劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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再び機密情報なのに……


相談する相手

 午後の授業を早退して、リーナはアメリカ大使館に来ていた。

 

「つまりフレディ……いえ、フォーマルハウト中尉の大脳皮質には、普通の人間に決して見られないニューロン構造が形成されていたと言う事ですか?」

 

「普通の人間、と言うと誤解を招くかもしれません」

 

 

 自分が殺した相手の解剖結果を聞く為に訪れた大使館で、リーナはドクターから説明を受けていた。

 

「じゃあ、フォーマルハウト中尉は誰かに操られていた可能性もある、という事でしょうか?」

 

「それは分かりません。何故あのようなものが形成されていたのか、現段階では説明出来ませんからな」

 

「そうですか……」

 

 

 もしかしたら殺す必要は無かったのかもしれない。そのような考えがリーナの頭の中を占領しかかって、慌てて頭の中からその考えを追い出す。

 

「また詳しい事が分かり次第報告します」

 

「分かりました。お願いします、ドクター」

 

 

 一通りの説明を聞き、リーナは大使館を後にする。今からなら放課後の見回りにつきそう事は可能だと考え、リーナは部屋ではなく学校への道のりを急いだ。

 

「(タツヤなら、何か分かるかもしれない)」

 

 

 同級生の、それも二科生である達也に医学的知識を期待するのもおかしいが、リーナの中で達也は、何でも知ってる男の子という位置づけになっているのだ。

 何故そのような位置づけなのかというと、そこに落ち着かせてないと、自分の気持ちを誤魔化し続けるのが厳しくなると理解しているからだ。

 

「おや、君は交換留学生じゃないか」

 

「えっと確か……カノンの前の風紀委員長?」

 

「そうだ。あたしは渡辺摩利という」

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズです。リーナとお呼びください」

 

「分かった」

 

 

 自己紹介を済ませて、リーナは何故摩利がここにいるのかを訪ねた。

 

「マリは風紀委員では無いんじゃないんですか? 何故この部屋にいるのです?」

 

「それは君も同じだろ。あたしは後輩の仕事ぶりを見に来ただけだよ」

 

 

 摩利に同じだと言われ、リーナは一瞬彼女も達也に用があるのではないかと疑ったが、その考えは間違いだとすぐに摩利が正してくれた。

 

「ワタシはタツヤに用事がありまして。教室に行くよりコッチで待ってた方が確実だと思いまして」

 

「達也君に? ……なるほど、相変わらずだな」

 

 

 摩利が何を納得したのかは、リーナには理解出来なかった。ただ面白そうに笑っている事だけは、リーナにも理解出来たのだった。

 

「渡辺先輩、それにリーナも……何してるんです?」

 

「あたしは花音の仕事ぶりを見に。彼女は達也君に用があるようだぞ」

 

「俺に?」

 

 

 達也の視線を受け、リーナは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「もしかして、あたしはお邪魔かな?」

 

「そうですね。仕事もしないで唯いるだけなら邪魔でしかないでしょうし」

 

「……相変わらず容赦が無いね、君は」

 

 

 からかおうとした摩利の言葉を受け、達也は別の意味にして切り返す。一瞬二ヤリと口角を上げた摩利も、達也の言葉に笑みの種類を変えざるを得なくなってしまった。

 

「じゃあリーナ、何か相談なら見回りをしながらでも良いか?」

 

「もちろん。ワタシは最初からそのつもりだったし」

 

「そうか。では先輩、自分はこれで失礼します」

 

「ああ。頑張れよ」

 

 

 部屋に残る摩利に一礼をして、達也は風紀委員会本部から出て行く。それに続くように、リーナも一礼をして達也の背中について行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーナの雰囲気から、何か聞き難い事があるのだろうと察した達也は、なるべく他の人の耳を気にしなくて良い場所まで歩き、リーナの方に振り向いた。

 

「さて、何を聞きたいんだ?」

 

「やっぱり分かってたのね。さすがよ、タツヤ」

 

「世辞はいらない」

 

「……割と本心なのだけど。まぁ良いわ」

 

 

 自分の語彙では達也を言いくるめる――言葉で勝つ事は不可能だと理解したリーナは、先ほど聞かされた事を話せない部分をぼかしつつ達也に話した。

 

「……それはアメリカでの出来事か?」

 

「そうよ。気になって調べてみたのだけど、ワタシではさっぱりだったの」

 

「大脳皮質に謎のニューロン構造か……」

 

 

 リーナの話を全て信じた訳ではなさそうだったが、達也はリーナが話した内容で気になる単語があったので考え込んだのだった。

 

「それが誰で、何をした人なのかはあえて聞かないが、その人は何か別の存在に支配され操られていた可能性があるな」

 

「何故そう言いきれるの?」

 

 

 根拠がほしい、リーナは心からそう思った。自分が殺した相手への罪悪感、生前残した彼の戦歴が汚れる事無く残せるという、僅かな期待から、リーナは達也の言葉の続きを待った。

 

「まず先に言っておくが、あくまでも可能性の話だ。断定は出来ない」

 

「分かってるわ。アメリカのドクターでも解析が進んでないんだから」

 

「………」

 

 

 リーナが零した、割と重大な事に気付いた達也は、どう反応すれば良いのか迷った。このまま訊かなかった事にするか、それとも指摘するか……達也は前者を選んだのだった。

 

「まずそのニューロン構造だが、普通の人間には存在しないのだろ? もちろん、魔法師にも存在しないものだと断定出来るのならだが」

 

「出来るわ。どの医学書にも、そんなものは書かれて無いし、そもそも何のためのものかが説明出来ないもの」

 

「では何故そのようなものが存在したのか。突飛な話だが、何か別の生き物……もしくは存在を確認されていない生物、と言っておくが、そのようなものが、その人間に憑依していた痕跡かもしれない。そのニューロン構造が出来る前と後で行動に変化が出たと言えるのなら可能性は高いと思う」

 

「……確かにおかしな行動が増えていたような気もするわね」

 

「詳しい事は俺には分からない。だがその何らかの物体が憑依していた、その考えは伝えてくれても構わない」

 

「伝える?」

 

「君がさっき言ったドクターにだ」

 

「え?」

 

 

 説明は終わり、だと言わんばかりに見回りを再開した達也においていかれる形になったリーナは、自分がとんでもないヘマをしでかしたんだと漸く理解した。

 

「やっぱりタツヤには敵わないわね……」

 

 

 この場に深雪がいなくて良かった。心からそう思うリーナだったのだった。




抜群の推理力の有する高校生……何処の探偵だ……
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