昼に生徒会室で食事をして、放課後に風紀委員本部に来るように言われた達也は、終業のチャイムと同時に席を立った。座学の授業など、達也にはあって無い様な物なのだ。
「おっ達也、早速風紀委員か?」
達也が立ち上がったのを見て、レオが面白がってるのを隠しきれてない顔で達也に尋ねた。二科の自分が風紀委員の知り合いが出来るなど思っていなかったので、達也が風紀委員に任命された時、レオは達也に風紀委員になるように勧めたのだ。
「今日からクラブ活動勧誘期間だからな」
「それと風紀委員になんの関係があるんだ?」
「新入生の取り合いで毎年トラブルが絶えないらしい」
達也は昼休みに聞いた事をそのままレオに話した。勧誘期間中はCADの携行許可が出されるようなのだ。
「大変だな。それじゃあ達也、頑張ってくれよな! ちなみに俺は山岳部に行くぜ」
友人の似合いすぎる選択に、達也は軽く笑みを浮かべてレオと別れた。そして今度はエリカが話しかけてきた。教室を出てすぐだったので、恐らくは狙ってたのだろう。
「達也君」
「エリカ? 一人とは珍しいな。何か用か?」
「達也君、クラブ決めた?」
「いや」
達也としてはクラブ活動をする時間があるのなら、魔法科高校で閲覧出来る文献を読みたいので元々クラブ活動をするつもりは無いのだ。
だが、達也の返事にエリカは顔をほころばせた。
「それじゃあさ、一緒にクラブ見に行かない? 美月、もう決めてるんだって」
「美月もか。レオも決まってるって言ってたな」
「山岳部でしょ? アイツには似合いすぎてるわよ」
エリカのセリフに、達也は苦笑いを浮かべたくなった。ついさっき自分も同じ事を思ってたからだ。
「美月はどのクラブにしたんだ?」
「美術部、似合ってるわよね」
「そうだな」
美月ならきっと繊細な絵を描くだろうと達也は勝手に納得しかけたが、知り合って数日で相手の何が分かるんだと苦笑いを浮かべたのだった。
「それでエリカ、悪いんだがこの後風紀委員で見回りをしなくてはいけないんだ」
「えー! そっか……別に興味があったわけじゃ無いし、私は帰るね……」
さっきまで浮かれていたように見えたエリカが、思いっきりへこんだ……と達也には思えたのだった。
「エリカ」
「何?」
「どちらにしろ各部を見て回るには変わらないのだし、委員会の仕事をしながらで良いなら付き合うぞ?」
「本当!」
「あ、あぁ……」
急に明るくなったエリカに、思わず達也はたじろいだ。感情の高低が激しいのだと、達也の中でエリカはそう位置付けられた。
「あっいや、まあ達也君も入りたいクラブが見つけられるかもだしね」
「一度風紀委員のミーティングがあるから、その後で合流な」
「えー、しょうがないなー」
口では文句を言ってる風に装ってるが、顔が完全に緩んでいる。嬉しいのを全然隠せてないエリカを、達也は微笑ましいと思っていたのだった。
「それじゃあ三十分後に教室の前で待ち合わせねー!」
すぐにでもスキップしそうな勢いで、エリカは達也の前から去っていった。達也も苦笑いを浮かべながら風紀委員会本部へと移動する事にしたのだった。
達也がエリカと約束をしたのとほぼ同時刻、深雪はほのかと雫と一緒に廊下に居た。窓から見える勧誘の凄さに、三人とも驚いていたのだった。
「噂には聞いてたけど、うちの学校の勧誘合戦ってホント凄いねー」
「あれじゃあ普通に帰りたい人も簡単には帰れないだろうね」
「ねぇー。そう言えば司波さんはクラブには入らず生徒会だけ?」
「ええ、ちょっと他に手を回す余裕が無さそうなので」
「そっか……」
「大変なんだね」
深雪の答えに、ほのかは少し落胆し、雫は同情の言葉をかけてくれた。
「それで、えっと……達也さんは何かクラブ活動をするのかな?」
「お兄様?」
