劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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大人も瞬殺の実力……これがガーディアンの実力なのだろうか……


組み手での実力

 訓練を見学していても退屈で、私は壁際で欠伸をしていた。はしたないとは思うけども、男性ばかりで同性の方のお話を聞ける訳でもないし、大尉さんと中尉さんの興味は兄にしかない。軍人さんたちは組み手を始めたけども、兄の武術が見れるわけでもないですし……

 

「どうかね。司波君も参加してみないか?」

 

「……そうですね。よろしければ」

 

 

 今、一瞬だけ兄がこっちを見て笑った……様に思えた。もしかして私が退屈しているのに気づいたのかしら。

 

「(何でそんな事だけ気がつくのよ! に、兄さんなんてコテンパンにやられちゃえば良いんだわ!)」

 

 

 心の中でそう悪態を吐いたが、やはり「兄さん」という単語で詰まってしまう。まるで、他にふさわしい呼び方があるのかのように……

 

「では、司波君の実力を見させてもらおうか。渡久地軍曹!」

 

 

 大尉さんに呼ばれて、なんだか強そうな人が駆け出てきた。

 

「遠慮するなよ、司波君。渡久地軍曹は学生時代にボクシングで国体にでた実力者だ」

 

 

 私の感じたのはそれが理由なのかしら……しかし、いくら兄の実力をみたいからといって、いきなり全国レベルの人をぶつけてくるかしら……

 私のそんな不満は、開始の合図とともに何処かに霧散してしまった。中尉さんが「開始」といった直後、兄の身体が渡久地さんに近づいた……と思ったら、次の瞬間には渡久地さんは床に蹲っていた。

 

「渡久地!」

 

 

 仲間の方たちが渡久地さんに駆け寄り心配そうに彼の顔を覗き込んでいる。その間、兄は無表情に渡久地さんを見下ろしていた。

 

「これは……南風原伍長!」

 

「はっ!」

 

「遠慮するな、全力で行け」

 

 

 渡久地さんの結果を見たからなのか、風間大尉さんは新たに兄に差し向けた軍人さんに本気で戦えと言いました。確かに兄の動きは、素人目でも凄いと感じましたが、軍人として毎日訓練している人と、片手間で訓練している中学生ではまともな戦いにならない……そんな考えも、兄の動きを見るにつれて頭から抜け落ちていく。

 南風原さんの攻撃を、兄は危なげなく躱している。その動きは風間大尉さんや真田中尉さんも驚くくらいのものらしい。

 

「彼は実に実戦向きな動きをしてますね」

 

「あぁ。相手が暗器を隠し持っている事を想定した躱し方だ。見栄えよくギリギリで躱すのではなく、十分余裕を以て躱している」

 

 

 二人の話しを聞きながら、私は視線を兄へと戻した。その直後、兄の身体が南風原さんの腕を躱したと思ったら、その次の瞬間には南風原さんの鳩尾に兄の肘がめり込んでいた。

 

「そこまで!」

 

「南風原までやられた!?」

 

「なんだあの子供は……」

 

「やれやれ……南風原伍長までやられるとは……彼はこの恩納空軍基地でも指折りの実力者なのだが……」

 

 

 困ったように、でも何処か楽しそうな感じで風間大尉が呟いた。その言葉に私は驚いたけども、兄は相変わらずの無関心だった。

 

「このままでは恩納空軍基地の面目丸潰れだな……司波君、もう一戦お願いできますか?」

 

「自分にやらせてください!」

 

「桧垣上等兵! 報復のつもりなら認める事は出来ませんよ」

 

「報復ではありません! 雪辱です」

 

 

 その二つの違いはいったいなんなのだろう……それに、既に二人を相手にしている兄に対し、桧垣さんはこれが初戦、如何考えても兄が不利だろう……でも、もう一度兄の戦う姿が見たい。兄の格好良い姿を……

 

「さて、彼はああ言っているが?」

 

「……分かりました。受けます」

 

 

 またしても兄が私の方をチラッと見た。やっぱりこの人は私が何を考えているのかが分かってるのかもしれないわね……

 

「では、開始位置についてもらおう」

 

 

 大尉さんがそういうと、その横で中尉さんが面白そうだと思っている事を隠し切れていない表情で呟いた。

 

「体術のみで二人を倒した司波君と、本気の桧垣上等兵か……これは面白そうだ」

 

 

 本気の? それは如何いう意味かと問おうとしたら、大尉さんが開始の合図を出した。その直後、桧垣さんの身体が一気に兄との距離を詰め兄に襲いかかる。あの動きは……

 

「卑怯じゃないですか! 魔法を使うなんて……」

 

 

 大尉さんに抗議してこの戦闘を止めてもらおうとしたが、大尉さんは視線を半分こちらに向けただけだった。そしてそんな私を諌めたのは、大尉さんが残りの半分の視線を向けている先からだった。

 

「止せ、深雪!」

 

 

 兄が、私に、命令した。兄が、私を、深雪と、呼び捨てた。その言葉を聞いて、私の体内には電流が走ったような錯覚が起きた。

 

「相手に魔法を使わないという取り決めは存在しない!」

 

 

 不思議な、でも全然嫌な気分にはならなかった。私が良く分からない感覚に襲われている間も、兄は桧垣さんの攻撃をさばいている。

 

「ほぅ……」

 

 

 大尉さんが面白そうに呟いた事で、私の意識は現実へと復帰した。そして、基地内が少し暗くなったような錯覚に陥った。

 兄に向けて自己加速魔法を使い突進する桧垣さんに向けて、兄は腕を伸ばしている。あの構え……あれは兄が得意としている魔法の発動準備だ。

 大量のサイオンの奔流が桧垣さんに襲い掛かった……と思った次の瞬間に、桧垣さんの背中を軽く兄が叩き、その勢いで桧垣さんは一回転をして床に倒れた。

 

「しょ……勝者、司波達也君!」

 

 

 中尉さんの終了の合図で、今の光景を見て固まっていた他の方たちが動きだす。

 

「なんだ今の魔法は……」

 

「何で桧垣は素っ跳んだんだ?」

 

 

 口々に疑問を漏らす他の方をよそに、兄は桧垣さんへと手を伸ばしていた。兄が伸ばした先で、桧垣さんがニヤリと笑った……まさか、罠!?

 私の邪推をよそに、桧垣さんは兄の腕につかまり勢いよく立ちあがった。

 

「参った。一昨日のアレが俺の油断じゃないって分かったぜ。名前を教えてもらえるか?」

 

「司波達也です」

 

「オッケー達也。俺は桧垣ジョゼフ上等兵だ。ジョーで良いぜ。基地を案内してやろう」

 

 

 なかなかフレンドリーな感じだったのだが、桧垣さんの上司である風間大尉が咳払いをした。

 

「桧垣上等兵……今は訓練中だ」

 

「ハッ! 失礼しました!」

 

 

 風間大尉さんも本気で怒ってた訳でもなさそうで、苦笑いを浮かべている。

 

「さて、司波君。少し向こうで話しでもしないか?」

 

「構いません」

 

「そうか。では妹さんもご一緒に」

 

 

 真田中尉さんに促され、私も兄と一緒に部屋を移動する。なんだろうこの感覚……今まで感じた事のない感覚が私を支配していたのだった。




ここら辺が折り返しなのか? あと半分くらいですかね?

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