劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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デレ度がアップしている模様……


久しぶりの会話

 何時ものように八雲の寺で身体を動かした達也は、例の吸血鬼騒動について八雲に訊いてみる事にした。

 

「師匠」

 

「いや~さすが達也君。まさか『纏衣の逃げ水』が破られるとは思って無かったよ」

 

「あれは何時もの幻術ではありませんよね?」

 

「やっぱり分かっちゃうのか。纏衣は本来、この世のものならざるモノの目を誤魔化す為の術だからね。如何いう仕組みかは……君ならすぐに分かると思うよ」

 

 

 八雲の話に苦笑いを浮かべた達也。自分が何を訊きたいかを先読みし、それに対抗しうる技を先に見せてくれたのだ。

 

「俺は人間なのですがね……」

 

「君は確かに人間だけど、『普通の』人間では無いだろ? 纏衣を打ち破る人間なんて、最早普通と言えないだろうからね」

 

 

 半分は冗談なのだろうが、八雲の表情は相変わらずひょうひょうとしており、真意を確かめようにも心の裡がハッキリと分からないのだ。

 

「藤林の御嬢さんなら何か分かるんじゃないかい?」

 

「叔母上に接触を禁じられていますので」

 

「それは『独立魔装大隊』に所属してる人間だからだろ? 普通に『藤林家のご令嬢』に会う分には縛りの範囲に無いと思うんだけどね」

 

「そんな屁理屈、叔母上に通用しませんよ。師匠だって分かってますよね」

 

 

 達也の避難するような視線に、八雲は楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「僕が言えるのはここまでだよ。これ以上はタダでは言えない」

 

「僧の癖に俗物ですよね、師匠って……」

 

「君がよく言ってるだろ? 僕は生臭坊主だからね」

 

 

 自虐的にそう言いながらも、八雲は本気でそんな事を思って無い。それは達也にもハッキリと分かっている。

 

「深雪くんを連れておいで。彼女にならタダで教えてあげるよ」

 

「深雪はここにはあまり来たがりませんので」

 

「そうかい……残念だね」

 

 

 深雪が来たがらない元凶は、間違いなく八雲なのだ。その事を分かってて行動を改めないあたり、八雲は楽しんでいるのだろうと達也は確信している。

 

「そういえば、アメリカでも似たような事件が起こってるんだろ? 確か、達也君のお友達がアメリカに留学してるんじゃなかったかい?」

 

「師匠は、パラサイトの発生原因がアメリカにあると?」

 

「だってアメリカから来てるんだろ? そのパラサイトは」

 

 

 分かりにくいヒントだけを残し、八雲はそれ以上何も話そうとしなかった。達也も心得ているのでそれ以上八雲からは聞き出そうとはしなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオを見舞ってから二日、エリカも幹比古も何か躍起になったように動いているのか、学校ではかなり疲れた表情をしている。

 昼休みになれば、エリカは机に突っ伏して小さな寝息を立て眠り、幹比古は昼食を摂り終えるとすぐに保健室へと向かう。その付き添いは美月に任せている。

 そして達也は、気になる事があるからとほのかにたのみ雫に電話を掛けてもらっていた。

 

「雫、いきなりごめんね」

 

『うん、どうしたの?』

 

「えっと、達也さんがね、雫にどうしても訊きたい事があるって」

 

 

 そう断ってほのかは達也に頷いた。

 

「すまないな、夜遅くに。メールにしようかとも思ったんだが、直接話さないと要領を得ないだろうから」

 

 

 現在の通信システムは、小さな携帯情報端末の上でも、直接顔を合わせているのと遜色ないクリアな映像を表示する。自分の携帯端末の画面越し、同時通話の機能を使って再会した雫の顔は、まだ一ヶ月も経ってないのに記憶にあるより少し大人びて見えた。

 

『大丈夫、まだ八時だよ』

 

 

 画面の中の少女が僅かに目を細めて笑った。相変わらず分かりにくい表情だが、彼らはその笑みが随分嬉しそうなものだと分かった。

 

『それで、なに?』

 

「ああ、ほのかに聞いたんだがそっちでも吸血鬼が暴れているそうだな。詳しい話を知っていたら教えて欲しかったんだ……雫?」

 

 

 画面の中で雫がコテッと首を傾げたのを見て、達也はつい呼びかけてしまった。

 

『……ああ、あのこと。じゃあ日本では本当に吸血鬼が出たの?』

 

「日本では?」

 

『アメリカでは今のところまだ都市伝説扱い。少なくともメディアは報道してない』

 

「単なるうわさでも構わない。出来るだけ詳しい話を知りたいんだが」

 

『何かあったの?』

 

 

 八雲と話して詳しい話が聞けるかもしれないと思った、などと達也は馬鹿正直には言わない。だが、異国に一人でいる少女に、友人が被害者となった事実を告げるべきではないとも達也は思っていたので少し迷った。

 

「レオが吸血鬼らしきモノの被害に遭った。幸い、命に別状は無いがな」

 

『そんな……』

 

「いや、大丈夫だから、そんな顔しないでくれ。レオは自力で吸血鬼を撃退したんだ。ただその際に相手の異能でダメージを受けて、今は病院で大事を取っている」

 

 

 達也の気休めも、決して上手とは言えない。だが雫の表情は明るいものへと変わっていた。

 

『本当に大丈夫? 良かった……そっか。だから達也さんはこっちで何が起こってるのか知りたいんだ』

 

 

 疑問形ではなく断定形で訊ねる雫に、達也は肯定を返す。

 

「ただ、如何してもって訳じゃないからな。本当に分かる範囲で良いんだ」

 

『でも達也さんはアメリカに手掛かりがあると思ってる。違う?』

 

「手掛かりというか、正直に言えば吸血鬼事件の犯人はアメリカから来たと思ってる。だから余計に危険な真似は慎んで欲しいんだ、雫。くれぐれも危ない橋は渡るなよ。そっちの情報が必須というわけじゃないんだから」

 

『……うん、無理はしない。だから期待しないで待ってて』

 

「念の為訊くが、期待しないで待つのは情報の方だよな? 危ない真似をしないことに関しては信じて良いんだよな?」

 

『もちろんだよ。達也さんに怒られたくないもん』

 

 

 雫はバカでも怖いもの知らずでもないが、改めて念押ししてもなお、何となく不安なのだった。通信を終え、達也が視線を深雪とほのかに向けると、二人は何処となく不満げで、何処となく不安げだった。

 

「どうした?」

 

「雫、随分と嬉しそうでしたね」

 

「ほのかや深雪と会えたからじゃないのか?」

 

「お兄様、惚けるのはおやめ下さい。どう考えても雫はお兄様と話せた事が嬉しいって表情でした」

 

 

 深雪からの追及を肩を竦めて誤魔化し、達也は不自然ではない速度で教室へ戻るのだった。




やはり雫は可愛い。可愛いは正義だ! ごめんなさい、ちょっとテンションがおかしかったですね……

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