事はしてませんし」

 

「そんな事無いわよ。今回だって、達也君が助けてくれなければ大勢の人が……」

 

「止めましょう。それはここで話せる内容ではありません」

 

 

 さすがに人の死となると、一般のお店では話せない。達也は響子の話を遮り立ちあがった。

 

「話は終わりですよね? では俺はこれで……」

 

「最後にもう一つ」

 

「何でしょうか?」

 

「風間さんより、私のCADのメンテナンスを達也君に頼むよう言付けられています」

 

「何故です? 真田さんの担当だったはずですが」

 

 

 上官二人が響子の想いを後押しするなんて達也には思いつかなかったのだが、これはその二人の響子への後押しと真田のちょっとした達也への悪戯だ。

 CADのメンテナンスは使用者の測定結果をどれだけ反映出来るかが問われる仕事だ。真田が測定したデータと、達也が測定するデータでは若干の違いがある。それは測定方法の違いでもあるのだが。

 

「この後、地下室に行っても良いかしら?」

 

「……どうぞ」

 

 

 深雪に如何説明したものかと頭を抱えながらも、達也は響子を地下室へ招き入れる事にしたのだった。




上官二名が響子の恋を後押し……実際にはあり得ないだろうな……

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