劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今度は完全に密会です


密会

 深雪と二人で駅を出て友達と合流して学校へ向かう。年明けから一人、先週からもう一人メンバーが欠けてしまってるが、それ以外は春から続く何時もの登校風景だ。

 

「あっ、達也く~ん!」

 

「………」

 

 

 だが今日は何時もと違う風景がそこにはあった。改札を出て友達を待つ前に声を掛けてきた上級生の声。それが誰なのかは確認する前から――声を掛けられる前にその人がいる事に達也も深雪も気が付いていた。

 

「えっとね、あとで時間欲しいんだけども大丈夫?」

 

「具体的にどのくらい時間を割けばいいんでしょうか?」

 

「放課後の少しの時間で良いわ。クロス・フィールド部の第二部室に一人で来てちょうだい」

 

「分かりました」

 

 

 達也の返事に満足したのか、真由美は大きく頷いてその場から移動していった。周りにいる第一高校の生徒たちには、真由美が達也と何かを約束した雰囲気だけ伝わっており、そこからは年相応にゴシップネタに展開しているのだが、実際はそんな甘い雰囲気ではないのだ。

 

「お兄様」

 

「そう言う訳だ。終わり次第生徒会室に行くから」

 

「分かりました。私は生徒会の仕事をしていますね」

 

 

 真由美に「一人で」と言われたのを聞いていた深雪は、一緒に行きたい気持ちを押さえてそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、達也はクロス・フィールド部の第二部室へやってきた。

 

「独りか?」

 

 

 部室に入るなり克人がそう訊ねてきた。横にいる真由美も同じような疑問を抱いてる顔をしていた。

 

「呼ばれたのは俺だけですから」

 

 

 本当は深雪も来たがっていたのだが、達也に宥められしぶしぶ諦めたのだ。その代わりに週末にデートすると約束を取り付けたのは言うまでもないが……

 理由はどうあれ達也は約束通り独りで部室にやってきているのは見ての通り。深雪がついてこなかったのは予想外だったが、真由美はそれで時間を浪費する事も無く本題に入った。

 

「達也君、昨日の晩外出しなかった?」

 

「外出しましたよ」

 

「バイクで?」

 

「ええ」

 

「……何処に行っていたか教えてもらってもいいかしら」

 

 

 思ってたよりも達也がすんなりと答えるので、真由美の方が困ってしまっていた。腹の探り合いをするには、腹黒さと経験が足りていないようだった。隣に控えている克人は、そもそもそう言う事に向いていない。

 このままでは長引きそうだったので、達也はさっさと話を勧める事にした。

 

「件の吸血鬼と交戦中の吉田に呼ばれて、その場で吸血鬼とそれを追っていたであろう正体不明の魔法師とやり合いました」

 

 

 目を白黒させている真由美に、感情の読めない眼差しを向ける。多分もっと人生経験豊富な大人でも、達也の内心を読み取る事は困難だっただろう。

 

「何時からだ」

 

「昨日は呼ばれたから駆け付けただけです。俺は吸血鬼の捜索に加わっていません」

 

 

 聞かれていない事まで付け加えて達也は答えた。克人と真由美がどう思ってるかに関係なく、達也には今この場で腹の探り合いをする意思は無かった。

 

「お二人とも1-Eの西城が襲われたのはご存知ですよね? いったい何が起こっているのか、知りたいと思っているのは俺だけじゃありません。犯人を見つけて、引き渡して、それで終わりでは到底安心出来ません」

 

 

 二人に向けた喋っていた達也は、不意に視線を真由美一人に向けた。

 

「先輩のところでどの程度まで把握していて、どう決着をつけるつもりなのか、それを教えて頂けない限り協力は出来ません」

 

 

 達也に先手を取られて、真由美は諦めたように溜め息を一つ吐いて作り笑いを消した。

 

「達也君が協力を約束してくれたら、私たちが掴んでいる情報を教えるわ。ただし、分かってると思うけど他言無用よ」

 

「了解です。協力しましょう」

 

「……それは私たちの捜索隊に加わってくれる、ということ」

 

「そう理解していただいて結構です」

 

「何故急に? 師族会議の通達を見なかったわけではあるまい」

 

「百家の人間でもない自分が出る幕ではないと思いましたので。直接依頼されれば別ですが」

 

 

 師族会議の通達を達也が見ている事を確定事項として話を進めた克人に対し、達也は否定もせず白々しい回答をした。建前としては完璧とは言えないが、文句をつける箇所も無い回答だったため、克人も真由美も形の上では頷くしかなかった。

 経験の多寡以前に、元々の性格の悪さが達也と真由美、達也と克人では違うのだろう。

 

「でもいいの? さっきは協力する前に情報を開示する事が条件だって言ってたと思うんだけど」

 

「どちらかが折れなければ話が先に進まないでしょ。騙されたと判断すればこちらも掌を返すだけです」

 

「達也君、性格悪すぎよ」

 

 

 彼女から話を持ちかけた密談だったが、真由美は既に早く終わらせたいと思っていたのだ。普段なら兎も角、今の達也と一緒にいるのは疲れると思っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情報を開示し、達也には単独行動をしてもらう事で話はまとまり、達也はさっさと第二部室から姿を消した。残った真由美と克人は、達也について話しあっていたのだった。

 

「どうして達也君に単独行動をさせるの?」

 

「その方が効率が良いと考えたからだ」

 

「でも今のままじゃ千葉家の方に与するかもしれないわよ」

 

「こちらが本当の事を言わなければそうなっていた可能性もあるだろうが、我々が誠意を見せている間は、司波も我々を裏切りはせん。アイツはそういう男だ」

 

「徹底したギブ・アンド・テイク? 微妙な信頼ね」

 

「武士の忠義ですらも、元をたどれば御恩と奉公、つまりはギブ・アンド・テイクだ。盲目的な服従よりも余程信頼出来ると俺は思うのだがな」

 

「……絶対的な忠誠心の根底にあるのは『依存』だしね。そんなもの達也君には期待できないし、第一似合わないか」

 

「七草がアイツを惚れさせて依存させれば期待できるが、アイツはそのような感情が見られないからな」

 

 

 克人の冗談に真由美は顔を赤く染め上げる。だが言った本人である克人は、何故真由美が顔を赤らめているのか見当がつかず首をかしげたのだった。




再び天然克人君の攻撃、真由美は見るからに慌てている

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