劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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別の場所でもお兄様は大活躍……なのか?


相談と密会

 午前の授業を終えて、リーナは深雪と一緒に学食へと向かった。もちろん、その中にはほのかも一緒だ。

 

「お待たせしました、お兄様」

 

「いや、別に待ってないよ。先に取っておいで」

 

 

 教員のつかない二科生である達也たちは、授業が伸びるという事が無いのだ。その点は二科生の方が良かったなと深雪は思っている。

 

「それにしても、未だに教師を交えたディスカッション授業が残っているんですね」

 

「アメリカには無いんだっけ?」

 

「ええ。大分前に無くなったと聞いています」

 

 

 深雪、リーナの双璧が動けば、周りは道を開ける。その後ろを申し訳なさそうにほのかがついていくのだが、本人が気づいて無いだけで、ほのかもそれなりに人気が高いのだ。

 

「そういえばリーナ、今朝お兄様にした相談っていうのはなんなのかしら?」

 

「大した事じゃないわよ。この間、風紀委員の見回りの時に聞きそびれた事を聞いただけよ」

 

 

 リーナの言っている事は嘘なのだが、深雪にはそれを確かめる術が無い。達也相手ならば兎も角、リーナも一介の高校生に覚られるようなヘマは何度も犯さないのだ。

 

「タツヤは相談しやすい相手だからね。これからも何度か相談するかもしれないけど、嫉妬しないでね」

 

「別に嫉妬なんてしてないわ」

 

 

 既に深雪の扱いには慣れたもので、こうした冗談も言い合えるのだ。

 

「早く戻りましょう。達也さんたちが待ってますよ」

 

「そうね」

 

「ホノカはタツヤの事が気になってるんですね」

 

 

 こうしたところは、良くも悪くも年相応だった。

 

「そういえば、例の吸血鬼事件、アメリカでも騒ぎになってるらしいですよ」

 

「そうなの?」

 

「ええ。雫から連絡が来たんですけど、西海岸じゃなくて、中南部のダラスを中心に起こってるらしいんですよ」

 

「そうらしいな」

 

「タツヤ、知ってたの?」

 

「一応はな。だが向こうでも報道規制が掛ってるらしく、詳しい事は日本からでは調べようがない」

 

「雫も同じような事を言ってました」

 

 

 深雪は達也の隣、ほのかは達也の正面に当たり前のように座り、その光景を見て苦笑いを浮かべながら、深雪の隣にリーナが座る。

 

「日本でも騒ぎになってるのに、同じような事件がアメリカでも起こってるんだね。達也君はどう思うの?」

 

「如何と言われてもな……情報が少ないから何とも言えないが、おそらくは同一の犯人、もしくは、同じ能力を持った複数の人間……と考えるのが自然だろう」

 

「でも、アメリカと日本で起こった事件、同一犯だとは思えないわよね」

 

「だから何とも言えないと言ったんだ」

 

 

 達也の推測に疑問点を指摘したエリカに、達也は肩を竦めて苦笑いを浮かべた。

 

「そう言えばリーナ、午後は人と会うんじゃ無かったのか?」

 

「まだ大丈夫ですので」

 

 

 朝聞いたリーナの予定を思い出し、達也が訊ねる。そのやり取りに数人の美少女がつまらなそうな表情を浮かべたのだが、同席している二人の少年と一人の美少女は気がつかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業が始まっている中で、既に自由登校になっている三年の男女がとある部室で密会していた。だがその空間に甘い感じは無く「逢引」ではなく完全に「密会」だった。

 

「ごめんなさいね、十文字君。こんな場所で」

 

「いや、他人の耳を気にする必要が無いからな。この場所の方が都合が良いんだろ」

 

 

 元生徒会長の七草真由美と、元部活連会頭の十文字克人、この二人がどこか別の場所で会っていたのなら、授業中である事を差し引いても目立ってしまっただろう。

 

「今四葉家を刺激するのは拙いからな」

 

「ウチの狸オヤジの所為でね。さて、十文字君。父からの――七草家当主、七草弘一からのメッセージを伝えます。七草家は十文字家に『共闘』を望みます」

 

「穏やかじゃないな。『協調』ではなく『共闘』とは」

 

「吸血鬼事件の事はどの程度知ってる?」

 

「ニュースで報道されてる程度しか。当家は七草家ほど手駒が多くない」

 

 

 克人の謙遜ともとれるセリフに、真由美の口元が少し緩んだ。

 

「十文字家は一騎当千がモットーだもんね。それじゃあ、数がうりの七草が調べた限りの情報を伝えるわね」

 

 

 真由美から情報を聞き、克人は難しい表情になっていく。その表情は、普通の女子高生には少し怖いものだったので――

 

「十文字君、ちょっと怖いわよ?」

 

 

――真由美は冗談とも本気ともとれる口調でそう言った。

 

「むっ、スマン……」

 

 

 どれだけ老けて見えようと、克人も高校生だ。面と向かって怖いと言われて気にしない訳が無い。

 

「(ここが、十文字君と達也君の違いよね)」

 

 

 達也ならサラッと流すだろうと考えている真由美は、克人に見えない角度で笑みを浮かべたのだった。

 

「話しを聞く限り、四葉家にも協調を求めた方が良いんじゃないか?」

 

「そうなんだけど。ウチと四葉家は今冷戦状態だからね」

 

「弘一殿と真夜殿との確執は昔からだからな……仕方ない。だが、何でここ迄関係が悪化してるんだ?」

 

「私も詳しい事は知らないんだけど、四葉家お抱えの部隊のデータにウチの狸オヤジが不正アクセスを仕掛けたらしいのよ。それがバレてこんな状態に……それで、もう一度お訊ねします。七草家と共闘していただけますか?」

 

「引き受けよう」

 

「……随分あっさりね」

 

「話しを聞く限り、ノンビリとしていられる状況でも無いだろうからな。師族会議の通達は十文字家から他の家に出そう」

 

「お願いね」

 

 

 シリアスな話しあいが終わり、今更ながら克人は真由美に問うた。

 

「密室に男女二人でも、意識もされないなどとは……お前と話してると男として意識されてないんじゃないかって思うぞ」

 

「それは誤解よ、ゴ・カ・イ。十文字君は私の中でもトップクラスに男性らしいわよ。でもねぇ……」

 

「入学以来のライバル関係だもんな。今更男女の仲にはなれんか」

 

 

 二人顔を合わせ笑った後、克人は腕組をして考え込んだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや、以前司波に『十師族になれ』といった時に『七草の妹』を勧めたのだが……お前でも問題は無かったな」

 

「なっ……何言い出すのよ、十文字君!」

 

「嫌か?」

 

 

 克人の天然が故の攻撃に、真由美はただただ頬を赤く染めるだけだった……




天然・克人君の攻撃、真由美にクリティカルヒット! なんちゃって……

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