頬を染めながら達也の事を聞いてくるほのかに、深雪は少しだけキツイ視線を向けたのだが、ほのかが気付く前に元の視線に戻した。雫もその視線に気付かなかった。
「達也さんなら非魔法系クラブで優秀な成績を修められるだろうし、魔法系クラブでも十分活躍出来ると思うから」
「それに、達也さんなら一科生に混じっても潰されないだろうし」
ほのかと雫が達也の事を評価してくれたのを、深雪は自分が褒められた時以上に喜んだ。多少恋愛感情が含まれてるとは言え、他の誰かが達也の事を認めてくれるのは深雪にとって何よりも嬉しい事なのだ。
「お兄様なら、風紀委員活動で今日から忙しいのよ。多分クラブにも所属しないでしょうね」
「そう…なんだ……」
「ちょっと残念」
恐らくほのかと雫は、達也と同じクラブ活動をしたかったのだろう。男女別で活動しないクラブも少なく無いので、淡い期待を抱いていた二人は、明らかに落胆していた。
「お兄様も色々とお忙しいのよ。風紀委員会が無くともクラブ活動はしなかったでしょうね」
「そっか……達也さんは忙しいんだね」
「でも、達也さんなら忙しいのも納得かも」
深雪はこの二人は、完全に達也に気があると確信した。達也が認められるのは嬉しいが、達也が誰かに取られるのは避けたいのだ。
恋愛感情はある、だけれども自分の事は妹としか見てくれない。その事を寂しいとは思ったこと無かったのだが、今は少し寂しさを感じていた深雪だった。
風紀委員会本部で時間までの暇つぶしとして、お気に入りの書籍サイトにアクセスしていた達也に、横から大声をかけてくる人が居た。
「何故お前が此処に居る!! 司波達也!」
「入ってくるなり大声を出すとはな、随分と非常識だな、森崎」
「なんだと!」
「興奮してないで座ったらどうだ」
「非常識なのはお前だ! いいかよく聞け! 僕は今日から教職員推薦で風紀いい……」
「やかましいぞ新入り!」
いつの間にか森崎の背後に立っていた摩利が、昨日辰巳にしたように冊子を筒状にして頭を叩いた。生徒会室から階段を下りてきたんだろうが、森崎にそんな事が分かるはずも無かった。
「此処に居るのは風紀委員だけだ。それくらい分かりそうなものだが……まぁ良い。さて諸君、今年もあの馬鹿騒ぎの季節がやって来た」
摩利が今日集められた理由の説明と、騒がしくなる原因を話している間も、森崎は視線の半分を達也に向けていた。もちろん好意的な視線ではなく敵視しているような感じなのだが。
「幸いにして今年は補充が間に合った。教職員推薦枠の1-A森崎駿と生徒会推薦枠の1-E司波達也だ」
摩利に紹介され、達也と森崎は同時に立ち上がった。森崎は緊張でガチガチだったが、達也はまったくそれを感じさせない何時も通りの動きだった。
意外な事に達也に向けられる視線の半分以上は好意的なものだったのだが、全員では無いのは摩利が言ってた通りなのだろう。
「役に立つんですか?」
このセリフは一応は二人に向けたものだが、発言者の視線は達也に……いや、達也の肩に向けられている。エンブレムの無い制服、二科生が役に立つのかと言っているのだ。
「司波の腕前は私が確認済みだ。森崎のも見たが、それなりに活躍はしてくれるだろう。それでも心配ならお前が森崎に付け」
「え、遠慮させてもらいます」
摩利の威圧感に負け、その風紀委員は大人しくなった。意外と独裁なんだなと達也は内心で思ったのだが、そんな事を顔に出すヘマはしなかった。
「質問が無いなら出動! 司波と森崎は残るように」
「「「「了解!」」」」
摩利の合図でゾロゾロと本部から見回りに出かけるメンバー、途中辰巳と沢木が達也に話しかけてきたのを、森崎はつまらなそうに見ていたのだった。
次回、剣道部と剣術部のイザコザまでは行きたいな……