エリカに引っ張られて最前列まで来た達也は、興味深そうに中心に居る二人を見ているエリカに質問した。
「知ってるのか?」
「直接の面識は無いけどね。女子の方はさっき話したように全国女子剣道大会準優勝の壬生紗耶香で、男子の方は桐原武明、コッチは正真正銘関東大会のチャンピオンよ」
「全国大会には出てないのか?」
「剣術大会で全国戦があるのは高校からなの。だから関東チャンピオンでも十分凄いんだよ」
「なるほど」
そう言えばエリカは入学後の一科生とのイザコザで警棒を出してたなと、達也は思いだした。今の興味の持ち方とあわせて考えると、エリカは剣術の心得があるのかもしれないと思ったのだ。
「桐原君! 如何して大人しくしてられないの!」
「心外だぜ壬生。俺は剣道部のデモを手伝ってやったんだぜ?」
「嘘言わないで! 貴方が先輩に暴力を振るったと風紀委員に知れたら、貴方一人の問題では済まないのよ!」
「暴力? 俺は面の上から竹刀で叩いただけだぜ? それで気を失ったのはソイツが未熟だからだろ」
「如何やら口で言っても分からないようね」
「なら、如何する?」
あからさまに挑発してると、達也は感じていた。桐原と言う男子が暴力を働いたのか、それとも剣道部の人間が弱かっただけなのかは、その現場を見てない達也には判断出来ないし、ここまで盛り上がってるのに水を差すのも無粋だと思って傍観する事にした。
「口で分からないなら剣で分からせてあげるわよ!」
「剣道で剣術に勝てるつもりか? 可哀想だから魔法は使わないでやるよ」
「魔法ありきの剣術で、純粋に剣の道を磨いた私に勝つつもりなの? 自惚れもそこまでいくと滑稽よ」
互いに互いの競技を貶しあってるようにも見えるが、二人はいたって真剣だ。エリカにも達也にもその事は分かっていた。
「始まるな」
「そうね……」
辺りが静まりかえり二人が構えた……と思ったら桐原がいきなり壬生の面を狙った。防具は着けてないので当たれば怪我では済まない可能性だってあるのだ。
「いきなりね」
「あれはブラフだな。桐原先輩に面を打つつもりは無い」
達也には桐原の面は壬生が避けることを見越した牽制だと思えたのだ。実際に決めにいくなら途中で勢いを殺したりはしないだろうから。
「準優勝でこれなら、優勝者はどれだけ凄かったんだ?」
「違う……アタシの見た壬生紗耶香の剣はこれじゃない」
目の前で繰り広げられている剣捌きを見て、達也は純粋に驚いたのだが、エリカの驚き方は達也のそれと少し違った。
「たった二年で此処まで腕を上げるなんて」
驚きながらも、好戦的な視線を隠しきれてない所をみると、エリカはきっと彼女と戦いたいんだろうなと達也は思ったのだった。
「どっちが勝つと思う?」
「壬生先輩だろ」
エリカの質問に、達也は一瞬の間を開ける事なく答えた。
「理由は?」
「技を制限して勝てるほど、二人の実力に差は無い。そして桐原先輩は面を狙えない分更に不利だ」
「なるほど……」
達也の解説に、エリカは納得したようにしきりに頷いた。そんなやり取りをしてる間に、互いが決めに掛かった。
「桐原先輩の小手は浅いな」
「達也君の言った通りだったね」
僅かの差で壬生の突きの方が深く決まっている。正式な試合でも壬生の勝ちだと判定されるだろう。
「諦めなさい、桐原君。真剣なら致命傷よ」
「真剣だったら? そうか壬生、お前は真剣勝負をお望みか」
負けを認めるように壬生が言うと、桐原は不敵に笑い出した。そして腕に巻いてあったCADを操作して、魔法を発動した。
「如何だ壬生、これが真剣だ! そしてこれが、剣道と剣術の差だ!」
かろうじて避けた壬生だったが、胴着が斬られている。ガラスを引っ搔いたような不快な騒音と、竹刀なのにあの切れ味、達也は瞬時に魔法の正体を見破った
振動系・近接戦闘用魔法『高周波ブレード』
そして休む間も無く桐原がもう一撃喰らわせる為に振りかぶった。
「あ、あぶな……」
エリカが叫ぼうとしたのと同時に、隣に立っていた達也がもの凄いスピードで二人の間に割って入った。そして次の瞬間には、闘技場に居た全員が激しい頭痛に襲われた。
高周波ブレードとは違った気持ち悪さを感じたエリカだったが、次の瞬間には気持ち悪さは無くなっていた。
「な、何今の……」
吐き気が治まった観客が次に見たものは、達也によって桐原が床に叩きつけられている姿だった。
「此方第二小体育館。逮捕者一名、負傷してますので念の為担架をお願いします」
「何で桐原だけなんだよ! 剣道部の壬生も同罪だろ!」
達也が二科生である事と、喧嘩両成敗と言う悪しき風習が交ざって、納得の出来ない剣術部が文句を言う。
「桐原先輩には、魔法の不適正使用の為に同行してもらいますが、壬生先輩は魔法を使用してませんので」
淡々と答える達也が気に入らなかったのか、剣術部の男子が達也に殴りかかった。だが達也は反撃もせず全ての攻撃をかわしていく。終いには同士討ちになって剣術部の男子はそろって床に倒れこんだ。
「クソ!」
その光景を見て頭にきたのか、残りの剣術部の生徒も達也に襲い掛かった。しかし達也には攻撃が当たらない。冷静な判断を出来てない上に専門外の攻撃の為に達也はかわすのに苦労しなかった。
「こうなったら…!」
打撃戦で駄目なら魔法を使うと言う安易は発想から、剣術部の生徒はCADを操作する。起動式が構築されたのだが、発動する事無く起動式は霧散していった。
「気持ち悪い……」
「もう、駄目だ……」
一人、また一人と倒れ、ついに達也は無傷で剣術部を屈服させた。ついでに相手にも怪我は負わせていない。
「凄い……」
達也の見せた動きに感動したエリカと、達也の見せた術に興味を持った男子生徒が残った第二小体育館での騒動は終わったのだった。
バイアスロン部に入部を決めたほのかと雫は先輩たちと一緒にデモの為に移動をしていた。
「あれ? 狩猟部の皆、如何したの? 顔色が悪いけど……」
途中裏庭で気分が悪そうな狩猟部のメンバーを見つけて、保険医を呼びに行こうとしたら、既に呼びに行っていた女子生徒が戻ってきた。
「安宿先生、早く!」
「落ち着いて明智さん。サイオン中毒なんて滅多に起こる事じゃ無いわ」
「今がその『滅多に』だったら如何するんですか!」
見るからに慌てている女子生徒と、おっとりした雰囲気の保険医が中庭にやって来た。ほのかと雫は成り行きを見守っていたが、如何やらサイオン中毒では無くサイオン波酔いだと言う事で一先ずは安心出来たのだ。
「実技棟二階の第八演習室を取ったから、そこで安静にしてなさい。これ鍵ね」
「あ、はい! ちょっと待ってください」
あくまでマイペースの保険医と、そのペースについていけてない女子生徒を見ながら、ほのかも雫も大事無くてよかったと一息ついたのだった。
次回は優等生のネタから入ります