劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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物騒なタイトルだ……


吸血鬼狩り

 都内で被害者を出し続けている吸血鬼事件に対して組織的な対応を取っている勢力は、エリカの知る限り三つあった。

 一つ目は、警視庁を主力とし、警察省の広域特捜チーム(通称日本版FBI)と、同じく警察省配下の公安が加わった警察当局。

 二つ目は、七草家が音頭を取り十文字家が続く形で組織された十師族の捜査チーム。彼らは内情(内閣府情報管理局)のバックアップを受け警察とも部分的に連携している半官半民の勢力だ。ただしこの場合、常と異なり「民」の方が上の力関係だが。

 そして三つ目が、古式魔法の名門・吉田家の協力を得て千葉家が組織した私的な報復部隊。つまりはエリカたち自身である。

 

「やっぱり先輩たちに協力した方が良かったんじゃないかな……?」

 

 

 千葉家が吉田家に対する非公式な、けれども正式な要請によって、急遽協力者に任じられた幹比古は、昨日から通産で丁度十回目になる質問を投げかけた。相手は言うまでも無く、この一件に関する彼のパートナー、エリカだ。

 

「街路カメラをはじめとする防犯システムをフルに使える警察が尻尾を掴めないでいるのよ」

 

「人手を頼るにしても、連携が無いよりあった方が良いと思うけど」

 

「だからこうして協力をお願いしてるじゃない」

 

「いや、僕たちだけじゃなくって……」

 

 

 幹比古はエリカに道案内、ではなく「道占い」役として同行しているのだ。

 

「やみくもに歩きまわってるだけじゃ、埒が明かないと思うんだけどなぁ……」

 

「ミキ、どっち?」

 

 

 独り言であり愚痴をこぼした幹比古に、エリカが十字路で足を止めて振り向いて訊ねた。もう少しこまめに訊いてほしいなぁ、と内心ため息を吐きつつ、幹比古は手に持った三尺の杖を歩道に付き立てた。

 ちなみに、「ミキ」という呼び方については、リーナにデフォルト設定された時点で諦めており、エリカがその愛称で呼んでも反論はしなくなっている。

 

「コッチね……」

 

 

 幹比古が突き立てた杖が十字路の右方向に倒れたのを見て、エリカはその杖が指した方へ足を向けた。幹比古を待つ、どころか振り返りもしないで。

 幹比古は苦笑いを浮かべながら杖を拾いエリカの後を追いかけた。

 

「(念のために……)」

 

 

 幹比古は懐から情報端末を取り出した。通信機能の設定はシグナルモード。識別信号を発信して自分の位置をグループ登録された端末に通知するモードになっている事を確認して、懐に戻す。

 

「(近いな……)」

 

 

 標的に近づいている事を予感して、幹比古はもう一度端末を取りだした。呼び出したのはシグナル通知先のグループリスト。そこへアドレス帳から新たな通知先を一つ加えて、幹比古は今度こそ端末をしまい込みエリカの隣に並んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケープ付きのロングコートと目深にかぶった帽子。帽子の下は灰色の生地に黒のコウモリを描いた顔の前面を隠す覆面。元スターズ衛星級デーモス・セカンドのコードを与えられていたチャールズ・サリバンは、新たに獲得した身体能力の全てを使って必死に逃げていた。

 だがどれだけ力を振り絞っても、逃れる事は出来ない。彼を追いかけているのは星屑のハンターではなく、夜空で最も明るく輝いている星のコードを与えられた処刑人だった。

 サリバンを追う赤い髪、金色の瞳、仮面の魔法師。アンジー・シリウスに姿を変えたリーナに、幾度となく想子のノイズを浴びせられる。そのたびに彼女自身の感覚はサリバンを見失うがテレビ中継車に偽装された移動基地の想子レーダーがサリバンの居所をがっちり捉えて放さない。

 

『総隊長、次の角を右です』

 

「クレア、レイチェル、サリバンの正面に回りなさい」

 

 

 リーナが通信機に呼びかける。クレアはハンターQ、レイチェルはハンターRの仮名だ。コードで呼ぶ事を嫌うリーナが便宜的につけたもので本名ではない。なお「クレア」の頭文字は「Q」ではなく「C」だが、あくまでも仮のものなのでリーナも本人も問題視しなかった。

 二、三十メートル先で魔法戦闘の気配が生じた。リーナにとってこの距離は既に間合いの内。彼女はサリバンの位置を完全に捉えていた。

 真夜中に近いとはいえ人目が全くないわけではない。だがそんな事はモーターバイク並みのスピードで追いかけっこしている時点で配慮の外。そしてリーナの武器であるダガーは黒く艶消しされているので日中でも目立たないのだ。リーナは隠す素振りもなくダガーを投擲した。

 サリバンは自分に向かって飛んでくる刃を寸前のタイミングで知覚した。吸血鬼の身体能力を以てしても躱す時間は無い。だがサイキックの能力を取り戻した今のサリバンなら、得意の物体干渉はまだ間に合う。

 そう判断してサリバンはダガーに集中した。振り向いた背中へ戦闘中だったハンターが突っ込んで来る。同士討ちだと念じたが、彼の軌道屈折術式は、リーナの移動術式にわずかも干渉する事が出来なかった。事象干渉力のレベルが違いすぎたのだ。

 自分の力が通じない事を覚ってサリバンが咄嗟に掲げた右腕に、リーナのダガーが深々と突き刺さっていた。硬直するサリバンの身体。その背中をハンターRのコンバットナイフが抉る。ただの人間なら致命傷だった。

 だがサリバンは腕を横殴りに振り回してナイフを握ったままのRを撥ね飛ばした。そこへ姿を見せる仮面の魔法師。金色の瞳が覆面からのぞくサリバンの両目を射抜く。足を止めたリーナが拳銃を抜いた。

 不意に街路樹の陰からリーナへ電撃が放たれる。QもRも、リーナも気づかなかった完全な奇襲。だが電撃は閃いただけでリーナの身体に届く事は無かった。リーナが反射的に展開した領域干渉で吸血鬼の魔法を無効化したのだ。

 

「(ごめんなさい、サリバン)」

 

 

 リーナの指がトリガーを引いた。情報を強化された銃弾が、全ての防御を無視してサリバンの心臓を破壊した。

 

「(逃がさない)」

 

 

 その戦果の余韻に浸る事無く、リーナは再びスタートを切った。彼女の目は、電撃を放った吸血鬼の、遠ざかる背中に固定されていたのだ。




戦闘シーンはバッサリいきました

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